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89話 CandyHouse

続き


 地下深くまで根を張るこの巨大樹には様々な店が立ち並んでいる。

 上空にはカラフルな光のオーブが連なる川があり、地下の暗闇を照らしていた。

 言うなれば、一種のテーマパーク味のある幻想的な地下街のようで綺麗な光景が一面に広がっていたのだ。

 中は思っていた数倍広く、地下何層にも渡ってフロアが存在していた。

 その為かプレイヤーは四方八方にいるわけで意外にも思っていたほどの賑やかさはない。

 また中心には湖のようなものがあり、どこか落ち着いた雰囲気のある地下街の街並みとなっている。




ーー目的地に到着しましたーーー



 しばらく回りの光景に目を奪われながら足を進めている。

 すると、突然アナウンスが脳内に響いた。

 俺は余韻に浸りつつも視線を上げ辺りを確認する。


「おっ……もう着いたのか。結構迷路感あって楽しかったから案外すぐだったな」

「主、主!! そんなことよりも前見て!! 凄い! このお店!!」


 すると、ルシアーネが何やら興奮した様子で俺の体を揺さぶってくる。

 俺は訳も分からずにその訳の正体に目を向けた。


「うわっ!? なんだコレ……全部お菓子で出来てるのか!?」

「あっちもお菓子! こっちもお菓子! 全部お菓子! 凄い!」


 俺達の驚きの先にはかの『お菓子の家』が存在していた。

 クッキー、キャンディー、チョコレート、ありとあらゆるお菓子で形成された店がそこにはある。

 ここら一体の空気も甘い匂いで充満していて如実に再現されている。

 店内からは更に甘い匂いが立ち込めてきて、VRの世界ですら腹が空いてきそうな勢いだった……。

 まるで絵本の中に出てくるような世界がそこに体現されていたわけだ。


「主……こんな大きいなら……ちょっとくらい貰ってもバレない筈…………」

「おいおい、早速誘惑されてるのかよ……。そんなことしたら魔女に食べられるぞ」

「魔女? 食べられちゃう? どういうこと?」

「分からないなら……まあいいや。とにかく早く中に入ろうか」


 ルシアーネに魔が差す前に俺は適当に会話を切り上げ中へと踏み込んだ。




 店内に入るとまず初めに巨大なタワーケーキが目に飛び込んできた。

 まるでこの家の支柱かのように存在しているそれからは大量のチョコレートフォンデュの滝が流れ出してきている。

 また、天井には飴細工のシャンデリア、壁にはパウンドケーキと現実ではあり得ないような光景に俺達は目を奪われた。


「いらっしゃい。若人達よ『Candy House』は初めてかい?」


 入り口で立ち止まっていると不意にNPCの店員らしき老婆が話しかけてきた。

 客足は人気店にしては人が少なく、暇にしていたからか俺たちの元へわざわざやってきてくれたようだ。

 木片を荒削りにしたような杖を突き、黒いローブを羽織るその姿はまるでーーーー


「主、あれが主の言っていた魔女?」

「……本人の目の前で失礼な事言うなや。それにしてもマジでそれっぽいのがいるのかよ……」


 などと、ルシアーネが余計なことを口走ってしまう程、想像通りの風貌をしていた。


「わざわざ直接店に来るとは珍しい。最近は物珍しさも無くなってか皆ネットライン注文になっちまって客足も途絶えちまったからねぇ」


 そんなことをぶつくさと呟きながら俺達の顔を覗き込んで笑みを浮かべている。

 俺は若干、その様に不気味さを感じつつも本来の目的を思い出し事を伝えた。


「ほぉ、あの数秒のコマーシャルを見てここに来たのかい……そりゃ出した甲斐があったねぇ」

「店選びの選択肢が多すぎて俺には1つに決め切れなかったからコマーシャルには助けられましたね。ちょうど、この都市も華やかな店が多すぎて貧乏性の俺には十分お腹一杯でしたし……」

「確かにこの世界にゃ数千万ものウチみたいな店があるわけさ。毎月毎月アップデートで新しい店が出ては売り上げの低いところは淘汰されていく。店がなくなるのはつまりアタシら販売NPCにとっての死だからね。毎度毎度死活戦だよ全く……」


 店員の老婆が商品棚からお菓子を取りながら冗談混じりに事も無げに言う。

 確かにセカンドワールドは常時更新され続けている。

 新要素が追加されれば、それと同時に不要となった旧要素は必然的に排除されていた。

 その要素一つ一つに本物の人間とほぼ大差ないNPCが実際存在していたのだ。


「……なんか無粋なこと言ってすいません」

「いや何を謝っているのさ。あんたとアタシらでは訳が違う。そこの嬢ちゃんが戦いを生き甲斐にしているのと同じでワシらも商売に生きておる。消える時だって一緒なのさ」

 

 そんなことを言っていると準備ができたのか俺の目の前にはかのプリン菓子の箱が用意された。

 因みにルシアーネは話に飽きたのか随分前に居なくなり、お菓子の店をひとりでに探索している。


「そんな暗い話は良いさ。待たせたねぇ……コレがアタシの店の一番人気さ! 体力、魔力一時上限値解放のステータス特殊効果をもつ代物さ! 戦闘の合間に食すも良し、もちろん普通にしても食べても美味いさ!」


 中を覗くと黄金に輝くゼリーの上に褐色のカラメルソースのかかった極一般的なフォルムのプリンがあった。

 箱を開けただけでもあの甘い匂いが空気中にどんどんと広がっていく。

 その匂いに気付いたのかルシアーネもいつの間にか戻ってきていた。


「主、凄い甘い匂いする! 美味しそー」

「おいおい、手を伸ばすなよ。お土産用に買いに来ただけだからな」

「いいよいいよ。アンタには無駄話にも付き合ってもらったし特別に試食させてやるよ。ほら嬢ちゃんこっちのを食べな」


 すると、何等分かに切り分けられたものを手渡された。

 ルシアーネは瞬く間にそれを自分の口の中に持っていきーーーー


「お……おいしぃ…………」


 と、今にもとろけ出しそうな笑みで言葉を漏らした。

 どうやら美味しさも噂以上だったらしく満足気な表情をして親指を立てている。


「大丈夫そうだな。じゃあこれ1ダースお願いできますか?」

「分かってるじゃないか。よし、ちょっと待っておきな」



 こうして俺たちはようやくお土産を買うことができたのだった。





毎度のことながら遅れてしまいすいません……。


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