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25 偵察

 直貞親王を見送った直後、頭中将が部屋にやってきた。


「少し待っていて!」


 綾はそういうと急いで準備をする。綾と香奈は手に薙刀を持った。

 二人が手にしているのは小ぶりの薙刀で、室内で使うために綾の母、由比が考案して加工されたものだ。


「お待たせしました」


 頭中将の前に出ると、少し驚いていたがすぐに硬い表情になった。


「まさか、私の提案に乗ってくれるとは思いませんでした」


 綾は素直な感想を伝えた。これからやろうとしていることを反対されると思っていたからだ。


「東宮様にもご報告いたしました。そのうえで、東宮様からお許しをいただいております」

「東宮様もご存じなのですね」


 どおりで話が早いと思った。綾たちが今から行くところは決して安全ではない。その為、兄の協力が欲しいところだったが、兄、良智は東宮様からの密命を受けて別のところにいると言っていた。ただし、東宮からは護衛を密かに見張らせておくと伝言を貰っている。

 時間がないので、足早に移動する。


 直貞親王を戻すにあたって、人目につかないように深夜に行われている。

 静まり返った簀子縁を歩き、目的の殿舎に到着する。


 予め調べは済んでいる。

 承香殿の柾良親王が以前使っていた部屋だ。今は、ここの女房達も柾良親王が別の場所に移動していることを知らされているので、ここに立ち入ることはない。


 頭中将が蔀をそっと開け、中の様子を窺っている間、綾と香奈は周囲に注意を向ける。先日までの祈祷が嘘のように静かだった。庭の木々に隠れて、数人の護衛がこちらを見張っているのが確認できた。東宮様が伝えてきた護衛たちだろう。念のため人数を立ち位置を確認しておく。


「大丈夫です」


 頭中将の合図で、三人が部屋の中に入る。それぞれが部屋の中の様子を確認する。


 綾は以前、柾良親王が寝ていた場所を見て回った。

 調度類も運び出されたと聞いていた通り、何もない殺風景は部屋で、柱のいくつかに貼ってあったお札も既に外されていた。


 中務卿から報告のあったように、柾良親王が寝ていた場所の床が変色していて、何かあったことを物語っていた。


「東宮妃様……」

「頭中将様、人に聞かれては困るので、ここでは高子でお願いします」


 綾は見つかったときの言い訳が通る名前を告げる。


「では、高子殿。こちらをご覧ください」


 頭中将が指さすところは、床板が少しずれていた。


「高子様、これは」

「床下からこの部屋に入り込んだ形跡ですね」


 すぐそばで香奈は土を見つけた。綾たちは顔を見合わせ、大きく頷く。

 三人が三様にその床から少し離れて息をひそめて待った。


 きっとくるはずだ。綾と香奈は薙刀を、頭中将は刀を構えた。

 遠くで声がした。声が近づいてくる。


「追え!」


 足音と灯りが部屋の前を通り過ぎる。検非違使たちが不審者を追っているのだろう。

 藤壺女御と直貞親王のことが気になるが、今は目の前のことに集中した。


 庭に再び静けさが訪れた時、床板が動いた。

 三人はそれぞれ、物陰に隠れているので侵入者には気づかれていないはずだ。


 侵入者の一人は床下から顔を出して、部屋を見渡すと軽やかに部屋に入ってくる。周囲を見渡している間に二人目、三人目が部屋に入ってきた。

 四人目が入ってきた時に綾たちは一斉に侵入者を取り囲んだ。


「動かないでください!」


 綾と香奈が一瞬の内に侵入者たちが持っていた刀を打ち落とす。頭中将は五人目の侵入者の手を足で踏みつけて抑え込む。

 侵入者の一人が隙を見て逃げ出そうとしたとき、蔀が大きく開け放たれた。


「動くな!」


 兄の良智と例の護衛が部屋に入ってきて、侵入者たちを取り囲む。


 護衛と良智が侵入者の身柄を拘束して、次々と部屋の外で待つ検非違使に引き渡している。その間、綾と香奈は薙刀を侵入者に突き付けて動かないように見張っていた。


 頭中将は五人目の侵入者を引きずりだし、拘束して部屋の外へと連れていこうとしたとき、床下からもう一人、入ってきて、頭中将めがけて刀を振り上げた。


「中将、危ない」


 綾が叫ぶと同時に香奈が動いた。

 六人目の侵入者は香奈の振り上げた薙刀に命中してその場に崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」


 綾と香奈が頭中将に駆け寄る。検非違使の一人が倒れた侵入者を拘束している。


 頭中将は後ろで血を流している侵入者を一瞥して、頭中将が連れていた五人目の侵入者を検非違使に引き渡すと、そっと、片膝をつき、香奈に礼を言った。

 公達にここまでのことをされたことのない、香奈は困り果てている。


「助けていただき、ありがとうございます。このお礼は日を改めて」


 それだけを言うと、綾たちを部屋まで送ると言ってきた。


「頭中将、私たちはこれからこの者たちの尋問に立ち会います。東宮妃様をお願いします」


 良智が頭中将に言い、例の護衛と共に部屋を出ていく。


 それを合図に、庭に控えていた護衛たちが、綾たちを取り囲むようにした。綾は何があったのか詳しく聞きたかったが、素直に部屋に戻った。

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