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98話 情けない、ただいま


「齟齬って?」

「俺が知っているPHYシステムは搭乗者に負担をかけるがPAの能力を十二分に出力するシステムだ。

 だが、彼等が聞いているPHYシステムは初心者でも気軽にPAを扱えるようにしたシステムだとな」


「何それ、全然違うじゃない!」

 リアがPHYシステムを初心者が使うシステムと聞いて使ったとしたら、こんな状態になってしまった事も理解ができる。


『まともに使ったことがない得物で戦えば自ら傷を負うのも当然じゃない……』

 しかもそれがPAとなれば、逆にこれだけの怪我……はっきりと言えば死ななかった事に感謝した方が良いぐらい。



「とりあえず内部的・外部的な傷については治療は完了したけど」

「ああ、あとは精神的なダメージだな。痛みだけではない衝撃やショックがどれだけフィードバックして頭の中に流れたか……こればかりはリアの意識が戻らないとわからないからな」


 こんなことで立てなくなるリアではないこぐらいわかるけど、実際に意識が戻った際にどういう状態になっているかまでは予測がつかない。


『リア、あなたの事をみんな心配しているのよ。きちんと戻っていらっしゃい……』



―――◇―――◇―――



「はぁ……」

 一応、もうすぐ二十時間は越えるのでゲーム(PAW)へログインできるけど、なにか気が重たくて、VRMMO用デバイスギア手が伸びない。


『いままでこんなことなかったのに……』

 なぜこうなったのか理由はわからないけど、可能性があるとしたら……やっぱりPAでの事かな。


 あの時の事を思い浮かべると、正直足がすくむというか、気持ちが不安定になる。


 那緒にゲーム(PAW)で起きた件を話したら『無理しないで。不安ならいつでもこっちへおいで』と言ってくれたとき、本当にうれしかった。


 ……そして怖かった。



『迷惑ばかりかけるわたしにログインする資格があるのか、もう必要とされていないのではないか』


 今のわたしに居場所があるのか確かめるのが怖くて、なかなかログインに手が伸びない。

 ……はははっ、情けない。



「ねぇ、わたしはどうしたいの?」

 ベッドの横にある姿見を見ながら、そこに写る自分に問いかける。


『酷い顔……泣きそうで、情けなさそうで、自信がない顔……』


 そんなことを考えていると、不意に何かの匂いがする。窓の隙間、そこから香る隣家の食卓に並んでいるであろう匂い。



 スンスン



『これは……スペアリプかな?』


 そういえば皆の前でスペアリプを披露して、マチュアさんが凄く気に入ってくれたんだっけ。一人で五人前食べちゃって、ハバスさんから怒られて…… 



 ぐぅぅぅ



「はっ、思い出したらお腹の虫が」

 誰もいないのに無性に恥ずかしい……


 って、


『わたしは何を悩んでいたんだろ』


 居場所が無ければ作れば良いじゃない!

 PA乗りとしてはあんな失態した以上落第かもしれないけど、料理は? マチュアさんから教えてもらった格闘は? なに勝手にうじうじしてるの!



『こういう時は』


 急いで台所に向かうとお湯を沸かし、フライパンを温める。冷蔵庫からウインナを取り出し湯の中に。そしてそこから温めたフライパンへ移動させ、軽く焼き目をつける!


 その間に軽く温めたパンを取り出し、焼き目のついたウインナを挟み込み、ケチャップと秘薬を取り出す。


「ふっふふふ……自家製ハバロネソース、辛さ二十倍のデスソース!」


 これを情け容赦なくかけてっ……パクっとな。


 ・

 ・

 ・


「んんんん~かりゃひ(かっらい)!」


 口の中が大火事なんてものじゃない! 頭の奥底、眼球の裏側を突き刺すような刺激が抜けると、涙が溢れてくる。



「あー、辛かった。というか痛かった……けど、スッキリした!」


 暫く辛さに悶絶していたものの、今は落ち着いて腫れた唇を濡らしたタオルで冷やす。


「こんなことでスッキリして、うじうじした思いが飛ぶなんて我ながら単純よね……」


 でもこれで大丈夫! 何があってもへこたれるものか!


 さっきまでつけるのを躊躇っていたデバイスギアを装着。ベッドの上に横になると、言い慣れたいつもの言葉をデバイスギアへかける。



「アナザーワールド、リンクスタート!」



―――◇―――◇―――



「ここは……」

 確かハルとの戦いで気を失った時に運ばれた部屋……ということは、


「リア、気がついたの!」

 ちょうど扉を開いたマチュアさんと目が合う。マチュアさんは目を見開くと、大粒な涙をポロっとこぼす。


「ただいま……ご心配おかけしました」

「リア!」


 マチュアさんは扉を閉める間さえ惜しみ、わたしの元に駆けてくる。



 ぎゅっ



 痛いぐらいのハグが、わたしがこの世界に戻ってきた事を実感させる。


「本当に本当に本当に心配したんだからね! もしこのままリアが眠ったままだったらどうしようって!」

 マチュアさんはわたしを強く抱き締めながら、何度も何度も『良かった』と声をかけながら涙を流す。


「マチュアさん……」

 そんなマチュアさんを見て、わたしも平常じゃいられるわけもなく、


「マヂュアざん、ごべんなざい(ごめんなさい)、心配かげでごべんなざい(ごめんなさい)


 とわんわん泣きまくり。


 そんな感じで二人の泣き声が開けっ放しの扉から隣室にまで伝わったようで、ハルとロキシーさん、それにファナさんまでやって来て、わたしとマチュアさんを優しい目で見つめていた。



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