9話 幼馴染①
少し遅れました。
4限目の終了のチャイムがなる。
昼休憩の時間だ。
教室の中の張り詰めた空気感が一気に崩れ騒がしくなる。
昼ご飯を購買に買いに行く者達。
学食に友達グループと一緒に食べに行く者。
教室で席をくっつけて、弁当を広げて食べる者とまちまちだ。
その多くのグループ分けとなるのがセカンドワールドでの交流関係だ。
ダンジョンがなんやら、イベントがなんやら、レベル上げがなんやらと会話が生成されていく。
昨日までの俺はそれを傍観するしかなかった。
だが今日は違う。
周囲の会話に耳を傾けてみれば有益な情報が流れてくる。
初心者だが多少なりとも理解することもできた。
俺は教室の端っこの席に居座っている。
今日もまた菓子パンにかぶりつきながらこの時間を過ごしていた。
セカンドワールドを始めたなら誰かに喋りかけてみればいいじゃないか?
なんて思うのかもしれない。
だが、交友関係を一から作るには相当の勇気がいる。
一年前の入学当初、セカンドワールドをやっていないということで親交の隔たりができてしまった。
今からそれをどうにかしようとするのは、いささか面倒な話だ。
こんな半鎖国状態でも今の今までやってこれたんだし、これからもそのままでいいだろう。
そんなことを思い今日のバイトやこれからの日程を考えていた。
すると人影が近づいてきた。
空いていた前の席にドカッと座り、こちらに喋りかけてくる。
「カイセイ! ユキっちから聞いたぜ! お前ついにセカワやり始めたんだってな?」
いきなり俺に向かって太々しい態度をとってくる男。
耳にリングピヤスをあけ、色抜けしたプリンヘアの金髪。
俺の数少ない幼馴染の親友、【雷門翔】だ。
「いつからユキっちなんて馴れ馴れしく呼んでるんだ? 人の可愛い妹に悪い虫がつくのは見過ごせないな」
「ハハっ、親友を虫呼ばわりか? お前の妹好きも筋金入りだな」
「冗談に決まってるだろヤンキー」
「流石に嘘だよなって……おい!」
こんな風に笑いながらも冗談を言える友達はコイツともう一人だけ。
セカンドワールドが出る前からの古い関係だ。
セカンドワールドをやっていなかった俺に対しても積極的に話しかけてくる。
そんな存在が少し面倒臭いながらもありがたかった。
「そんなことよりセカワ! セカワの話だよ。まだ結構弱っちいんだろ? レベル上げ大変だろ? 手伝ってやろうか? 一緒に中級ダンジョンでも回ったら結構いい稼ぎになるぜ」
翔は雪と同じで俺と一緒にセカンドワールドで遊びたいと前々から言っていた。
だが寄生プレイというのは気が引ける。
「そのうちな。俺がとりあえず、もっとまともに戦えるようになってからな」
「そうか。支援職じゃなくて自分で戦えるんだったらいい。そう言えば、ジョブなんだったんだ? 俺はちなみに【騎士】だぜ」
翔が俺の机に寄りかかり耳を向ける。
「双対の戦士とかだったな。レベルは32。ユキが言うには良いとかって言ってたな」
すると、ガタンっという音が聞こえてきた。
何事かと思うと翔が椅子からずり落ちていた。
「ショウ……お前、まともに椅子にも座れないのか?」
「はぁぁ? カ、カイセイ……お前、いきなり属性ジョブでも貰ったのか!? それに初日で30レベル超えってなんだよ! 何したんだ?」
さっきまでのおちゃらけた態度が一変する。
俺の肩に手をかけ興奮したように揺さぶってきた。
「ジョブは運だな。レベルに関しても運だが、強いて言うならゴブリンキングと戦ったくらいだな。いきなり勝手に湧いて出てきて、倒すの物凄く時間がかかったんだからな」
「……ゴブリンキングを倒した? カイセイ、初級ダンジョンでも攻略したのか?」
「いや、ゴブリンを数百匹くらいずっと倒してたら森の中に現れたんだ」
「数百匹って何時間掛かったんだ? 朝までずっとログインしてたのか?」
「いや、二時間ちょっとくらいだったかな? 今日はサクのところの道場のバイトがあるからな。しっかりと睡眠はとったぞ」
俺が翔の質問を否定していくに連れ、顔に表情がなくなっていく。
すると、体を急に引き寄せられ耳元で呟かれる。
「お前…………異常だぞ」
「それは冗談だよな?」
「カイセイ、アワタスト王国だったよな? バイトも今日はサクのところだったな。アイツも誘って今夜10時王都の門前で集合だ!」
「は? 何勝手に決めてるんだよ」
「絶対だ。来い! お前のことは絶対に逃がさんぞ!」
教室に予鈴のチャイムがなる。
それに合わせて翔は立ち上がり教室が出ていく。
「いきなりどうしたんだアイツ……」
俺は立ち去る翔の背中を見てそう呟いた。
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