3日目
◆???
どうしよう……
というかどういうことなんだ……?
何で?
約束していたじゃないか。
なのに何で反応ないの?
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイ――
……でも、やらなきゃ。
◆昼 探偵――立花レン
寝覚めの悪い夜が続いた。
といっても調査していて寝落ちしてしまったことも原因なのかもしれないが。
ヤエギ。
綾胸エリ。
ピエロに殴り倒された二人について過去の呟きや動画などを色々と見ていた。そこでやり取りやコラボ放送があった何人かをピックアップし、彼らのSNSをチェックした。かなりの人数が多いのでまだ調べ切れていない。
時計を見る。
昼の三時。
昨日とは違い、午前0時まで時間がまだある。
調査の為の時間が……
「……どうしてこんなにムキになっているんだろうな」
ふと手が止まる。
僕は探偵だ。
だからといって誰から依頼を受けたわけでもない。
それにこれは事件かどうかすら分からない。
そんなものを調べて、どうなるのか。
何があるのか。
「……そんなこと、知ったことではないね」
僕は自身の考えに対し、敢えて口に出して吹き飛ばす。
笑みを浮かべて言ってやる。
「自分がやりたいことをやる。それが――Vtuberってやつなんだよ」
理由なんてない。
僕がバーチャルで探偵だから、気になった事を調べている。
ただそれだけだ。
「えっと……あのピエロは『デスBAN』ってのが定着しつつあるんだな」
デスBAN。
センスがあるのかないのか分からない名称だ。
だからデスBANでSNSを検索し、周囲の反応を確かめる。
「元画像がまだ見つかってないのか。ということはオリジナルなのかな? ………………え?」
僕は検索する手を止めた。
SNSにこう書いてあったのだ。
デスBANの犠牲者これで三人目か。
「三人目!? まだ午前0時になっていないのに!?」
僕はすぐさま検索し、三人目の犠牲者となったVtuberの名を見つける。
リード・ザーヴェラー。
僕が寝る前にチェックを付けていたVtuberの一人である。
僕はすぐさまYoutubeのチャンネルに飛び、最新に投稿された――どうやら動画ではなく生放送――のアーカイブを視聴する。
仮面と首輪が特徴的なVtuberだ。説明文を見ると『異世界にある図書館で働く魔術師とのことで、首輪は特殊な魔術により自分で外すことが出来ないという特徴がある』とある。
そんな彼は見た目とは裏腹に中性的な声で、雑談をしていた。
『あ、あ、せ、世間では今、デスBAN、ですか? そんな物騒な人がいるらしいですね……人? ちょっと判りませんが、ピエロの姿をしている人に後頭部を――』
そう話している間にいつの間にかピエロが背後に出現して忍び寄り、そして、ガツン!! という先の二人と同じ大きな音で放送は終わっていた。
間違いない。
デスBANだ。
ヤエギと綾胸エリと同じデスBANが、リードにも来たのだ。
時刻はコメントから推定するに、昼の12時頃。
「勝手に夜の12時だと思っていた……っ!」
ダン、と机に拳を叩きつける。
自分の思い込みに腹が立ったのだ。
もしそうじゃなかったとして、何かできたわけではない。
それでも無性に悔しかった。
「次は止めてやる……っ!」
僕はそう誓いながら歯を食いしばった。
しかし。
そんな僕の決意虚しく。
デスBANによる次の事件は起こってしまう。
◆―― とあるチャット、音声通話ツール
「リードは何やっているのさ!? 僕聞いていないよ!」
「まあまあ、落ち着け雨下君。彼にも何かあったのだろう」
「何かって何さ!?」
「それは分からないが……まあ、過ぎてしまったことは仕方ないだろう」
「そこは我慢しましょうよ、雨下君」
「むう……あいつ、一番目立ちやがって……昨日もちょっと様子おかしかったから、きっと最初からこうやるつもりだったんだな!」
「うむ。確かに様子はおかしかったが……」
「どちらかというと何か怯えている様子でしたね」
「きっと僕達に怒られると思ったんだよ!」
「そうかもしれないが……まあ、確認しようがないから、もう気にしないでおこう、雨下君」
「……まあ、仕方ないけど。……そういえば次は2人でしょ?」
「ああ、うん。そうだね」
「じゃあ準備の為に落ちるぞ。お疲れ様だ」
「お疲れ、雨下君」
ドゥエムマスク が退室しました
なよ が退室しました
「……何だよ、もう」
雨下ふらしが退室しました。
◆夜 探偵――立花レン
夜だ。
今まで怠惰に寝てきた僕は今回ばかりは寝まいと頑張っていた。
その間、眠さと戦っていただけではない。
更に調査していたのだ。
ヤエギ
綾胸エリ
リード・ザーヴェラー
この三人は少なくともSNS上で繋がりがあった。
では、この三人と共通して繋がっているVtuberは――と探した所、一〇人ほどいた。
その中でも僕はある程度の目星として、四人の動向に目を付けていた。
『ドゥエムマスク』――拘束マスクの半裸の大男。
『なよ』――本屋でアルバイトをしている黒髪くせ毛の目が赤い20歳の大学生。
『雨下ふらし』――2つの触覚、白い髪が特徴の不定形Vtuber。
『にち・ブロードスカヤ』――頭の輪っかはある女性のVtuber。
その内の一人――ブロードスカヤさんとは、コラボしたり個人的に繋がりがある。かなり仲も良い方だと思っている。だから彼女の名前が挙がったことに驚いたものだ。
その為、共有サーバーを使って彼女に確認を取ってみた。
レン:あの、少しお時間いいですか?
その書き込みから少しして、返答が返ってきた。
ブロードスカヤ:あ、レンさん。もしよかったら通話いいですか?
レン:いいですよ。
直後に着信があった。
「もしもし」
「レンさん、こんにちは」
「ブロードスカヤさん、こんにちは。すみません時間頂いて」
「あ、いえいえ。私の方も相談したいことがあったので」
「相談?」
「あ、レンさんの方からどうぞ」
「えっとですね……ブロードスカヤさん、巷を騒がしている『デスBAN』って知っていますか?」
「あっ。そのことで私もレンさんに相談したかったんですよ」
「そのことで……?」
「レンさんって〇〇県でしたよね」
「ええ、まあ、前お話ししましたけど……」
「レンさん――リアルコラボしませんか?」
リアルコラボ。
Vtuber同士がリアルで顔合わせしながら配信すること。
このメリットはコラボ相手との仲の良さを思い切りアピールできるし、お互いが同じ空間にいることでの面白さや企画が出来ることだ。
しかし反面、リアルを晒すことになるというリスクは存在している。
そして今回の場合、更なる懸念事項がある。
「ブロードスカヤさん、リアルコラボを僕と貴方がするのは少し避けた方が良いと思います。私と貴方は異性ですから。未だに異性のリアルコラボは、少なくとも大手ではされていないので危険です」
僕は男性でブロードスカヤさんは女性。
男女がリアルで会うということは、変なことを勘繰る人が絶対にいる為、炎上することは間違いない。
それをすぐさま理解したブロードスカヤさんは「あ、そうですね。ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にしてきた。
「なので今回はリアルコラボは……」
「言い方が悪かったですね。コラボは口実なんですよ。私、レンさんにリアルで会いたいんです」
「……はい?」
そちらの方が色々とマズいのだが。
「リアルで、ですか?」
「えっと……このサーバー上での会話ではなく、直接お会いして話したいのですが……駄目ですか?」
駄目ですか? と言われても困る。言わずもがな、リアルで会うのはリスクが高すぎる。
「あの、もしお時間あれば明日の正午にこの場所に来てくださいませんか?」
そう言って彼女はダイレクトメールで住所と、そしてあろうことか容姿と本名を送ってきた。こちらはまだ返事をしていないのに、個人情報が分かるようなものを送ってくるのは至極危険なことだ。
しかしながら、裏を返せば彼女はそれだけ僕を信頼しており、かつ、焦っているということだろう。
どうする。
僕はここでリスクを冒して情報を取りに行くのか――
「……少し考えさせてもらいませんか?」
……僕は決断を先延ばしにした。
◆
「……流石にちょっとなあ……」
僕はPCの前で眉間に皺を寄せていた。
ブロードスカヤさんは「明日の朝でも大丈夫なので、お待ちしておりますね」と柔らかな声で言ってくれた。ただ、今の所はリアルで会って話を聞こうとは思っていない。
あくまでまだネット上での怪事件に過ぎないのだ。
その解明に実姿を晒すのはリターンとしては少なすぎる。
だが気になるのも事実だ。
ブロードスカヤさんは何を知っているのか。
そして自分の個人情報を晒してまで僕に伝えたい事とは――
「……」
悩んでいた。
個人情報を一方的にとはいえ伝えて来た、その誠意に応えなくちゃいけない気もしている。
ただその一歩が踏み出せない。
だから、保留、だ。
「とにかく、今日の4人の様子を見てからにしよう」
意識の切り替えとして、3人のVtuberに目を向ける。
ドゥエムマスク。
なよ。
雨下ふらし。
にち・ブロードスカヤ。
この4人の誰が次に来るのか。
そして今の所、生放送の予定が入っているのはただ1人だけ。
にち・ブロードスカヤ。
今日は定期配信日なのだ。時刻は23時30分から。 SNSで告知もしているから間違いない。
それは裏を返せば、彼女が一番犠牲になる可能性があるのだ。
僕は彼女の配信を待ちながら、先に彼女から送られてきたメッセージに目を通す。そこには連絡先として電話番号も書いてあった。
想定していたことが起こった場合は即座にこの番号に掛けられるように準備しておく。
そしてついにその時は来た。
『はい、皆様こんばんは。にち・ブロードスカヤです』
彼女の放送が始まった。今日は雑談配信の様で、彼女のトークにコメントがたくさんつき、それに反応して楽しい放送になって行く――正に人気放送主といった所だ。
そんな彼女のトークに引き込まれ、あっという間に日を跨ぎそうになる。
残り3分。
残り2分。
残り1分。
そして――
『そうですね。そういう感じもあるかもしれませんね』
0時を1分、2分と過ぎても、彼女の背後に変化はなかった。
ピエロ――デスBANは現れなかった。
彼女はそのまま30分間トークし配信を終了した。
よかった、という気持ちと、何で出なかったんだ、という疑問が入り混じって複雑な気持ちのまま、僕はSNSを開く。
「っ!」
そこで入ってきた目に入ってきた情報。
それは、直後にブロードスカヤさんにリアルで会うことを決意させるのには十分なモノだった。
◆――インターネット
「またデスBAN出たのかよ!」
「誰がやられたんだ?」
「ドゥエムマスク、ってやつと、なよ、ってやつだ」
「今度は二人同時だってよ」
「マジかよ!?」
「いやいやいや、それよりやべえの出て来たぞ」
「やべえの?」
「週刊誌が情報出したんだよ」
「情報? デスBANのか?」
「ある意味それだ。デスBANがマジでデスBANだったって話だよ」
「マジでデスBAN? おいおいそれってまさか、まさかなのか?」
「そうだよ。ちょっと前にあの沖縄で殺された男がいただろ?」
「いたな。殴られて死んだって奴」
「あれが――デスBANに殺されたVtuberらしいぞ」