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30話 叔母

続き


 いつものようにバイトを終え家に着いた。

 部屋の中に入ると、雪が慌ただしく右往左往している。

 俺は玄関口に立ち声をかける。


「ただいま…………ってうおっ!? どうしたんーーーー」

「お兄ちゃん、どうしよう!? 叔母さんが、家で、漁って、勝手に……」


 いきなり抱きつかれた。

 だが、いつもとは違い何か様子がおかしい。

 体を震えさせ泣きじゃくっている。

 ヒクっヒクっと俺の胸の中で嗚咽(おえつ)を漏らしている。


「ユキ取り敢えず落ち着け。いいな? ひとまず家の中で話を聞こう」

「うん、分かったお兄ちゃん。落ち着くね」


 俺は雪を(なぐさ)めて奥に進む。

 すると彼女の伝えたい光景が目に入ってきた。

 その時、瞬時に状況を理解した。



「…………あのババア。遂にやってくれたな……」


 思わず声を漏らす。


 部屋の中は“何かを漁られらた残骸”があった。

 ほとんどの家具の引き戸が開け放されている。

 家具の配置も随分と乱雑に変えられていた。


 挙げ句の果てに、机の上には殴り書きされたメモと封筒。

 そしてーー()()()()とキャッシュカードが置いてあった……。


 俺はその紙切れに手を伸ばし確認する。



貴方(あなた)ら、随分と小汚く溜め込んでいるようね? 

 私の気も知らないで呑気に過ごしているのかしら?

 誰のおかげで生活できているのか一度考えなさい。

 今日預かったお金は借金返済の糧にしておくので感謝しておきなさい。

 なお、月に一万の振り込みは切らせて貰います。

 精々、私に迷惑をかけないように愚図兄妹同士やりくりしなさいな』



 読んだ瞬間に溢れんばかりの激情が走る。

 持っていた紙をクシャクシャに握りつぶし捨て去った。


 続いて預金通帳の残高を見る。

 当然の如くーーーー

 数日前までバイトで稼いだ数万とあった預金が、本日付で“0円”となっていた。


「何が借金返済の糧だよ! 全部お前の私腹を肥やすためだろうが!」


 俺は思わず怒号をあげた。


 実は今回の件は前に一度あった。

 前回は何もそ知らずに金勘定は叔母に任せていた。

 その時は俺もまだ若く、日々消えていく金が借金返済のものと疑うこともなかった。

 

 そしてある日、問題は発覚した。

 そのお金は問題を解決することなく跡形もなく消失していたのだ。

 俺は叔母に憤慨したが、返ってくるの反応は知らぬ存ぜぬ。

 

 あの時から、俺が全部管理するようになったが。

 ーーーーまさか、遂には家にまで乗り込んでくるまでとはな。


 アパートの名義は叔母で借りている。

 合鍵は勿論の事持っていたんだろう。


「お、お兄ちゃん…………どうしよう……」


 雪がまた泣きそうな顔で抱きついてきた。

 少し感情的になってしまった。

 俺は一呼吸し、置いてあった封筒の束にも手をつけた。


「家賃、水道、電気、ガス…………全部滞納の通告書じゃないか」


 俺はもうむしろ呆れた声を上げた。

 

 叔母が支払ってくれていた()の生活費諸々。

 こういった類の書類は全部、保護者に届いていて俺が知るよしもなかったものだ。

 

 それが最近になって未払いとなっている。

 奪うだけ奪っていき、押しつけるだけ押しつけられていったのだった。

 

「抜かった……ごめんな雪。俺が常に持っていて、ちゃんと管理しておけばよかったんだ」

「そんなことない! ユ、ユキがあの時止めておけば……」

「あの時?」


 雪がグズグズと鼻を(すす)りながら話し始めた。


「家に丁度帰ろうとした時、玄関の前に誰か立っていたの。ユキ、その時怖くなってそのまま逃げ出しちゃった。それから恐る恐る家に帰ったら……こんな状況で。家の中も荒らされていて。何がなんだかよく分かんなくて……ごめんなさいお兄ちゃん」

 

「大丈夫、大丈夫! 本当に不審者だったらもっと大変だったんだ。ユキが逃げ出したことは間違いなんかじゃない。むしろ、ユキが怪我もしなくて凄く安心したぞ!」


「お兄ぢゃん…………」


 そう言うと声を上げて泣き出した。

 俺は雪のことを抱いて背中を撫でる。







 しばらくして雪が落ち着いた。

 俺はシャワーを浴び部屋着に着替える。

 

 すると雪がビニール袋に入れた氷を持ってきて渡す。


「お兄ちゃん、なんで絆創膏付けているのかと思ったら打撲してたんだね。これ当てて冷やしてね」

「もう……大丈夫なんだな? ありがとうな」

「ううん、こっちこそ。でも今日はもう寝るね」

「ちゃんと休めよ」


 雪はそのまま布団に直航した。

 今日のことで泣き疲れたのか、すぐ寝息をついて寝始める。


 親からも捨てられ、遂には親戚からも見放されたんだ。

 こんな重苦しいことをまだ幼い子供が背負っている。

 俺でさえ小学生の頃は一応ながらも、母や叔母のような大人達がいた。

 それに比べて、今の雪には頼りのない兄1人しかいない。



 しばらくして、俺は電話を取り叔母にかけた。

 あの人と話すのも、もう数年ぶりになる。

 今日あったことを一言一句問い正すつもりだ。


「ふざけんなよ……」

 

 一人口ずさむ。

 が、電話には一切出ててこない。

 無垢なアラーム音が数十秒、耳元で鳴るばかりだ。


『…………お掛けになった電話をお呼びしましたがお出になりません。発信音の後にメッセージを残してくださいーーーー』


 俺はそのままガチャっと受話器を置いた。

 完全に無視されている。

 まさか、ここまで徹底的にしてくるとはな……。


 それから雪の寝息だけが聞こえる部屋を抜けて外に出た。

 人気のない夜の公園に出向き項垂(うなだ)れる。


「クソったれが!! …………何が親だ、何が親戚だ……なんで、俺たちをこんなにも苦しめるんだ。せめて妹だけでももっとマシな……」


 地面を踏みしめ感情を暴露した。

 怒りに憎しみ、悲しみの感情が溢れ出してくる。

 苦痛の声は空気に掻き消えて、虚しさだけが残った。




 財布に入っていた現金5000円。

 各所からの請求書。

 バイトで貯めていた筈の今はなき空の通帳。

 

 未成年2人にこの境遇は余りにも辛すぎるものだった……。

明日、おそらくできないので少し早めに更新しました。

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