31 ぐうたら姫
部屋でじっとしているのも飽きてきた。
以前は弘徽殿女御のお誘いもあったが、今は危険とのことでそのお誘いも控えられている。そうすると、綾は出かける用事もなく、一日中部屋に籠ることになる。
元々、そういった生活を望んでいたとはいえ、いざする事がないとどうすればいいのか迷ってしまう。
最近の唯一の楽しみは綾の心を見透かしてか、東宮からは毎日のように色々な物が届けられ、その訪れを毎日待つ暮らしになっていた。まるで、殿方の訪れを待ち焦がれる女性のようで、自分がそんな心境になるのが驚いている。
「姫様、お願いですから部屋から出ないでくださいね。約束ですよ!」
そういって香奈は誰かに呼ばれて先ほど出ていってしまった。
昨日、簀子縁で寝ていた綾を見つけた頭中将は大変驚いたらしい。ただ、そこは公達らしく綾を運ぶのを手伝おうかと申し出てくれたが、香奈は東宮妃の綾が他の公達に抱きかかえられて部屋に入ったと噂になってはと丁重に断り、他の侍女たちと一緒に綾を運んだと言っていた。
香奈が昨日、綾に頭中将が運んだと言ったのは少しでも反省してほしかったからだと言っていた。
その為、今朝から香奈は絶対に部屋から出るなと何度も言ってくる。そして、他の侍女たちも部屋の外で睨みを聞かせて綾の行動を監視している。
香奈が出かけた後、香奈が頭中将と会っているのかと気になってそっと御簾から顔を出したとき、いつもの護衛と目があった。
その護衛は綾の顔を見るとチッツと舌打ちをしているのが聞こえて、綾はそっと部屋に戻った。
軟禁状態だ。
なにも悪いことをしていないはず……。
そのまま床に寝転がる。大の字になって寝転がり、天井を見た。
何も解決していないのに兄はもうすぐ東宮に会えると言っていた。
どうするのだろうか。
冬香が殺され、その犯人も見つかっていない。冬香が襲撃に関わっていることが分かり、承香殿では検非違使たちの捜査が女御の部屋にまで及んだと聞いている。
柾良親王はまた体調を崩すようになったと噂を耳にした。柾良親王の病のことは未だ誰の仕業かも分かっていない。
東宮には考えがあると頭中将は言っていて今はその為の捜査をしているのだと。
藤壺はあれから落ち着いていて、直貞親王も藤壺女御の手元で元気にしていると連絡があった。
狙いは東宮妃である自分なのか柾良親王なのか……。
分からないな。
「あっ!」
頭中将が部屋に入ってきて床に寝転がる綾と目があった。
「わははははは」
頭中将はお腹を抱え大笑いされ、香奈が飛んできた。
「姫様!」
のそのそと起きだして、部屋の奥のいつもの場所に座りなおす。
昨日から変なところばかり見られている。
「いや~。綾姫様がこんなに楽しい方だとは思いませんでした」
嫌味か!
綾は今更だが、扇で顔を隠す。
「もう、姫様。いい加減にして下さい」
香奈は綾の前に梨を置いた。
「これは?」
話題を変えたくて聞いた。
「東宮様からの贈り物です。昭陽舎のお庭でなっていた梨だそうです。東宮様自ら東宮妃様の為に収穫されたそうですよ」
一口大に切られた梨は冷たく、美味しかった。綾は梨をほおばりながらもう少し東宮妃らしく振舞おうと心に誓う。
「香奈、ごめんね」
綾はみんなに心配させていることに申し訳なく、大人しく部屋に籠っていようと反省した。
「ところで、頭中将様は何か用があったのではないのですか?」
綾は梨を食べきってしまってから思い出したように聞いた。
「橘時平、護衛の一人ですがその者が昨夜、式部卿宮様からの文を持ってきました。東宮妃様にと」
頭中将から渡された文は式部卿宮というより北の方、桜子からだった。
「会って話がしたいと書いてあります」
桜子からの文では内密に会って話がしたいと書いてあった。
先日のお礼も出来ていないので話はしたいと思うが、今の状況はどうだろうかと疑問に思う。
「まずは私が話を聞いてきます。もし、何か罠だとしたら貴方だけでなく東宮様も責任を問われます」
「分かりました。桜子様のお話が分かったらすぐに知らせてください」
手紙を持ってきた人物は綾たちが探っていた護衛だ。結月が屋敷に戻ってからも香奈がそれとなく調べてくれていたが特に怪しいところはなかった。それでも、用心に越したことはない。
「もし、東宮妃様におでましいただくときは東宮様の許可をいただかなければいけません。ですからこのことは内密にお願いします」
「分かりました」
頭中将はすぐに動くようで退出する。
「姫様、東宮様からこの麗景殿から出なければいいと伝言がありました」
「この部屋でなくてもいいということ?」
「う~ん。そういうことだと思います。ただ、護衛たちにはどこにいるのか知らせるように、だそうです」
何処にいてもいいのか……。
綾はふとあることを閃いた。




