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Vtuber殺人事件  作者: 狼狽 騒
10/11

真相

「デスBANを生み出したのは、僕を――第三者を呼び出してアリバイの証人にする為もあったんですね」

「はい。その通りです。レンさん、貴方を利用しました」

「まあ、そんな所だとは思いましたよ」


 全てを認めた私に、レンさんはそう言った。しかしその声色は不思議と優しかった。


「自分の身を明かすとか、リアルで話をしたいとか、かなり強引に話を進めようとしていましたし、リアルと現実が混同するような真似、貴方はしないと思っていましたから、変だとは少し思っていました」

「……レンさんは私を買いかぶりすぎですよ」


 視線を落とす。

 どうしてもレンさんの顔が見られない。


「……どうしてこんなことをしたのか、聞いていい話ですか?」

「ええ。むしろここまで来たら全て話させてください」


 ぎゅっと拳でスカートの裾を握り、私は思い切ってレンさんの顔を見る。

 レンさんの顔は――とても優しかった。

 そこで一瞬驚いたものの、しかしながらそんな優しいレンさんに対して真摯に向き合うべく真っ直ぐに目を見つめて言った。


「私、Vtuber活動楽しかったんです。とっても……楽しかったんです。ふーちゃんと一緒に初めて、初めて生放送して、みんな暖かいコメントが来て、どんどん登録者も増えていって……視聴者の人とか他のVtuberの人とか、色んな人と交流が出来て……Vtuberとしての活動は、本当に楽しかったんです……」


 駄目だ。

 まとまらない。


「だけど……ふーちゃんが、突然言ってきたんです『コラボしないと、リアルの情報をばらすぞ』って……だけど……私、リアルの情報がばれてみんなと離れたくなくて……でもふーちゃんと無理矢理コラボしたらそれも炎上するからみんな離れていく……それも嫌で……ふーちゃん話を聞いてくれなくて……みんなとの楽しかったことを奪われたくなくて……それで…………それで……」




 ――楽しいことしようぜ!




「……あっ」


 ……忘れていた。

 どうしてだろう。

 何でだろう。

 何で今まで忘れていたんだろう。

 私が楽しかったこと。


「何で……私、ふーちゃんを……」


 視聴者も大切だった。

 でも、同じくらい大切だったのは――


「どうして……どうして……あ、あああああああああああ!」


 言葉が止まらない。

 涙が止まらない。

 気が付いた。

 気が付いてしまった。


 私は――



「私は結局……リアルとバーチャルが混在した、愚か者だったんですね……」





「――んなこたあ分かってんだよ!」




 ――その声は玄関先から聞こえた。

 そこにいたのは……



「……ふーちゃん?」



 頭に包帯を巻いたふーちゃんがそこにいた。

 息を切らして。


「意識が戻って……いや、どうしてここに……?」

「あのなあ、あれくらいの衝撃で僕が死ぬわけないだろうが。……ってかそこじゃねえよ」


 ふーちゃんはずかずかとおぼつかない足取りで入ってくると、私の頭を小突いた。


「お前は昔から思い込むと一直線だし、そもそも現実と非現実が分からないような文学少女だったじゃねえか。ホラーに傾倒しやがってよ。だからそんな風に思い詰めることなんて分かっていたはずなんだよ! あー、くそっ!」

「……ふーちゃん?」

「僕が口調が悪いのも分かっている。登録者という所でお前にコンプレックスを持っていたのも事実だ。あー、頭から血が抜けたから色々と分かったわ。焦りすぎたし、口も悪かった。それは謝る。ごめん」


 頭を下げる。と、途端にくらっとふらつく。


「ふーちゃん!」

「あー、血が欲しい。今度は吸血鬼にも転生しようかな」

「そんな冗談なんて言っていないで」

「あー、冗談も冗談。恥ずかしいから冗談言わないとやってられないぜ」


 ふーちゃんは、ふん、と鼻を鳴らす。



「まさか転んで床に落ちていたバットに頭を打ち付けたなんてことがあったなんてさ」



「え……?」


 ふーちゃんは何を言っているんだ?


「違うよ! ふーちゃんは私が……」

「あー、うるさい。思い込みが強いんだよ、お前は。僕が転んだって言ったら転んだの。警察の人には後で一緒に謝ってやるからさ」


 だからさ、とふーちゃんは、にっと笑った。



「また、楽しいことしようぜ」



    ☆☆☆



「なあ、楽しいことがあるんだけどさ、一緒にやらねえか」

「なあにふーちゃん?」

「Youtuberってあるじゃん。でもお前、顔を出すの嫌がってたじゃん」

「うん……」

「だったら――顔を出さずにバーチャルな形でやればいいんだよ」

「バーチャルで……?」

「バーチャルYoutuber……Vtuberってんだけどさ、面白そうじゃん。家にいても出来るし」

「そうだけど……でも、ネットの人達って怖いんでしょ?」

「んなことねえさ。とりあえずやってみようぜ。僕が一緒にいてやるからさ……あ、やっぱ最初は知り合いってこと隠してやろうぜ」

「な、何で意地悪するの……?」

「い、意地悪じゃねえよ。ただ単に僕はお前にもっと広い世界をだなあ……だあっ! とにかく楽しいことをしたいってことだ。分かったか!」

「う、うん……」

「よし! そうときたら一緒に考えようぜ。どんなキャラクターとか容姿にするかってのを」

「うん」

「絶対に楽しいからよ。信じろ」

「……うん。それは信じているよ。だって――」



 ふーちゃんと一緒なら――何だって楽しいんだから。




    ☆☆☆




「ふーちゃん……ごめ……ごめんあ……ごめんなさい……」


 大切なことが何か。

 あの時、とても楽しかった。

 違う。

 今も楽しかった。

 それは視聴者のみんながいるから。

 そして――ふーちゃんがいるから。

 それを勘違いしていた私は馬鹿だ。

 ふーちゃんの優しさを知っていたはずなのに。

 はず、なのに……



「わああああああああああああああああああああああああああ」



 涙がとめどなく溢れ。

 ふーちゃんの胸に顔を押し付けるようにして泣いた。

 頭の中は真っ白だ。

 ……だけど。

 ただ一つだけ分かったことがある。


 ふーちゃんの胸は――暖かった。

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