36話 ストーカー②
続き
ストーカー共から逃げ続けて数十分。
事態に未だ進展はない。
体力的な疲れは感じることもなかった。
だが、ずっと走っていると足の裏が痛くなるし呼吸も辛くなる。
それなのに前へ進もうとする足は止まることをみせなかった。
攻撃はされないものの追われている。
俺たちには異様な緊張感が終始張り詰めていた。
「はぁはぁ……。お前らがあんなにも言う理由が分かってきた。本当に頭がおかしい。しつこ過ぎるだろ!?」
「はぁ……お前も他人事じゃないぞ! どうやらあの鑑定士、お前にも目をつけ始めたぞ」
「気色悪いな……はぁはぁ……全くもう!!」
俺と翔は不満の声を漏らす。
咲は俺達より一足先に行き、待ち伏せされないよう道を拓いていた。
獣人の身体能力、嗅覚を活かしてか建物上から探る。
「カイ君達、こっちだよっ! 最悪、王宮まで逃げ込んで国王のクランに頼ろう……」
咲が俺達に指示を出す。
さすが、1000レベル超えの狼の獣人だ。
息も切らさず言ってのけた。
それからの垂直の壁を走り駆ける姿は正に野生児のようだ。
俺達がそちら側に向かおうする。
すると、“ソレ”はふとした瞬間に起きた。
ーー!!緊急依頼発令!!ーー
ーー王国全土の冒険者、およびプレイヤーに通達ーー
「次から次へと一体なんだ?」
「緊急依頼……? 俺も初めて聞くイベントだぜ……」
「…………かなりマズイいことになったよ」
王都中に緊急放送のようなものが流れる。
どうやら咲はこの事態を知っているようだ。
俺達を追いかけ続けていたプレイヤーも立ち止まっている。
「こんな王国で緊急依頼ってなんや?」
「どちらにセヨ、全員動員させられるハメになるデスっ」
「絶対防衛できねえだろ? さっさと用事済ませて出ようぜ!」
「そうね。面倒くさい事態になったけど、私たちには丁度いいわぁ!」
アイツらは何か知っているようだ。
動員?
防衛?
知らない単語が飛び交う。
何が何だかさっぱり分からない。
物知り気な咲に尋ねようとした時、緊迫した様子で逆に声が掛かった。
「カイ君、【獅子奮迅】発動して! ショウは【全スキル】!」
「どういうことなんだ?」
「おい、俺も分かんねぇぞ!」
「良いから早く!!」
血気迫るような口調だ。
本当に意味の分からない状況だが、されるがままにした。
「【獅子奮迅】!」
「【騎士道】、【身代わりの盾】、【従者】!!!」
「【獣化】、【威嚇】、【起死回生】、【必殺】!!!!」
俺達は順次、スキルを発動していった。
どんどんとバフがかかってきているようで力がみなぎってくる。
体に様々な色のオーラが流れ出していた。
いつもの数十倍上手く体を動かすことができそうだ。
もしかしてコレがパーティーに醍醐味なのか?
なんてことを悠長に思っていると、再び声がかかる。
「アイツらに殺される前に絶対撒くよっ! 全速力で付いてきてっ!!」
「こ、殺される……?」
「緊急依頼発令時は王都でさえも戦闘区域になるんだ!」
「マジかよ!? プレイヤーキルしても断罪人の裁断が入らないってことかよ!?」
翔がその言葉の真の意味を察した。
つまり、今のこの状況。
ストーカー共に死をもって脅迫されるということだ。
俺達は可能な限りの全速力で駆け出した。
細道を越え、数軒の建物の屋根をつたるよう空に跳ぶ。
ストーカー共もスキルを発動し始めた。
俺達は脇道から人混みのある街通りに抜け出し、状況を確認する。
「マズイな……街が混乱して完全に機能していない」
咲の一言。
確かにその通りだった。
不測の事態に混乱した人々。
どこもかしこも逃げ惑い始めて荒れている。
まるでこれから大災害が起こるかのように……。
何故か、街の人口も一気に増え始めているように見える。
「どうなっているんだ……?」
「緊急依頼。王都の防衛。凶悪なモンスターがやってくる」
翔の背中にいるルシアーネが淡々と答えた。
それに咲が補足の説明をしてくれる。
「王都が消滅してしまうと、そこに在住する全てのプレイヤーがゲームオーバー扱いを受ける。つまり、一度死んだことと同じペナルティーを被るんだ。ログアウトしていても所属している国なら漏れなくね」
「逃げるのと戦うので入り乱れてる」
俺達の所属している王都を防衛しないと死んでしまう?
ストーカー共から殺されないように逃げろ。
緊急依頼で死なないよう王都を防衛しろ。
状況がイレギュラー過ぎて頭がおかしくなりそうだ。
前に控える咲。
両サイドで状況を確認する俺と翔。
翔の背中に担がれているルシアーネ。
数時間前と同じ地だが、まるで4人、別世界にきているような感覚だった。
「それよりも早く、僕たちは逃げーーーー」
「「……っは!?」」
油断をしていた。
振り返ると背後からストーカー共が咲を捕らえていた。
大男に腕を縛られる咲。
頑張って抜け出そうと悶えているが力の差があるようだ。
普通、こんな乱暴な手を加えれば周りから忌避され注意が入る。
だが、今は街中がパニックになる状況。
街中で堂々と行われるが、たかがプレイヤー1人を気にも止めない様子。
我先に我先にと逃げ惑う姿しか見えない。
「逃げ足だけは一丁前に速いワンコロやな!」
「成長補正……ゲットだぜ!」
「そっちの騎士は捨てておきなサイっ! もう1人の男の方も売り出せそうな特殊属性持ちでスヨっ!」
「……ん? さっきの子じゃないかいぃ? ほらっ!」
すると、女が鞭を振るい俺の体も捕らえた。
身動きが全くとれなくなる。
翔が斧を取り出し断ち切ろうとするがビクともしない。
こんな土壇場に紛れて本当にイヤらしい奴らだ。
「主! 今助ける!」
翔の背中からヒョイと降りてきたルシアーネ。
右腕を銃剣のように変形させ、鞭に刃を当てる。
“バスンッ!!”
意外にも簡単に切れた。
俺は体に巻きついた鞭を振り解き態勢を整える。
翔も呆気に取られれた様子。
ストーカーの男共も一瞬困惑していた。
が、鞭使いの女が狂気じみた金切り声を上げた。
「…………ああああああああああああああああああ!?
ワ、ワタシの『海竜の鞭』が切り刻まれェェェ!?
いくら…………いくら、いくらしたと思ッテルノ!?
コロス……コロス……コロス……コロス…………。
あのくそがギャァァアアアアアア!!
そうよ? そうよ、ソウヨ……ソウヨ…………ソウヨねェェ?。
今度はワタシの愛鞭を切ったアイツの腕を鞭の素材にシヨウ!
ソレがいいわ? いいよねェェ? イイわよねェェェェェ!!」
自分の鞭が切られ癇癪を起こし出した。
まるで、宝物を壊された子供のようななりふり。
女の容貌がグチャリグチャリと変形していく。
口から牙が生え、体が数十倍にも膨れ上がっていく。
全身に寒気が走り、俺達いやストーカーの男共でさえも血の気を失っていた。
「ヤバイ、姉さんが暴走するぞ……抑えられねぇ……」
ストーカーの1人がポツリと呟いた。
俺達はその言葉にゴクリと息を呑む。
「そこの銀髪のメスガキィィ! 覚悟しなぁぁ!!」
彼女はまるで物語に出てくるような化け物【オーク】そのものだった……。
今日、明日の分含めて2話は投稿します。
話が大分カオスになってきたのでテンポ良くいきたい……。




