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91話 断罪人②

続き


 断罪人とテロリスト3人組のぶつかりが更に激しさを増す。

 両者一歩も引かぬ交戦攻防、俺は夢中になりその姿を追った。


「Zulu、有効射程範囲を保て。X-RAY、Victor両者共に先行しすぎだ。十秒毎に連携の齟齬が生じている」

「了解しましたOscar」

「チッ、分かった」

「…………ああ」


 断罪人の中で会話が為される。

 リーダーのOscarから残り三者へのオーダーが逐一入る。

 NPCの彼らといってもそれぞれ喋り口調、性格が違うようで戦闘スタイルもまた違う。

 Oscarは謎の糸を四方に張っているようで、側からだとあまり戦闘に参加していないように見えた。

 次いでVictorは太刀を振り積極的に敵を追い詰める。

 X-RAYも武器種は大鎚と違うもののVictorと変わらずの近接型だ。

 最後にZuluだが、唯一の女性型のNPCで2丁拳銃を巧みに使い空中を舞っていた。

  

「兄貴、俺たちだけスキルが使えないのはだいぶ分が悪いぜ……っクソ!」

「あのOscarって野郎! 一番タチの悪い戦いするっ……周りの下位の犬共もウザいっすねっ!」

腑抜(ふぬ)けたことほざいてんじゃねぇよっ!! 速攻でぶっ潰せっ! 馬鹿やろぉぉおお!!」


 息を吸うが如く互いの連携が取れた白い閃光。

 対するのが荒々しくも研ぎ澄まされた各々の個人技で応戦するテロリスト3人組だ。

 

 だが、丁度10分程経過したところ、遂に微小だった実力の差異がどんどんと開きつつあった。

 と、いうのも巨漢に比べテロリスト2人は若干見劣りしていたのだ。

 むしろ巨漢がカバーするような形で均衡を保っていたものの、時間経過と共に2人の勢いが段々と失速してきた。



 そして遂にーーーー



「【怨敵退散ー蜘蛛ノ糸】」


 Oscarと称されるリーダー格の断罪人の男が彼らの1人を捕らえた。

 終始、手元から張り巡らされ続けていた白糸。

 最初は単純な拘束攻撃だと侮っていたが時間が経つにつれて複雑化し足元を取られたのだ。

 この一瞬の出来事で形勢が一転する。


「対象を確保」

「っ!? やらかしたあああ! 兄貴達、やばい助けてっす!」

「お前っ!? 何やらかしてんだよ!? ちょっと待ってろ。兄貴、俺がカバーすーーーー」

「……っクソ野郎! 今そっちに割く余力ねええだろっ!! 捨てておけっ!」


 余裕がなくなりつつあるのか巨漢がそんなことを怒号する。

 片割れもその反応に若干の動揺を見せるが、割り切ったのか仲間の声を無視して交戦へと舞い戻る。


「終わりだ。【夢世界乃退場(ギルティー)】」

「…………え? 兄貴い“い”い“! ヤダ、ヤダ、やめでぐれえええええ! 話と違うじゃないッズガアアアア! バンは嫌ダアアアアア”!!」


 間も無くしてひとつの断末魔が鳴り響いた。

 どんなに勝算があろうが、セカンドワールドでのテロ行為をするなどかなりの覚悟はあった筈。

 だが永久バンという言葉の意味をはじめて身に沁みて感じとった時、感情の崩壊が起こったのだ。


 ここ数年はセカンドワールドこそが生きる価値を見出すことができたという人間も数多くいる。

 永久バンは『今後一切、この夢のような世界に来れない』というネットゲームの域を越えた人権の剥奪となりうるのも過言ではない。

 こうなるなら『初めからやるな』とは簡単に言えるが、それが分からず短絡的な行動にでる人もまたいるのは事実。

 それはもちろん良くも悪くも世界中の人々が集うオープンワールドだからだ。


「私とZuluは主犯格、VictorはX-RAYを率い残1名の断罪に当たれ」

「…………支持する」


 そうこうしているうちにOscarが次の行動をオーダーする。

 すると、二手に分かれ2vs1の有利な展開へと戦況が変化した。


 この状況はもう1人の片割れにはだいぶきつい様子。

 完全に防御態勢へと入ってしまい一撃一撃を押し込まれて苦悶の表情を浮かべている。

 対するVictorとX-RAYは獲物を狩る獣の如き攻撃を絶え間なく繰り出していた。


 巨漢にとっては2vs1は片割れのフォローが要らず実質的な負担軽減の策だった。

 が、Oscarの勢いがドンドンと上がっていて張り巡らされた糸に捕まらないように随分精神を減らしている様子。

 片割れ程までは行かなくとも先程までの圧倒的で余裕を浮かべた狂信的な笑みは消えていた。



 そしてーーーー



「チッ、完全に瓦解したな。期待外れだ。Victor、止めはくれてやる」

「…………支持しよう。【夢世界乃退場(ギルティー)】」

「や“め”ーーーーグウウアアアアア!!! アアアアアアア“ァァァァァ……」


 2人の猛攻に耐えられなくなり遂にもう1人も光の泡となって消えていった。

 呆気なく2人目も脱落となり、横目でそれを見ていた巨漢は舌打ちする。

 4vs1となり流石に焦っているのか虚空に向かって訳もなく喚き出した。


「おいっ!! なんで【レジスタンス】の野郎は来ないんだよっ!! さっきからずっと応援要請出しているだろうがっ! 裏切りやがったのかあのクソNPC!! クソがぁぁ!!」

「Zulu、私に合わせろーー【操糸】」

「了解しましたOscar。【双銃撃(ツインショット)】」

「アア“!? ちょこまかと鬱陶しいんだよ小娘と陰湿野郎っ!! ゴラアアアア!!!!」


 いつの間にかレジスタンスという謎の存在に助けを求めていたようだが反応はない様子。

 算段が狂ったようで荒々しく怒声を上げていた。


「…………コードネームOscar。…………これよりVictor、X-RAYの2名の参戦を要請する」

「否、Zuluの初任務だ。作戦の変更はない」

「あぁ?? 大丈夫なのかよーーーー」

「…………これに支持する。X-RAY、これより戦闘終了時及び緊急時まで待機」

「Victor、X-RAY感謝申し上げます」


 断罪人ら4者間で話し合いがもたれた。

 どうやら形勢は4人と好転したものの当初の2vs1の作戦を強行するよう。

 公的なNPCに新人という概念があるなんて驚きだが、あの女性型断罪人Zuluが実はそうらしい。

 つまりこの戦いは彼女にとっては初陣戦なのだが、あの凄まじい動きはそんな言葉とは究極的にかけ離れていた。


「おい、随分と舐めてくれるじゃねえかよ! コイツらがブッ壊れて後悔しても知らねえぜ? なあぁぁぁ!!」


 すると、巨漢が痺れを切らしたように突貫してきた。

 双方の肩にはいつの間にか取り出していた片手剣、片手斧があり2人の姿をとらえている。

 さっきの話を一応聞いていたのか狙うのはやはり初陣のZulu。

 先に敵の頭数を減らしたいのかリーダーのOscarを完全に無視している。


「さっきから遠くからちょこまかとウザってえぇんだよっ!! 女ァァァ!!」


 巨漢から斬撃が放たれる。

 これをZuluは一太刀も浴びることなく翻していくがーーーー


「隙ありイィィィ!!」


 すると突然、巨漢の手から片手斧と片手剣が放たれた。

 どこか見覚えのあるこの戦法。

 正面に相対していたZuluにはあまりの大振り故、危なげなく避けることができたが……狙いはOscarの方だった。


 彼は手から出した無数の糸で雁字搦めし徐々に敵を追い詰めていく戦闘スタイル。

 空間に張り巡らされたその糸の罠は既に回避できるようなスペースは無くなっていた。

 先程から唯一彼だけがその場にずっと立ち尽くしているように見えたのは正にそのこと。

 Victor、X-RAYを完全近距離型、Zuluを遊撃型と称すなら彼は完全固定砲台の中遠距離型だったのだ。


 回避は不可能、となれば彼が徹するのはーーーー


「【繭籠ーー蚕ノ糸】」

 

 黒一つない真っ白な糸がOscarを何十層にも囲み高速で積み重なっていく。

 そして5秒も経たないうちに白い円球が出来上がり、彼の姿は見えなくなっていた。


 罠糸を断ち回転して飛んでくる両刃。

 糸に触れるたび確かに減速してはいるがその勢いは全くもって留まらない。

 

 あと一寸、そんな目と鼻の先の間近に迫った時、遥か彼方の遠方の方から光速で迫りくる何かがあった。

 その戦いを夢中になって見つめていた俺の横を過ぎ去り、野次馬の群衆の中を抜けていく。

 傍で控えていた断罪人らも咄嗟に反応することが出来ず、侵入を許してしまう。

 張り巡らされた糸の隙間を抜け、糸繭の中のOscar目掛けて飛んでいく。


「よくやってくれたレジスタンスっ!! 終わりだ陰湿野郎ぉぉ!」


 すると、巨漢がさっきまでの深刻そうな笑みを一変させ笑みを浮かべ叫ぶ。

 こんな圧倒的不利状況で何を言っているのか疑問を抱いたが、次の瞬間その意味を理解した。



“バシュンッ……バシュンッ!!”



 刹那、どこか異質な断切音が空気を揺らす。

 目の前には焼き(ただ)れ炭化した繭と首と胴体を切断されたOscarが空中を舞っていた。

 さっきのアレはOscarの防御を解くためのものだったのだ。

 神域星ではプレイヤーはスキル、魔法は使えない筈なのにOscarは明らかに火魔法を受けた外傷がある。



 地に伏し動かなくなった断罪人リーダーOscar、周囲が再び大混乱に陥るのに時間は要らなかった。




年末年始は忙しく……

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