8話 ゴブリンキング②
続き
俺はとにかく走っていた。
轟音を立てて迫り来る化け物相手にただひたすらに……。
「体力半分切ったぞ! その調子だ! って……うぉっ!」
ゴブリンキングの攻撃を上手く翻す。
ルシアーネは俺から一定の距離を空けて、銃弾の雨を降らせていた。
「魔力が底をつきそう……ハンドガンに移行する。今までの火力は期待しないで」
「マジかよ! どうやら、俺も逃げてばっかりじゃいられなくなったな。動きも大体読めた。俺も参戦する!」
俺は走る方向を急転換する。
ナイフを構えゴブリンキングに走り出した。
「デカブツめ! 喰らえぇぇぇ!!」
ナイフの刃が脚の肉を断つ。
さっきの経験も踏まえて一撃をお見舞いした後、咄嗟に離脱する。
『グガォォォォ!!』
「どうやら効いているようだな。脚の動きさえ止めちまえばタコ殴りにできるかも知れない。ルシアーネは左を。俺は右脚に集中攻撃する!」
「すまない主。魔力切れ。不覚、体の戦闘機能が停止する。マイホームで帰りを待っている」
「マジかよ!? 魔力なくなるとお前まで居なくなるのか! それだったら先に言ってくれよ……」
ルシアーネが戦線を離脱した。
モンスターと同じように光の泡となって消えていく。
ここからは俺とゴブリンキングのタイマンというわけだ。
更に緊張感をもって挑まなければ返り討ちにされてしまう。
「俺一人で、体力まだ4分の1も残っているのかよ……いや、もう4分の1だ。半分以上はルシアーネが削ってくれたんだ。ここで諦めるのは勿体ない」
ナイフを構え直し相手の出方をうかがう。
攻撃と攻撃の間には必ず節目がある。
大胆にも出たその隙を狙ってチマチマと攻撃し始める。
「やばいな、急に一人になったから心細くなってきた。クソ! 気合いだ。ガッツを入れろ!」
アイツを倒すにはまだ先が遠い。
めげそうになった気持ちに喝を入れる。
すると、アナウンスが流れてきた。
ーースキルの発動条件を満たしましたーー
ーー両スキルを発動しますか?ーー
半ば絶望しかけていたところに救済の兆しが見えた。
スキルとかろくに確認せずにここまで来てしまった……。
だが勝てるんだったらそれでいい。
もうどうにでもなれ!
俺はその質問に了承した。
「……!? 少し息苦しいけど…………力が湧いてきている?」
筋肉が膨張し血液が忙しなく回る。
呼吸がしづらくなり体に多少の痛みを覚えるが、明らかにスキルの効果も感じる。
消極的な思考が吹き去り、戦いたいという戦闘意欲が脳内で木霊する。
スキルを発動したことによって、ゲームの中で言うバフがかかったのかもしれない。
「今ならあのゴブリンキングも倒せる? いけそうな気がする。いや、いける!」
ナイフを握りしめる力が強くなる。
筋肉も脈動し、その時を今かいまかと震えながら待っていた。
「安牌をとって脚を狙うか? 違う。首筋めがけてただ一筋だ!!」
地面を駆ける。
今までに感じたことのないようなスピード感と空気の音を感じた。
ゴブリンキングが棍棒を横振りして牽制する。
だがーーーー甘い。
今この瞬間に勝機が見える。
俺は危なげなくしゃがみ避ける。
さらにその反動を使って奴の目前まで跳躍した。
「その首、貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
“ガキっ……スパッ!”
ナイフは見事に最後まで振り落とされ、そのまま俺は地面に転がった。
視線をゴブリンキングに向けると呻き声を上げている。
そのまま膝から崩れ落ち光の泡となっていった。
「……や、やったぞ! キタァァ!」
俺は次のアナウンスに耳を傾けると共に喜びの声を上げた。
ーーExtraモンスターの討伐の完了を確認しましたーー
ーー経験値2500取得しましたーー
ーー【双対の加護】経験値2500取得しましたーー
ーーExtra経験値15000取得しましたーー
ーー【双対の加護】Extra経験値15000取得しましたーー
ーーレベルが12上昇しましたーー
ーー条件『王狩』『単独』『初日』『緊急Extra』を確認ーー
ーー四条件を満たしたことにより新スキル『心眼』を取得しましたーー
アナウンスが数十秒にわたり続いた。
予想していた以上に加護の恩恵が凄まじく拍子抜けする。
「なんかいきなり過ぎて怖くなってきたな。初日にしては規格外すぎると思う相手だったけど……」
俺は恐る恐るステータスを確認する。
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バンドウカイセイ 男性 Lv.32
【種族】人間
【ジョブ】双対の戦士
【加護】『双対の加護』『戦士の加護』
【体力】4300/4300
【魔力】3000/3000
【知力】2700/2700
【武力】4100/4100
【経験値】1200/3200
【スキル】『autoレベリング』『獅子奮迅』『心眼』
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「………………ふぁっ!?」
異常に増えたレベルとステータスを見て呆然としてしまう。
しばらくして、俺は抜かしてしまった腰を立ちあげる。
「ひ、ひとまず。今日はもう楽しめたし。ログアウトしてもいいよな……?」
俺のセカンドワールドでの生活はようやく幕をあけた。
次話は0時過ぎ投稿。
若干遅れるかもしれません。
是非よろしくお願いします!