29話 遊戯処
続き
バイト先に着いた。
店に入るといつにも増して人がいる。
ランドセルを背負った小学生の男女がたむろしていた。
「店長! 今からシフト入れます!」
「おお……ようやく来てくれたか。待っておったぞ」
店内に入ると岩尾さんから待望の目を向けられた。
「今日はレン君とアイちゃんが友達を呼んでおってな。年甲斐にワシも相手しきれん。今日は店はいいから、2階に連れてって子供らの相手をしてくれんかね?」
レンとアイは小学生2年生の男の子と女の子だ。
2人は親が共働きということもあり、よくこの店に訪れる。
俺もよくバイトでいることがあって面識があった。
ちなみに、店の1階はゲーム類の販売スペース。
2階は購入したゲームを楽しめる休憩スペースになっている。
勿論よく訪れること、小学生ということもあり購入するのは稀にしかない。
故に実質、誰でもいられるフリースペースとなっているのだ。
「そうですね。じゃあ、今日俺は上にいますね。それと、この前頂いたVRゴーグルなんですが……」
「言わんくても分かる。以前よりも随分、表情に余裕ができとるな。ワシとしても嬉しい限りじゃ」
岩尾さんはそう言うとにこやかに微笑む。
本当にこの人には頭が上がらないな。
「では、何かあったら降りてきますね。品出しでも簡単な経理関係でも」
「大丈夫じゃ。今日はそんなにやることはないからの」
そう言うと俺は小学生集団の方に促される。
「おっ! 兄ちゃんじゃん! ヤッホー!」
「ヤッホーじゃない。遊ぶんだったら店内じゃなくて上に行けよ」
俺に声をかけてきた少年が【一条蓮】。
店の商品棚前で固まっている背丈もまだない男子小学生だ。
「分かったよー! ほら皆行こうぜ! 上で遊べるところあるからー」
「レン君のいつも言っているとこだよね?」
「アイちゃん一緒にいこー!」
「おい、レンー! 俺めっちゃ昨日レベル上げたんだぜー」
「バーカ、僕の方が強いしー」
「いや、俺が一番だしー?」
すると小学生軍団は我先にと階段を登っていく。
男女関係なく皆んな元気な子達ばかりだ。
「店番はワシが出ておくからの。頼んだぞ」
「はい、お願いします」
2階に上がってきた。
すでに小学生らは畳の上でVRゴーグルを付けて雑魚寝していた。
そこら中にランドセルと靴が放り出されている。
「お前らな、ここは託児所じゃないんだぞ……」
そんなことをポツリと呟いた。
若干呆れてしまうが小学生だから仕方がない。
俺は荷物置きにランドセルをのせ、靴のペアを正していく。
適当に掃除を終わらせると、急に誰かに肩をたたかれた。
「……あれ? アイちゃん、どうしたの?」
俺の後ろにはアイちゃんこと【蓮菜愛】が立っていた。
ワンピースを着ている可愛らしい女の子だ。
モジモジと俯き、たまにチラッと俺の顔を見る。
「あのね……あのね…………」
「うん」
頑張って言葉を綴っている。
彼女は少し人見知りでゆっくりと話を待つ。
「……おにぃちゃんのね……ほっぺたね……とっても痛そうだからね……」
「ほっぺた?」
俺は近くにあった姿見で顔を見る。
すると右頬が少し赤くなっていた。
パッと見ただけじゃ分からないくらいなのに、これをよく分かったな。
口の中は切れていたが、いつの間に止血していたせいで自分でさえ忘れていた。
「ああ! アイちゃんが気にすることないよ。俺がドジだからぶつけちゃっただけで……」
「でもね……でもね。痛そうだからね……待っててね」
彼女はそう言うと自分のランドセルをガサゴソと漁る。
それから絆創膏を持って戻ってきた。
「大丈夫だよ! 心配しなくても軽いもんだから!」
「でもね……ママね言ってたの。そのままにしてたらもっと痛くなるの……」
そう言い切ると顔を真っ赤にし涙目を浮かべた。
こんな小さな女の子を泣かせたとなっては大変だ。
ここは頑張って振り絞ってくれた善意に甘えよう。
「ありがとうね! お兄ちゃん嬉しいよ」
「ん! ……おにぃちゃん、しゃがんでね。アイがね……貼ってあげるの」
そう言うと俺は膝を付いて顔を出す。
彼女は絆創膏を剥いて、頬に数枚貼ってくれた。
「うん、これで痛みが引いてくるよ。アイちゃんもお友達が待ってるし行ってきなよ」
「これで大丈夫なの」
そう言い残すと彼女もまた小学生らに混じった。
皆、VRゴーグルを付けてセカンドワールドでプレイし始めたようだ。
「空調、室温、湿度も大丈夫だな……」
俺はリモコンを手に取り確認する。
それから、俺は学校カバンを取りに行き、近くのソファーの上に腰を下ろした。
机の上に宿題や課題の束を敷き、それらを見やる。
「そろそろ定期試験も近いしな。ただでさえ身に余る給料貰ってるのに、暇だったら読書でも勉強でもしてていいなんてな。本当に店長には頭が上がらないな……」
俺は鏡に映る不恰好に貼られた絆創膏を見て苦笑いした。
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