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グンマー大戦  作者: WW
第6章
16/31

救済と再会 1

 グンマー城は地上での群馬県庁と同じ位置にあたる。


 県庁のある前橋市は赤城山のある北に向かって緩斜面が広がり、中心辺りから南に向かっては平坦な土地が続いている。県庁付近は平地だ。最寄りである前橋駅まではバスが基本で、県庁所在地であるにもかかわらず、大して栄えていない。それは新幹線が前橋市ではなく高崎市を通っているためだ。素人から見れば高崎市こそ県庁所在地だと思うだろう。しかし、悪いことばかりではない。高崎市に近いので割と交通の便がよく、栄えていないことで忙しさから解放されており、とても住みやすい街だ。


 どうやら天上でも地上と変わりないようで、グンマー城は平地にあった。平地の城は防御面で劣るものの、城下街の統治がしやすく、交通の面でも優れている。


 クサヅからグンマー城まではおよそ徒歩一五時間かかる。それだけあれば虚番の任務終了時間をとっくに過ぎてしまうため、早くも手詰まりと思われた。

 だが、ここでグンマが誇る高度文明の一端を目の当たりにすることとなる。


 ハルナの案内でやってきたのは長方形の建物だった。窓は一切なく、出入り口となる扉は鋼鉄で重厚な作り。そこの前に正方形の箱があり、そちらはカウンターの奥に人が座っていた。 カウンターの上に掲げられているプレートには記号のようなものが一字書かれているだけだ。


「……ざけつ、じょ? ……あれ? 何で読めるんだ」

「概念文字って言うの。学習の必要がなく、見ただけで理解できる一文字の言語。昔あったQRコードが近いかもしれないわね。グンマの筆記言語はすべて概念文字を使っているわ」


 呆気にとられるレイを放って、白銀髪の女性にハルナが話しかける。女性はうやうやしく頭を垂れて、ハルナに最大の敬意を払った。


 ハルナの手招きでカウンターの前に立つと、女性は少し顔を強ばらせた。レイの黒髪は目立つ。それはグンマー民でないことの象徴だ。王女であるハルナの客人という扱いのため、女性は反応に困っているように見える。彼女が抱いている感情が嫌悪なのか、物珍しさによるものなのかは分からなかった。


 ハルナに言われた通りに手の甲を出すと、スタンプのようなものを押された。どれだけ目を凝らしても何も書かれていない。ハルナの手を見ても同様だったが、彼女は女性にお礼を言って扉の方へ向かってしまう。

 レイは慌てて女性に会釈をし、ハルナの隣に並んだ。


「それは通行印よ。マエバシへ飛ぶための許可を押して貰ったの」

「何もないが、特殊な光を当てて見るタイプか?」

「ふふふ。面白いこと言うのね。何千年前の話?」


 皮肉かと思ったレイだが、どうやらハルナは素で言っているようだった。逆にいたたまれない気持ちになる。

 ハルナが扉の前に立つと、それは独りでに開いた。


「通行印がないと入れないようになっているの。通行印は各所でユニークだから別のところでは使えないし、属性を押すものだから偽造もできないわ」


 中は非常に簡素で、壁際にロッカーがずらりと並んでいるだけだ。


「属性を押す?」

「そうよ。この物体はクサヅからマエバシまで移動可能ですって証明ね。それがあると座結装置のロックが解除されて、目的地に繋がってくれるの」

「いや、属性を押すって何だ?」

「えっ……」

「えっ、ってそんな可愛い声出されても……」

「むぐっ……」


 苦しそうに胸元を押さえながらシュババッという音を立てて身体を背けるハルナ。レイが背中をさすってやるが、彼女の震えは一向に収まらない。


「大丈夫か?」

「え、ええ……だ、大丈夫だわわわ」

「……少し休憩していくか?」

「そ、そんな時間はないわ。もう! 唐突に変なことを言わないで!」

「わ、悪い……」


 怒って興奮しているのか、ハルナの顔は耳まで真っ赤だった。


「は、話を戻すわね。属性を押すっていうのは、そのままの意味なのだけれど……その前にまず、世界の成り立ちを教えなければ駄目ね」


 曰く、世界とは一つの根源から生まれたもので、万物はすべからく根源へ繋がっているという。個々に独立しているように見える人間や動物、他の生きものも、実は一つのものである。それは一粒の種から生える樹木が枝葉を茂らせたように、葉から辿れば幹へ行き着く。


 神は根源から伸びる一つ一つに名を授け、個として認識させた。そうして万物は誕生し、この世界が始まったのだ。

 個にはいくつもの属性がつけられた。その一つ一つが個性として、それぞれの能力や役割を区切っている。火は熱を持ち、それによって可燃物を燃やすことができる。火自体も厳密には完全なる個ではない。個が集まり、別の個を形成する。


 名とは認識の単位。認識により確立された属性の組み合わせによって、万物は成り立っている。


 根源へ繋がっているからこそ、人類は火を発明し、電気を発明し、文明を発展させることができた。繋がっていなければ組み合わせることができず、この世に確立させることができなかった。

 その組み合わせを解明し、研究するのが科学であり、魔法だ。科学と魔法はアプローチが異なるだけで、イコールである。ただし、魔法の場合は扱える属性が血統によって決まってくる。だからこそ、グンマ民は血を薄めないように近親婚を繰り返した。彼らは遺伝子レベルで惹かれ合うのだという。


「少し話は逸れたけれど、つまりはレイという個に対して、クサヅからマエバシまで飛べるという属性を付与したということなの。座結装置がそれを読み取って、扉の座標を決定する。黒ダルマも同じ原理が組み込まれているわ」

「ふーん」

「レイ、もしかして理解できていないの?」

「いや、そんなことはない」


 目を細めて訝しげに覗き込むハルナ。レイはその瞳を真っ直ぐに見据えた。


「ふーん」

「真似するな」

「まあ、いいわ。理解できていなくとも使えるもの。それこそが魔法の本当の意義よ」


 ハルナは適当なロッカーの扉を開けると、その中を指さした。中は細身の成人男性を二人、ギュウギュウに押し込めば入るかどうかの空間だ。


「ここに入って、扉を閉めて、開けたらもうマエバシよ。簡単でしょう?」

「それで本当に着くのか?」

「黒ダルマで経験したじゃない。あれば自分の座標を変換するものだったから少し派手だったけれど、今回は扉の座標だから地味なのは仕方ないのよ」


 中に入るハルナに続いて、レイも進む。


「え、ちょっと、レイ!?」


 ハルナと抱き合うような形で箱に収まり、レイは扉を閉める。ハルナの豊満な胸が押しつけられ、狭い箱の中に充満する彼女の香りに理性のたがが外れそうになる。


「やっぱりキツいな……」

「あ、当たり前でしょう? 一人用よ!?」

「えっ」

「考えたら分かるでしょう? 早く出て」

「わ、悪い」

「ちょっと、胸触らないで! 何で今なの?」

「ち、違う! これは出ようとして」

「――んっ」

「変な声出すな!」


 互いに暴れ狂うようにロッカーを鳴らし、扉が開くと同時に二人の身体が床に倒れた。


 マエバシの座結所は人がちらほらいて、周囲の視線が募った。特にレイの黒髪は白銀髪で統一されているグンマ民にとっては物珍しい。

 顔を真っ赤にしたハルナはフードを目深に被り直し、胸を隠すように抱いて小声で呟いた。


「わ、わたし、こういう、人前で……す、するの好きじゃないわ! レイの馬鹿!」


 そのまま走り去るハルナ。


 冷ややかな視線にレイは自らもフードを被る。

 前途多難な滑り出しにレイは頭を抱え、ため息を漏らした。

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