コロナ禍のせいで内定とり消しになったので悪の組織に就職したら隣に正義のヒーローが引っ越ししてきた
世の中世知辛い
「…嘘だと言ってよ」
ある日の事、バイトの休憩中にメールをチェックしていたら、先月ようやく内定をもらったはずの会社から内定取り消しの通知が来ていた。
「理由はコロナ禍のせいでって…これで何社目よ」
頭をかきむしり奇声を上げ、叫びたいが、今はバイトの休憩中。周囲の目があり奇行に走るわけにはいかない。それにそういう目にあっているのは私だけじゃない。
とはいえ、今年の就職率は60%もあるのだそうだ。どこの誰がそういうデーターを算出したのだろうか。私も早くその60%の中に混ざりたい。
「もっと早く言ってくれたらC社の辞退をしなかったのに…」
今回内定取り消ししてきたB社程ではなかったが、福利厚生もちゃんとした会社で将来性のある会社だった。
「ああ、もう。どうしろって言うのよ…。って言うか…もう一度始めからやりなおし…するしかないよね。家に帰ったら、さっそく求人情報の精査と絞り込みを再開しなくちゃ。ふぅ、また履歴書を書かなくちゃ。」
くじけている暇さえ惜しい。
「ただいまぁ」
バイトを終え、借りている学生向けのアパートへ帰る。
「引っ越し準備も始めていたっていうのに。どうするのよ。契約更新も無理かなぁ。次の人も決まっているって聞いたし、新しい方にはもう敷金礼金払っちゃったし」
B社に通勤しやすい物件を見つけて契約もすませてある。今住んでいるアパートは大家が「学生むけ」という条件をつけているので社会人になっても住み続ける人は少ない。次に住む人も学生さんらしい。
「しくったなぁ。早すぎたか」
とは言うものの、新生活をはじめるにあたってバタバタしたくはなかったのだ。
新しい地でそこに慣れる時間も必要だろうし、新しくはじめる慣れない仕事と暮らし、どちらにも暫くは振り回されるだろうと考えての決断だったけれど、B社への就職がなくなった今となっては完全なる勇み足だった。
今の生活費の大半を賄っているバイトの店からも遠くなるし、まったく笑えない。
「それより引っ越しにかける時間すらもったいない…」
この半月後、私はもっと追い詰められる事になる。
荷解きすらままならない、段ボールが積みあがった部屋。
壁にかかったリクルートスーツ。
「ははは、まさかバイト先もクビになるだなんて」
バイト先は居酒屋。そうコロナで営業自粛要請や時短要請を受けてもっとも影響が出る業種である。
「たしかに、お客さんの入りも減って危ないかなぁとは思っていたけど…」
引っ越し貧乏の上に、この仕打ち。10万の給付金など焼石に水である。
「戻る実家もないし、これ詰んだ…完全に詰んだ」
私の学業卒業とともに父母とも新しいパートナーと新生活をはじめている。どちらの家にも頼るのも気おくれがして憚れた。
もはや正規雇用などと驕ってはいられない。非正規でもなんでも仕事を見つけなければ。
そうしてようやく見つけた求人に挑むのだけど、行った先には長蛇の列。
そして世の中には私以上のスペックの持ち主などゴロゴロいるらしく、不採用につぐ不採用の嵐。
それでもこの時はまだ私は希望を捨てていなかった。
半年後
貯金が尽きた。
米もなくなった。
恥を忍んで父母に無心をした。
10万円ずつ、父母からは支援はしてもらえたが、恥ずかしくて合わせる顔がない。
2ケ月分の滞納していた家賃を払ったら手元に残ったのはわずかなお金である。
今月まとまった収入がなければ、どうにもならない。
アパートの管理会社からは今度、家賃を滞納したら出ていってもらうと言われた。
暗い気持ちでショッピングモール内のスーパーへ行き、半額弁当を購入。スーパーの電子レンジでチンしてそのままフードコートで食す。
ここのフードコートは水だけでなくお湯がただで飲める。
コロナ禍中の平日の夕方とはいえ、GOtoなんちゃらのせいかフードコートはそこそこの混み方で、ソーシャルディスタンスの表示を挟んで向こう側には男子大学生とおぼしきグループがフライしたチキンが売りの店のランチセットをつついている。
「お前B社受かったの?」
「そうそう昨日通知きててさ。F社もいい感触だからどっちにしようか迷っててさー」
「あー。B社な。『悲報』B社に内定取り消されたんだけど『無常』ってスレが6番板にあがってったぞ」
「ああ、知ってる。とりあえず、つばつけといてリリースって話だろ?」
「マジかよ。買い手市場だからってひどいな」
「それな」
「それよか、明日のK社のWeb会議説明会だけど、…」
えっ?、私にはコロナ禍の業績不振で内定を取り消しますって連絡がきてたよね?
それなのに求人は続けてたの?
k社の説明会も情報入ってきてないよ。
お金がない中でもスマホのネット環境だけは確保してたけど、違う情報ソースがあったって事?
彼らが新卒にあたるから?でもこの国のえらい人が卒業後3年間は新卒と同等にするとか言ってなかった?
これが情報格差か。そういう情報を手にいれられるかどうかがすでに篩にかける要素になってるとは。
これは、私はK社のような会社の求人情報を知る資格がないって事なのか?
非正規雇用の採用の方も落ちに落ちまくっている自分は、この先ずっと不安定な雇用に生活を当てにしなければならないのだろうか。
すでに、B社、K社、F社のレベルより少ない給与形態の会社に狙いをシフトしているし正規雇用に拘るのもやめている。これより想定年収を落とせば、毎日会社へ行って食べて行くだけでカツカツになるどころか何かあればマイナスになる。
絶望感が押し寄せてくる。
というか、現状が今やドピンチ状態だ。
¨そこの君!我々と一緒に世界征服を狙わないか?¨
ブッッッ!!
吹き出した白湯が気管の変なとこに入ったようだ。
¨「何をやってもうまくいかない、自分だけが報われない」そんな絶望感に打ちひしがれている君!それは世の中が悪いせいで君が悪いせいじゃないんだ!さぁ、我々と共に世界征服を狙う仲間になろう!!¨
げっほげほとむせていると周囲の人たちが嫌な目つきで睨んでくる。
これはコロナじゃなくてむせたせいです。ごめんなさい。
音声はさきほどまで、セールの情報やモールに新しく出店するお店の情報を流していた壁にかけられた大きな液晶画面から流れている。
こんなおかしな宣伝、私のほかに誰も反応しないっておかしくない?
袖でまだ出る咳を封じ込めるように口を押えながら、スクリーンを見る。
音楽に合わせて問合せ先が表示されている。なんだコレ。私が知らなかっただけで世間ではブラックジョークとして浸透し、もはや誰も反応しなくなっているヤツ?
「いやいや、こんなのが流されているとか、世も末…」
私は首を振って弁当の空箱を片付けた。むせたせいで気管がイガイガする。
もう一杯だけお湯をおかわりしよう。
3時間後、私は件の世界征服を狙う秘密結社の面接の列に並んでいた。
食事を終えた私はそのまま示されたQRコードを読み込み、出てきた情報にアクセスしたのだ。
出てきた住所はショッピングモールから意外と近かった。
「はーい間隔をあけて並んでください。こちら弊社のグッズですがよろしかったらどうぞ」
受付の社員の人と思われるマスクをした女性から「悪」と書かれたカップラーメンとお茶のペットボトルが配られた。やった、ひやかしで来たが一食浮いた。
しかし、「悪」って…凝ってるな。さすが世界征服とか言ってるだけある?
「履歴書を預かります。代わりに番号札を渡しますので呼ばれたら入室してくださいね」
社員さんは皆どこにでもいるような普通の人っぽかった。面接はよくある賃貸物件のオフィスで行われ、他のフロアには他の会社も入っているようだ。
「本当は何の会社なんだろう」
私はここに至っても、ここは「ブラックジョーク」でインパクトを狙っている普通の会社であると思っていた。
面接は年齢、住所、性別を聞かれただけだった。なんか?あの宣伝が視認できるってのがすでにここに来るためのフィルターになっているそうで。よくわからないけどそんなターゲットを絞った求人をしているらしい。技術的にそういうのって可能なの?
「ここに集いし皆さまはすでに選ばれた人たちであるので、わが社からは篩にかけるような失礼なマネはいたしません。ただ、我々の社是の特殊性を鑑みて、我々に同意できない方はお断りしてくださって結構です。どうぞ、「会社説明会出席手当」をお渡ししますので、受け取って席をお立ちください」
何人かが席をたった。私のようにひやかしで来た人たちであったらしい。
私の目的はもっと高額をもらえる入社支度金だ。初任給までの手当て金という事で、入社が決まればすぐに支払いがあるという。もう後がない自分には天の救いのような制度だ。
今どき珍しい大盤振る舞いといえるが、入社してどんな仕事をやらされるのか、少々不安ではある。うまい話には裏があるっていうし…。
結局、私は「悪の秘密結社」に入社した。さすが世界征服を狙うだけある会社の名前といえよう。
そのまま採用された私達は「悪の秘密結社」の専用エレベーターで地下の研修施設に拉致られた。
「以前は、生身で活動していましたが、わが社では「専用アバター」を開発し社員の皆さまには実際にはオペレーターとして実害のない戦闘をしていただく事が可能になりました。アバターの安全仕様のために痛覚は千分の一位は残してありますが、それを操作する皆さまにはほとんど影響はありません」
「それまでは一般戦闘員の欠員が深刻でしたが、このシステム稼働により現在では一般戦闘員の消耗による補充が問題なくなりました。難があるとすれば、このアバターは人造人型生物のため、皆さまのようなオペレーターが必須なことでしょうか。でも逆をいえば、アバターの消耗はアバターの補充ですみ、皆さまにしわ寄せが来ないことですね。皆さまが職を失うハメになることはなさそうです」
驚いた事に仕事はまさかの一般戦闘員のオペレーターらしい。
ずらっと並ぶコ●ンの真っ黒な犯人のような人型の何かが並ぶエリアでとんでもない事を言われた。
「あのぉ法律にふれるような事はちょっと…」
気の弱そうな細身の若者が手をあげて言った。
そうだよねぇ…。悪の秘密結社の一般戦闘員て、要はあれでしょ?怪人とかと一緒に出てくる戦闘員の事だよね?「イィィ!」とかしか言えない、ヒーローにボッコにされるあれでしょ?
人質とったり交通網を破壊したり、要人さらったりする…。
「わが社には優秀な顧問弁護士がついていますので、その点はぬかりがありません」
いやいやいや、それって法にふれるような事させるの前提じゃん?
「それにあなた方は実際に現場にはいかないので捕まるような事はありませんよ?」
「いや、だって悪い事って…できないよ。一応この国の国民だし法律は守らないと」
それを聞いた社員さんの空気が一瞬で変わった。
「法があなたに何をしてくれました?国はあなたの働く場所を、生きる場所を守ってくれましたか?健康で、ちゃんと国が定める教育を大人しく受けたのに仕事がないから収入がない。なのに義務の納税だけ求めてくる。異常な事態だと思いませんか?我々は、だから反旗を起こしたのです」
研修を受けた私の価値観は180度変わった。
いわゆる洗脳を受けたのだと思う。
しかし私はそんな状態が気持ちよかった。
これでもうアパートを追い出される心配はない。
これでもう不採用におびえる事はない。
父母に無心をするような恥ずかしい事をしなくてもいい。
仕事の内容はアレだが、仕事をこなして給与をもらう一般的な社会人になれた。
思っていたより、仕事が決まらない事が私にはストレスだったようだ。
鼻歌まじりにそのままだった荷物の荷解きをすすめ。部屋を整える余裕もうまれた。
「よっこいしょ」
今日は天気もいいし洗濯物も布団もよく乾くだろう。久しぶりにふかふかの布団で眠れる。
ベランダで布団を干していると、空き室だったお隣の部屋に誰かが入居してきたようだ。
換気のためだろうか?窓を開けてベランダへ出てきた。
「…どうも」
お隣さんは、染めてない髪が艶やかな20代前半の若者らしい。つまり私と同年代。
目があったのでお辞儀をしておく。
「あ、こちらこそよろしく」
感じがよさそうな人でよかった。
「仕事の時間が不規則なので、うるさかったらすみません」
それは私も一緒だ。
「こちらこそ」
お互い不規則勤務はつらいね?
「はやとー。これどこ置く?」
友達かな?何人かが引っ越しを手伝っているようで隣の部屋から声が聞こえる。
女の子がベランダに出てきた。
「どうも」
また目があったので挨拶をしておく。
「あ、こんどこちらに連れが引っ越してきました。うるさくしないように言っておきますんでよろしくね!」
元気な子だなぁ。
お隣さんは友人が多い感じだ。リア充だなぁ。
「ちょっと。お隣さん女の子じゃん?恋とかはじまっちゃう?」
聞こえてますけど。声が大きいよ?ここのアパート壁が薄いんだから。
ここに引っ越ししてきてようやく仕事も決まり、部屋を整え、干したふかふかの布団で寝て
英気を養った私は会社に出社してきていた。
今日は私の初オペレーションだ。
すでに私が操作する人造人型生物の一般戦闘員とのマッチングはアプリですませてあり、動きのテストも終わっている。
「リーリーリー」
この人造生物は、しゃべれない。野球の塁に出た選手のような発声しか出ないのが仕様のようだが、身体の動きは軽快だ。
私はモニターをみながら、彼らを操作する。
どうやら彼らはまっすぐたてなくて、やや前かがみで手をぶらぶらさせているのがデフォのようで落ち着きがない。
「くっくっく!今日は外国からの要人をコロナ待機中のホテルから拉致をする!」
それがどういった理由でとかは関係ない。私はこの会社の歯車のひとつでしかないのだ。
リーダーの怪人に続いて、「リーリー」いいながら潜んでいたハイエースから飛び出す。
ホテルの前にいた警備の人を肉弾戦で倒し(殺してはいない、戦闘不能にするだけ)ホテルのエレベーターで普通に最上階まであがった私達一行は要人の待機している部屋になだれ込む。
「きみたちは何だ??」
と多分言っているのだろう。外国語なのでよくわからないが。
「リー!」
護衛をぶっとばすとリーダーの怪人の先導で再び会社のハイエースでアジトである廃工場へ要人を拉致る。
「くっくっく!」
リーダーの怪人は悦にいって笑っている。今日はこのままこのアバターはここで待機だそうだ。
「おつかれー」
夜番の交代勤務の人と私は交代し私の仕事は終わった。
「残業もないだなんて、いい会社」
夕方のスーパーの半値シールの時間まで時間をつぶし、今日の夕飯をゲットすると帰宅した。
「そろそろ自炊も考えるか、半値弁当だけじゃ栄養も偏るし」
最近できた吹き出物が悩みだ。野菜不足が続いていたからなぁ。半値のお弁当には衣のあつい揚げ物がつまっている。
エビなんて衣8割身が2割がいいところだ。中身のエビはたたいてうすくのばしてあって、
プリっという触感もない。エビの風味だけの小麦粉のあげものだ。
「味噌汁うまー」
でもフリーズドライのナスの味噌汁はおいしい。
ゴマの風味の味噌汁をお供に安売りのお弁当で簡単な夕食を終える。
「今度は何かお茶も買ってこよう」
白湯をすすりながら決意をする。
そう、入社支度金が入ったのだ。お茶とかのし好品もこれで買える。
なんという充足感。
サラメシとアナザースカイを見たあとはやることもない。
明日の仕事も拉致らしい。罪悪感に蓋をして私は早めに就寝のために横になった。
「はいっハヤトです」
お隣さんだ。まだ起きていたんだ。電話かな?ここ壁薄いから物音つつぬけだよー?
「なんだって?N国の領事次官が誘拐された?すぐ出動します!」
あれれぇお隣さんて警察とかそっち関係の方?
まさか私が昼間にリーダーの怪人と一緒に誘拐した人って…。
その結果は次の日に出た。
突然現れた7色の戦闘ヒーローズの中の白色の奴、あれ、多分お隣さんかもしれない。
「リーリーリー」
私達は次のターゲットのN国監査役次官補を誘拐し、アジトに向かったところだった。
そこで、途中の、なぜか公園の砂場で7色の戦隊ヒーローズに私達は絡まれたのだった。
今回の現場は駐車場が遠かったため、公園を横切る必要があったのだ。
「許さないぞ!怪人!」
赤い奴が吠えると、なんかすごくいい武器っぽいもので私達は攻撃された。
何人かが倒され、制御不能になった。
…ずるい。私達ってば基本肉弾戦なのに。
「やっておしまい!」
今日のリーダーはエビとカニと人間をかけあわせたような女性の怪人で、めっちゃナイスバディだった。露出多め。お約束かな?
「やめろ!なぜこんな事を!」
「リー!」
聞かれたけど私達は「リー!」しかしゃべれない。
「なぜ?それはこの世の中をただすには必要な事だからよ!」
「「りー!」」
洗脳されてる私達はリーダーの言葉に歓声をあげる。「リー」しか言えないんだけど。
「邪魔はさせない!」
エビカニ…なんかおいしそうだな、リーダーが赤と交戦しはじめた。
私達、一般戦闘員もリーダーに続けとばかりに、ヒーロー達に飛びかかる。
白はリーダーのはさみに腕をはさまれてた。痛そう。
ふと気が付くと紫の奴がピンクの奴と共に我がリーダーを物陰から武器で狙っている。
「リー!!(飛び道具とは卑怯なり!)」
私は人造人間のアバターを動かして回り込んで紫とピンクに飛び蹴りをする。
「きゃぁぁ!」
「「ピンク!!」」
赤と青の奴がピンクにかけよって介抱している。おいおい紫はいいのかよ。
紫は自力で起き上がってた。何もいうまい。
「赤!フォーメーションだっ!」
黄色がなんかでかい武器を地面に設置した。7人の戦隊ヒーローズはそれぞれの位置に陣取りなんか必殺技を放つモーションのようだ。
気が付けば、さっきの戦闘で、一般戦闘員たちは私以外みな倒されている。
「リー!(危ない)」
なんか必殺技が発射されたので私はエビカニウーマンを突き飛ばしてかばった。
私達一般戦闘員達と違って、怪人達は生身と聞いている。私はここで倒されてもオペレーション中の私が死ぬわけじゃない。リーダーは守らなければ。
「!!!!」
ビリっと身体に電流が軽く流れたような刺激のあと、私のモニターは沈黙した。
アバターが倒されてしまったようだ。
エビカニウーマンは逃げきれただろうか。
「金一封かぁ」
エビカニウーマンはどうやら逃げきれたらしく、私は彼女を戦隊ヒーローズから守ったとの事で
金一封を現ナマ支給された。
「お茶を買ってかえろう」
ちなみに我が秘密結社がN国の要人を狙ったのは、通信事業で特許をいくつも持っているN国からの我が国への無茶ぶりを阻む目的があったらしい。
でもやってる事は誘拐だからね…。
「難しい事はわからないや。私は仕事があって給料がもらえれば十分」
もう二度と、お金のない恐怖は味わいたくない。
スーパーでお茶だけのつもりだったけど、自炊のための食材を買って帰ると自転車をおして帰ってくるお隣さんと遭遇した。
ああ、腕、ケガしてるや。
「食べます?腕、どうかしたんですか?」
「あ、ちょっと…」
そりゃ言えないわなぁ。
私は罪悪感から、スーパーの袋から雪見だいふくを出すと、彼にわたした。
「お大事に」
部屋に入って、少しくつろいだあと、洗濯物を取り込むためにベランダに出るとお隣さんのベランダには白のヒーロースーツが他の洗濯物に隠されるようにして干されていた。
白って汚れが目立つもんねぇ。
「世の中は世知辛いね」
私の独り言は冬の空に消えていった。
「あ、雪」
今夜は冷えそうだ。鍋にでもするか。
私はベランダの窓を閉め鍋の準備をはじめた。
お隣さんからは焼き魚のにおいがしてくる。
ちゃんと自炊しててえらいね?身体が資本だからかな。
互いに因果な仕事についたものだ。ちょっとおかしくて、ちょっと泣けた。