31話 ルシアーネ
続き
今日はゲームをする気分でもなかった。
これからの生活のやり繰り、書類の精査など色々とやることがある。
頭を空っぽにして今すぐに寝てしまいたい。
が、咲と翔と夜10時に約束していた。
さすがに身勝手に放り出す訳にもいかない。
済ませることだけ済ましてしまい、俺もさっさと寝てしまおう。
約束の1時間前。
俺はボーとした気分でセカンドワールドにログインする。
「主、主! レベル上げた。見て」
ベッドの上に仰向けになっているとルシアーネが寄ってくる。
無邪気な笑顔でやってきた彼女はポスンッと馬乗りになった。
「ああ……ルシアーネか。久しぶりだな」
「久しぶり? 昨日も一緒にいた」
「……ごめんごめん。そうだったな」
俺は彼女を見上げそう答える。
ルシアーネは不思議そうに首をコテッと傾げた。
「主、調子悪い? 大丈夫?」
「……ん? いや、大丈夫だよ。大丈夫」
そんな表情に出ていたのか。
ルシアーネの眩しい笑顔に萎縮していたのかもしれない。
そんな空元気な俺を見て何かを察したのか?
俺は適当に返事をする。
それから話を無理矢理変えようとした。
「それよりレベルだったな……レベル。どれくらい上がったのかな? 楽しみだーー」
「主、嘘ついてる」
するとルシアーネが手を伸ばし俺の両頬を引っ張る。
驚いて彼女の顔を覗いてみると、初めての表情をみせた。
「主、何か隠している。ダメ!」
彼女は怒った顔をしていた。
俺の目の前には、プクッと頬を膨らませた顔がある。
垂れてきた髪が顔に掛かってこそばゆい。
「ルシアーネには関係のない現実の問題だから……」
「話す。主と私は一心同体」
「でもな…………」
俺は今まで他人には一度も家庭の境遇について語ったことがなかった。
親友の翔や咲にさえしていない。
もししてしまったら、哀れむのは目に見える。
それから気にかけられて態度も変わるだろう。
俺たちの家庭のことも、親を通じてどうにか助けようとしてくれるのかもしれない。
こんな息の詰まりそうな重荷。
俺だって声を大にして、いっそのこと助けを求めて楽になりたい。
ただ……その時、果たして本当に親友として今のようにいられるのか?
2人に引け目を感じて、俺はもう対等な関係で居られなくなるだろう。
こんな苦しい時期に何を悠長なことを言っているのか?
なんて思うのかもしれない。
でも、それだけに親友としての咲と翔の存在が大きい。
俺の中で今の現状と天秤にかけられるほど、もう2人との関係は大事なものになっていた。
「あーるーじー!」
“ゴツンッ!”
「……っ痛!? ルシアーネ何するんーーーー」
「スッキリした? ちゃんと。話す」
思考を巡らせていると不意に頭突きを食らった。
ジーンと衝撃が響き、途端に頭の中が真っ白になる。
だったら、ルシアーネに関してみてはどうだ?
残念ながらも彼女はゲームの中の存在だ。
関わりもまだ日が浅いし、関係性についてもまだ曖昧だ。
実生活的にも深く干渉はなく、彼女も純粋な心で聞きたがっている。
なら、話してみてもいいのかもしれない?
と、ルシアーネの後押しもあって考えが頭の中をよぎった。
「どんなことがあっても。嫌いにならない。主と私はずっと一緒」
「分かったよ…………少し長くなるがいいか?」
「もちろん」
現状を話し終えた後、俺は深い息を吐いた。
1人で抱え込んでいたせいで気苦労をしていた。
全部吐露してみたところ幾分か心が軽くなった。
「主はそのお金? がなくて今困ってる?」
「まあそうだな。大体はそこからきているな……」
実際ルシアーネはよく聞いてくれた。
途中、現実との隔たりもあり難しそうな顔もしたが理解してくれたようだ。
「この世の幸せの殆どは金で買えるからな……。逆に言ってしまえば、なければそれだけ不幸にもなりやすい」
「強いだけダメ?」
「腕っ節の強さなんて二の次だな……。一番は経済力、財力が勝つんだよ」
自分で言っていて悲しくなってくる。
この世は結局、金だ。
愛を育むにも土台となる一定の金が必要。
名声を得る為にも空気となる金の流れが不可欠だ。
「……主、お金あればいい?」
「……そうだな。取り繕って言う必要もない。あればあるだけいいな」
持たないくらいならあった方がいい。
持つものが勝ち続け、持たざる者が負け続ける世界だ。
すると、ルシアーネが急に飛び上がった。
フフンと鼻を鳴らし腰に手を当て、胸を張り出した。
「なんだよいきなり? どうしたんだ?」
「主、人脈一覧開く」
「一覧?」
そんなことを疑問に思っているとふとソレは現れた。
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【フレンド一覧】
サクバサク ◯ログアウト
バンドウユキ ◯ログアウト
ライモンショウ ◉ログイン
【パーティ一覧】
サク ◯ログアウト
ユキ ◯ログアウト
ショウ ◉ログイン
【クラン一覧】
スカーレット ◉ログイン
イザベラ ◉ログイン
ジャック ◉ログイン
ソフィア ◉ログイン
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「一気に人名が出てきたぞ……それとセカンドワールドにログインしているか、していないかも出てきたな」
「そこからクラン開く」
「クラン?」
俺はさっきと同じ要領で言われた通りする。
すると、エキゾチックな赤い画面に切り替わった。
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炎帝騎士団
【世界ランキング】圏外
【クラン員数】5/100
【リーダー】スカーレット
【クランポイント】4325P
1.スカーレット 拳闘神 2500P
2.イザベラ 魔導神 1000P
3.ソフィア 剣闘士 500P
4.ジャック 騎士 315P
5.カイセイ 戦士 10P
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すると、クラン詳細が一気に浮かび上がってきた。
メンバー、ランキング、人員。
それにクランポイントというのもある。
一体何なんだ?
「色々出てきたが……ルシアーネ、それでこれがどうしたんだ?」
「クランポイント見る」
俺は言われた通り目を移す。
クランメンバー名、ジョブに続いて表記されているものだ。
俺は10Pでこの中で一番低くなっている。
「これ、1P=10円で現金と通貨交換できる」
「……本気で言っているのか!? いや、サク達も同じようなこと昼に言っていたな」
そうなると、俺は今現在100円所持していることになる。
でもどうやって一体交換なんてするんだ?
「どこに行けばそれができるんだ?」
「それはーーーー」
すると、アナウンスが流れてきた。
ーーポイントと現金の通貨交換をご説明しますーー
ーーお使いのデバイスの液晶版を使用しますーー
ーーそちらから振り込む口座の選択をしてくださいーー
ーーその後、ポイントを消費し入金されますーー
「いや、大丈夫だ。アナウンスさんが教えてくれた」
「なら大丈夫」
そう言うとルシアーネは開いた口を閉じる。
ルシアーネが教えてくれた情報は今まさに俺が欲していたことだった。
詰まるところ、ゲームの中でお金を稼ぐことができる。
金欠な俺にバイト以外の収入源を提示してくれた。
「10Pは主がいない間、ダンジョンで稼いだ。2人ならもっと貯まる」
「本当か!? バイトはもうこれ以上は増やせないと思っていたが、家に帰っても実質できるようになったも同然だ!」
いつしか歓喜に震えていた。
暗いニュースが続き、心が疲弊していた時に入った一報。
「これから頑張る。そしたら主、楽になる」
「そ、そうだなっ! っお前に相談して本当に良かったよ……」
俺は感情を抑えられなくなる。
ルシアーネの華奢な腕に引き寄せられ、いつしか数年ぶりの涙を流していた。
これからもよろしくお願いします!




