1話 プロローグ
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六限目のチャイムが鳴った。
教室が騒がしくなってくる。
ポツポツとクラスの皆んなは席から立ち上がり喋り始める。
その内容はどこもかしこも同じだ。
「ケイタ! 今日この後いつものメンツで集まって『セカワ』な!」
「分かってるって。ラザール帝国の東部の方のダンジョンだったよな?」
「なあ、俺がアイツらにも声掛けとくぜ。コウキ、お前も来るよな?」
「ああ、勿論だ!」
「五層のゴブリンキング……今日こそお前の命日だ!」
教室の隅からでも聴こえてくるこの会話。
その正体はVRMMO【セカンドワールド】のことだ。
十年くらい前から流行り出したそのゲーム。
今や世界トップサービスとなって国籍を超え老若男女に楽しまれている。
現在はゲーム以外にもTV、音楽などのその他の芸能娯楽関係も参入している。
謂わば新世の世界最高の総合型エンターテイメントゲームだ。
「えー? ケイタ君達、ダンジョン行くのー?」
「私達もさ、今日どこかでモンスター狩ってレベル上げしようと思ってたんだー」
「一緒に行きたいなー。お願い!」
丁度、俺の隣で騒ぐ女子達もまたその虜だ。
実際、開発会社【ニューエッジ】がこのゲームを発表した時は世界に震撼した。
同社の開発したゴーグルをつけるだけで世界中どこでもセカンドワールドにログインできる。
その影響は瞬く間に広がった。
今や先進国の日本ではそれを持っていない人間の方が少ないとされている時代だ。
そんな中、俺は一人帰り支度を済ませ教室を去ろうとする。
言ってしまえば、俺は貧乏だ。
そんな機器買うお金なんかない。
父親は莫大な借金を残して死に、母はそれによって逃亡し行方不明。
親戚の叔母に親権は委譲されたが、1LDKのボロアパートに押し込まれた。
こんな悪夢のような人生。
自殺して楽になりたいが、俺には残された家族である小学生の妹がいる。
生活に困らないよう叔母から毎月一万円支給される。
だが、高校生と小学生の二人でその金額で収まるわけがない。
挙句、その人との金銭トラブルも起こる始末。
借金にも手をつけられず、ゆくゆくは成人した俺と妹で返すことになる。
人生の負け組。
そんな落第称号の烙印は俺だけでいい。
俺は亡き父と消えた母に復讐の心を抱いている。
だが、まだ幼い妹にこの苦痛を味合わせたくない。
今日もまた、クラスの連中が賑やかに雑談する中バイト先へと向かう。
バイト先である『遊戯処』という店に着いた。
住んでいるアパートの近くの商店街の一角にある小さな店だ。
名前にある通りゲーム機器類を扱う個人店。
こじんまりとした雰囲気の老舗で老夫婦の二人が営んでいる。
「店長! 今からシフト入ります!」
「ああ、カイセイ君か? 着替えたら店先に出て荷物を運んで置いてくれ」
「はい!」
店長の岩尾さんだ。
俺のことを週ニで雇ってくれている。
お給料も色をつけて出してくれていて俺にとってはありがたい人だ。
店内の個室に入って業務着に着替えた後、早速外に出て荷物を確認する。
「ニューエッジからでた新型のゴーグルだ。結構入荷したんですね」
「最近の子らは外で遊ばず家の中でずっとセカンドワールドで遊んでおるからの。わしも試しにこの前、付けてログインしてみたが時代はここまで進んでるのかって、びっくりしたわい!」
「岩尾さんの趣味の競馬も確かセカワにあるんですよね。本当に驚いちゃいます」
岩尾さんと会話をしながら店の中に荷物を入れる。
基本的にこういう重労働は俺のいる日に行われる。
岩尾さんが接客及び荷解きといった具合だ。
この店は親子連れの近所の小学生や中高大学生の若年者が主な客層の割合だ。
「そう言えばカイセイ君。セカンドワールドはまだやったことがなかったんだろう?」
「え? あっ……そうなんですよ。俺、結構バイトで忙しくてたまに幼馴染とかにも誘われたりするんですけど、家の事情で余り纏まったお金を使えないんですよね」
セカワの普及は旧時代のスマートフォンのシェア率よりも高い。
学生でまだ十分に時間がある中、セカワをやらないのは他人から見たら奇妙に映るものなんだろう。
ここは適当に話を流しておく。
変に家の事情のことを話して気を遣われるのも申し訳ない。
クラスの連中とも同じ会話を何度かしたことがある。
少し複雑な気分になるが……もう中学生の頃からだ。
いつもみたく慣れた口調で言葉を返す。
「そうか! それならちょうどいい。これを入荷すると同時に旧版の在庫を処理しようと思っていたんだ。どうだい? 持っていないなら一台無料でプレゼントしてあげるよ」
「いや、そんなもの貰えませんよ。お給料の方も十分に頂いてるのに」
放課後バイトばかりして交友関係の一切なさそうな俺に気遣ってくれているのか?
確かに、セカワをやっていないと友達との話す内容も必然的に少なくなる。
だがそれにしてもタダでゴーグルを譲って貰うなんて出来るわけない。
旧版型のものとはいえど一台約十万円弱するものだ。
余る在庫にしろ、ネットオークションにかけるでもして店の懐を温めた方がマシだ。
「いやいや。これでもわしはカイセイ君に感謝しておるんだ。病弱で倒れた家内を偶然通りかかった君が助けてくれた時は、本当に感謝してもしきれん。それから、人手不足の店のバイトも快く引き受けてくれて、たまにアイツの病院へお見舞いに行ってくれてるそうじゃないか。生憎、孫はおらんくての。会いにいく度、嬉しそうに話してくれるわい」
そう言うと岩井さんは店内の在庫からゴーグルの箱を取り出し袋に入れる。
それからこっちにやってきてソレを俺の手に渡した。
「……すいません。俺がこんなもの……」
「プレゼントした側としてはそんな申し訳なさそうな顔をして謝られるより、笑って受け取って貰えると嬉しいんだがね」
「……そうですね。店長のご厚意に甘えさせてもらいますね。大切に使わせてもらいます!」
岩尾さんの善意を無下にすることもできず受け取った。
白のカラーリングに赤の細いストライプの入った、一般的な種類のものだ。
長年、手が出せず友達が隣でやっているのをただ眺めていた俺だ。
今日はなんて幸運な日なんだろうかと心から思う。
実際手にして見ると自然と笑みが溢れてきた。
「気に入ってくれたようで良かった。わしもたまにログインしておるからの。セカンドワールドの方でも、もしかしたら会えるかもしれん。今度、店にくる時使用感や感想も教えてくれ」
「はい! 今日の夜にでも早速ログインしてみようかと思います!」
万道快晴の物語は此処から始まった…………
試しに1話投稿してみました。
これからドンドンと投稿して行く予定なので是非よろしくお願いします!




