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グンマー大戦  作者: WW
第1章
2/31

天空浮遊都市グンマー 2

 ――レイ? レイってば――。


 遠くから声が聞こえた。それは頭の中から聞こえてくる。少女の声ではない。聞き慣れた声だ。


「レイ? ねえ、起きて」

「――ユリ、か」

「もう、何寝ぼけてんの? もう行くよ?」


 周囲を見回すと、ステュクスの隊員が呆れ顔でこちらを見ていた。電車はまだ動いている。一般市民の姿は見当たらなかった。

 夢を見ていたのだろうか。


 レイは足下のボストンバッグを肩にかける。すでに他の隊員たちは扉の前に集まっていた。マルスが扉の間に手を差し込み、力任せにこじ開けた。車内に荒々しい風が入り込む。


 マルスを先頭にして、隊員たちは次々とそこから飛び降りていく。

 あとはユリとレイだけだ。


「まったく、偉そうに言っといて、自分は寝ちゃうんだもん」

「悪かった……」


 早くも犯してしまった失態に、何の申し訳もたたない。

 電車の外を見るユリは、飛び降りる足を止めていた。躊躇っているのか、レイの方を見る。


「ねえ、もし、生きて帰れたらさ」


 彼女は目を伏せると、わずかに赤らんだ頬を隠すように顔を外に戻した。


「ううん。何でもない。行こっか」


 飛び降りたユリにレイも続く。


 着地と同時に横に向いた力が襲ってきて、草の上を転がった。何回転もして慣性の力を殺し、ようやく立ち上がることができた。ユリがすぐに飛び降りなかったせいで、仲間との距離が開いてしまっている。

 この任務は、表向きには民間組織が密入国する体を装っている。そのため、日本政府が持つ正規ルートで入るわけにはいかず、途中下車するためには飛び降りざるを得なかった。


 急ごうと声をかけようとしたレイだが、感嘆の声を漏らしたユリに釣られて背後を振り返る。

 そこには青空が広がっていた。大地はすぐそこで途切れ、眼下には白い雲が漂っている。落ちないように覗き込むと、遙か下に日本が見えた。衛星写真で見たのとまったく同じ形をしていて、自分が確かにグンマーへと足を踏み入れたことを実感する。


「観光で来てるんじゃない。ここからは常に危険と隣り合わせ、気を引き締めろ。――総員、武装しろ」


 合流してすぐ、マルスにどやされた。レイはユリに抗議の目を向けるも、彼女は悪戯っ子のように笑顔を見せるだけで、反省の色はなかった。


 レイはボストンバッグを地面に落として、服を脱ぐ。カジュアルな格好の下から現れたのは深い緑色のボディースーツ。機能性に優れた素材でできた一級品だ。動き易く、破れにくい。通常衣服に使われる糸と異なり、隊員たちの身体能力に耐え得る繊維だ。

 別の隊員が背負っていたチェロのケースから日本刀を受け取り、腰に差した。他の武装も整えながら、白銀髪の少女の言葉を思い出す。すでに顔が曖昧になっていたが、言葉だけはまだ耳に残っている。


『来ては駄目。駄目なの。お願い。でないと――』


 ――あなたは死んでしまう。


 予言めいた不吉な夢に背筋がぞくりとした。


 準備を終えたレイは日本刀の鯉口を切り、波打つ刀身を軽く振り回す。この日のために作られた代物のはずだが、妙に手に馴染んだ。鞘に収め、マルスに頷きを返す。


「現在日時をもって、ダルマ奪取作戦を開始する」


 レイは頭を振って耳に残る少女の声を追い出すと、鋭い双眸で眼前に広がる大地を睨みつけた。

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