83話 ソロ攻略❼
……遅れましたすいません。
「や、や、ヤバイっすよ!? な、なんすかコレぇぇぇ!?」
癒弓の声が隣で鳴り響く。
それもその筈、ゴッドスライムは新たな姿へと変貌を遂げようとしていたのだ。
スライムの肌にポコポコと気泡ができ増していく。
饅頭型の纏まった体型から湯気のようなものが出て周囲の温度を急速に上げた。
そしてーーーー
「消えた…………?」
俺は思わずその言葉を漏らした。
目の前には今まであったものが一瞬にして消えて無くなっている。
視界に映るのは誰もいない通路。
さっきまでの出来事がまるで嘘かのようにゴッドスライムは消え去っていた。
「どういうこと?」
「分からないな。暇さえあれば生態系でも調べられるが、そんな時間はないな……」
「もしかしてウチら、セーフゾーンに逃げ切れたんじゃないっすか?」
各々の考察を巡らせるが答えには辿りつかない。
流石に癒弓の言っていることはないだろうが……。
この状況がずっと続くとなると精神的にもそれを認めたくなってしまう。
ただ、滞りなくこの嫌な雰囲気は続いている。
調子に乗って気を緩めているとどこかで寝首を掻かれる。
そんな気がしてならなかった……。
「もう……大丈夫?」
「警戒は解かないで様子を見つつ退避していこう……」
常に緊張感を保ちながら移動する。
癒弓は弦を弾き、ルシアーネは汎用性のある小銃に右腕を切り変えている。
俺は背中にルシアーネを背負いつつも、すぐ抜刀できるよう気構えていた。
しばらくしていると目の前が明るくなってきた。
行きに関して言えば、進めば進むほど暗くなってきた印象がある。
つまりスポーン地点もだいぶ近くなってきているということだ。
このまま何事もなくことが進めば、全員無事に帰還することができる。
「ここでお二人とはお別れっすね」
不意に癒弓が口を開いた。
前方には最後の分かれ道があり彼女が進むのはもう一方の道。
つまりここからはバラバラになって移動する訳だ。
「おう、そうだな。気をつけろよ」
「お兄さんも気をつけてっす!」
「油断は禁物」
「分かったっす!」
別れを告げてその場を立ち去ろうとした時ーーーー
“…………『凝華』…………“
途端にアナウンスが鳴り響く。
何事かと思い、俺は状況把握の為に瞬時に『心眼』を発動させた。
ーー前方から一気にモンスターの気配が立ち昇る。
癒弓が遅れてこのアナウンスに気づく。
が、遅かった…………。
次の瞬間には黒色の壁の何かが彼女を取り込んだ。
アレはさっきまで消えていた……ゴッドスライムか!?
そのまま引きずり込まれ姿が見えなくなる。
彼女がいた筈の場所からは光の泡が溢れ出していた。
それを見て茫然と立ち竦む俺たち2人の姿が…………ーー
「……っ!? おい、危ない!!」
俺は考えるより先に行動に出た。
『獅子奮迅』を高速で発動し癒弓の腕を掴む。
その刹那、黒色の壁が目前にして顕現しているのが見える。
「や、や、ヤバイ! …………飲み込まれるっす……」
なんとか抜け出そうともがく癒弓。
既に彼女の体半分はゴッドスライムに取り込まれていて事態は深刻化している。
「体力が秒で溶けていくな……。おらっ! 掴まれ癒弓!」
「お兄さん……もう持たないっす……もうヤダぁ…………」
右腕だけ浸かっている俺ですら数十秒もすれば倒れてしまう。
それを半全身でダメージを受けていた彼女はもう数秒と持たないだろう……。
ならばーーーー
「ルシアーネ! アウターに仕舞ってあった体力回復薬! 全部使って延命だ!」
「分かった!」
ルシアーネが羽織っていたアウターのポケットから取り出す。
それから、急いで瓶の中から原液を俺と癒弓にかけ時間を稼いだ。
「もうこのままウチは死ぬんすよ……。今まで頑張って生き残ってきたのにぃ……」
「おい……泣くなよっ! 勝手に諦めてるんじゃねぇよ!」
「もうちょっと……耐えるっ!」
泣きべそをかき始める癒弓。
両腕で力一杯、手繰り寄せる俺は、いつの間に今日偶然会った他人関係なく熱くなっていた。
ルシアーネも独自に打開法を模索しているようで忙しなく右腕を変形させている。
さっき『凝華』と聴こえていたが……。
まさか、ずっとあのゴッドスライムは気体と化して俺たちといたのか!?
先に回り混んで確実に仕留められる隙をずっと窺っていた。
そして、俺たちが別れ道に差し掛かり、互いの注意が削がれた瞬間…………。
一気に固体化して癒弓を捕らえたという訳だ。
他にいたメンバーがやられたのもおそらくこのことだろう。
最後の2人の意味深な発言に見事合致している。
分かっていた筈なのにどこか舐めてかかっていた……。
「な、なにしているんすかっ!? ウチのことは置いて2人だけでも逃げてくださいっすよぉぉ!」
「……って泣きながら言われたって説得ねぇよ! ルシアーネ、準備できたか?」
「できた。でも一か八か…………」
「この状況だ。考えていられない! 是が非でもやってやるぞ!」
癒弓が色々と言っているが乗りかかった船だ。
俺だってもう後には引くことができない。
すると、ルシアーネが準備できたのか銃化した右腕をスライムに突き刺した。
武力数値がが減り、その右腕を飲み込もうと動きが激しくなる。
「主、掴んだ腕離さないで」
「やるんだな? 癒弓の腕はバッチリ掴んでいるぞっ!」
「もう無理っすよぉおぉぉおぉ」
「うるさい!」
この後に及んで駄々をこねる癒弓にルシアーネが叱責する。
もう顔以外は取り込まれ絶望したくなる気持ちは分かるが……俺だってここで倒れる気はない。
徐々に取り込まれていくルシアーネと癒弓。
俺が引っ張り体幹とパワーで無理矢理にでも耐えている。
が、武力は今も永遠に減り続けていた。
次の瞬間には俺も足元を掬われ、飲み込まれると3人揃ってマイホーム行きかもしれない。
ギリギリの綱渡り。
俺はそのいつとも分からぬ恐怖に怯えながらも力一杯2人を繋ぎ止める。
「魚雷発射管。…………発射ッ!」
ルシアーネの掛け声が遂にきた。
するとーーーー
“ドゴオオオオオォォォォォオン!!!!”
魚雷がゴッドスライムの体内へと射出された。
その衝撃で一気に反対方向へとGがかかる。
ただでさえ体力が削れている中、自身へと返ってくる代償ダメージ。
心身共にボロボロとなった俺たちの体はいつしか拘束を抜け、後方へと吹き飛んでいた……。
キーボード誤作動……T^T




