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Vtuber殺人事件  作者: 狼狽 騒
2/11

2日目

◆昼 探偵――立花レン



 次の日。

 僕は目覚めが悪かった。

 原因は昨日のあの出来事だ。

 ヤエギというVtuberが突然にピエロに殴られて配信が終了したあの放送の所為で夢見が悪かった。

 どこかバーチャルなのに――いや、バーチャルとしてリアリティのある終わり方だったので頭に引っ掛かったのだ。

 ……世間の反応はどうなのだろうか?

 気になったのでネット上で調べてみた。


「……大して話題になっていないな」


 ヤエギ、で検索しても昨晩の出来事は多くはヒットせず、しかもネット上の反応はどこか面白がるようなものばかりであった。


「仕込み……まあ、普通はそう思うだろうな」


 実際、僕も最初にそう思った。

 だけど何だろう……探偵の第六感というモノだろうか? それが何かがおかしいと訴えてくるのだ。

 あれが仕込みで遊びであるならば、それはそれでいい。

 そう思いながらヤエギのSNSを見てみる。

 昨晩以降から投稿がぷっつりと途切れている。フォロワーからの反応にも何一つ返していない。まあ、仕込みであったらそれは当然だろう。……仕込みでなくても同じだが。


「……ん?」


 フォロワーからの反応を辿っていた所、ふと違和感を覚えた。

 今までのヤエギの呟きに全て返していたフォロワーが、昨日の最後の呟きにだけ何も返していなかったのだ。


「……綾胸エリ、か」


 その人物の名を口にして、SNSを見てみる。


「えっと……綾胸エリ、おっぱいの大きな我らが姫、胸から下は見えないが器用に階段を降りる女性、エリちゃん、腕立てをすると地面を胸が付いている女性…………凄いな」


 自己紹介文を読みながら僕は感嘆した。

 胸の大きい女性型Vtuberだが、Pカップは流石に現実離れしているだろう。

 ……いや、凄い、とはそういうことではない。

 仮想空間を存分に楽しんでいる様子で凄いと思ったのだ。

 そのままの勢いで動画も見た。


『やっほーっ! エリちゃんだよ! みんな見惚れているー?』


 女性特有の高い声で自分の胸を言葉でいじっている。コメントの反応もノリノリだ。バーチャル世界を思いっきり楽しんでいるのが分かる。

 しかしながら、そんな彼女のSNSの呟きは昨日で止まっていた。かなりの頻度で呟いていたのにヤエギと同じタイミングで呟きを止めていることが気になる。


「……え?」


 SNSからYoutubeのチャンネルに移った所で、僕は思わず声を上げてしまった。


「生放送予定がある……?」


 綾胸のチャンネルには次回の生放送予定が入っていたのだ。

 時刻は午前0時。

 題名は『雑談配信するよー』


「見てみるか」


 僕はそう誓うと、夜に備えてもう一度布団に入るのだった。



◆――とあるチャット・音声通話ツール




「ヤエギ君、本当にやってくれたな」

「本当ですよね。結構怖かったです」

「でもあんま話題になっていないなー。次が大切だよ。ねえ?」

「……そうですね」

「ん? どうしたのだリード君?」

「反応がちょっと遅かったですよ。何かあったのですか?」

「いや……何でももない」

「あれ? 何でも無い割には反応がまた遅かったよね。どういうことかな?」

「いや……綾胸エリさんはどうしたのかな、って思って」

「エリちゃん? そういえばサーバーに入っていないみたいですね」

「いつもいないじゃん。前にいたのが奇跡的なんだよ」

「次はあの人の番だからな。色々と準備しているのだろう」

「……だといいんですけど……」

「リードさん心配し過ぎだって」

「そうですよ。僕達は何も悪いことはしていないのですから」

「そう……ですよね……」



 リード・ザーヴェラー が退室しました




◆夜 探偵――立花レン


「……こんなに寝るつもりはなかった」


 時刻は23時50分。

 先程寝たのはいつだろう。一日がこれ程早く過ぎたことが今まであったのだろうか。


「とにかく……見なくては」


 目を擦りながら僕は綾胸エリのチャンネルへと飛ぶ。午前0時開始だからギリギリ間に合った形だ。待機中の画面では放送していないのにコメント欄で盛り上がっている。

 と、それを眺めている内に午前〇時になった。

 放送が始まる。


『……み、みんなこんばんはー! え、エリちゃんだよー』


 綾胸エリが手を広げて跳ねる。動画でも見せていた挙動だ。

 動画で見た彼女と挙動も口調も声も同じ感じだ。


「……?」


 だが……何かが違う。

 何が、というのを言葉ではどうも表せられないのだが……

 でもそれは視聴者も感じていたようだ。


【あれ? エリちゃんどうしたの?】

【具合悪い?】

【体調悪そうだね】


『え? あ……そ、そんなことないよー! 元気元気! エリちゃん元気! あ、そうだ! 今からゼルダ配信しようか! また12時間やっちゃうよー』


 やめてくれ! 悪夢再び! ねかせて ――などとコメントが盛り上がる。どうやらただの思い過ごしだったようだ。

 午前0時も過ぎているし、心配も杞憂だったようだ。


 ――と、安堵した、その時だった。


「あっ……」


 僕の目は見開かれた。

 綾胸エリのその背後。

 そこにまたいたのだ。


 ――あのピエロが。


【何だあのピエロ?】

【デスBAN?】

【あれデスBANじゃねえか!】

【え? 何でエリちゃんの放送に?】

【エリちゃん逃げて!】


 コメント欄でもピエロについて言及している。

 だけどそのコメント欄の忠告も虚しく、


『うーん。残念だけどみんなの要望もあってゼルダ配信はやめ――』



 ガンッ!!


 大きな音と共に配信が切れた。

 あの時と――ヤエギの時と同じだった。

 悪い予感は当たってしまった。


 綾胸エリは、ピエロに殺されてしまったのだ。



◆――インターネット


「またデスBAN出たってさ」

「二日連続?」

「仕込みにしてはこっているね」

「#デスBAN」

「だからはやらねえって」

「でもはやるかもよ?」

「あのデスBANのBB(※)誰か持ってないの?」

「切り抜きむずくね?」

「というかあれの元ネタなんなの?」

「分かんねえ。誰か特定班頼む」

「お前がやれ定期」

「つーかこのままだと明日も同じやつが出るんじゃね?」

「次は誰の放送なんだろうな?」

「おい不謹慎だぞ」

「不謹慎……なのか?」

「わかんねえ。バーチャルだからな」


※BB:ブルーバックの略。クロマキーで透過処理に利用する時などに背景色をブルーにしておくこと

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