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グンマー大戦  作者: WW
第2章
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紫電迸る災いのダルマ 4

 誰かが、逃げろと叫んだ。


 次の瞬間、大地が揺れた。凄まじい紫の閃光が地面を砕く。荒れ狂う暴風が吹き抜け、すべてを攫おうとその猛威を振るう。


 レイはユリの身体に覆い被さると、地面にダガーを突き刺した。後頭部を瓦礫に叩かれ、飛びそうになる意識を辛うじて踏み留まらせる。自分が飛ばされれば、ユリも谷底へ落ちてしまう。それだけは避けなければならない。今の彼女はただの女の子に等しい。落ちれば命はないだろう。


 ようやく風が収まり、爆心源に視線を向けた。


 直径五〇メートルほどの巨大なクレーター。その中心に黒い外套を纏う何者かが立っていた。フードを被っているせいで顔は見えない。その姿が揺れたかと思うと、次の瞬間にはクレーターの外にいて、こちら側に近づいていた。


 全身の温度が急激に下がったように感じた。冷や汗がこめかみを流れ落ちる。

 講義でその現象を教えられた記憶が蘇る。


『いいか。くれぐれも黒ダルマには近づくな。あれは個人でどうにかなる相手じゃない。天災だと思え。台風も地震も刀じゃ切れないだろ? 間違っても倒そうなんて考えるな。もし、遭遇したら――』


 その場の全員が、顔を色変えて駆け出した。


「総員、全力で逃げろ! 三時間後にC地点で合流!」


 レイはユリの身体を抱えようとするが、彼女はそれを拒んだ。


「ユリ! 早く逃げないと死ぬぞ」

「じゃあ早く逃げなよ!」

「お前を置いて行けるわけないだろうが!」


 自分の声が驚くほど大きくなってしまい、レイは戸惑った。だが、すぐに頭を振って気持ちを切り替える。何と言われようが連れて行く。この先、ユリの力は絶対に必要だ。

 ユリの両脇に腕を入れて、抱き締めるように持ち上げる。


「まだ走れないか?」


 こくりと頷いて、ユリは唇を尖らせた。


「ばかレイ」

「つべこべ言ってないで早く――」


 油断していなかったと言えば嘘になる。


 逃げるときは被害が最小限になるように、全員が別々の方向へ逃げる決まりになっている。完全に相手を捲いてから、予め決めておいたポイントで合流するのだ。

 敵に補足される確率は八分の一。しかし、手負いの二人が同じ場所で動きを止めているとなれば、確率は一になる。


 ユリを逃がすことに気を取られていたレイは、黒ダルマが目と鼻の先まで迫っていたことに気づいていなかった。


 黒い外套が風に嬲られ、フードが外れる。


 レイは目を見開き、息を呑んだ。

 本来の白目が血のような赤に染まり、顔全体に紫色の模様が走っていた。黒々とした点の瞳からは感情が一切読み取れない。

 その異様さに、レイの対応が遅れる。


「レイ!」

「えっ――」


 ユリの手がレイの胸を押した。倒れまいと足を後ろに出すと、そこに地面はなかった。


「ユリ!」


 精一杯に伸ばした手を、ユリは掴まない。

 代わりに淡く微笑んで、呟いた。その瞳から綺麗な滴がこぼれ落ちる。


「――大好きだよ」


 彼女の胸に鮮烈な紅の花が咲いた。口から血を吐き、弱々しく苦笑する。


「ユリ、ユリ!」


 ユリの胸から生えた茎の先に、拍動するものがあった。管から赤い液をまき散らし、伸縮を繰り替えす。


「そんな……」

「生き、て……レイ……」


 五指がその果実に食い込み、握り潰した。

 花は散り、ユリの身体が力を失ったように崩れ落ちる。


「ユリイイィィィ」


 落ちていく中でレイは叫び続けた。


 ――どうして。


 ――どうしてお前は、そんなに幸せそうな顔をして死ぬんだ。


 身体が水面を叩くと同時、レイの意識は弾け飛んだ。

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