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97話 痕(主人公目線ではありません)


 ドガッン!



 辺り一帯に響き渡る轟音。

 リアの乗ったPAが、手にした突撃槍ランスをバンダナのフォーマルハウトに突き刺した状態で、山の斜面へと派手にぶつかる。

 元々突撃槍ランスはすれ違いざまに相手を突き刺す武器であり、さっきリアが行ったような刺したまま走行し続けるなんてあり得ない。


 ただ、彼女が乗るPAである(タイプ)ハマルであれば、その秀でた能力の一つである圧倒的なパワーによって、今のような馬鹿げた戦い方も出来てしまっている。だが、



 ドガッ!


 ドガッ!


 ドガッ!



 ハマルはフォーマルハウトを串刺しに状態で斜面に激突したあとも、突き刺したまま何度も下がっては再び斜面に激突をする。


『あれだけの激しい激突をした後にまだ続けるのか!? あれじゃPAが大丈夫でも中にいるリアがたたじゃ済まない!』


 ハマル自体は無傷に近そうな状態だが、中のパイロットが耐えられる衝撃ではなかったことは明らか。



 ドガッ……



 斜面への四度目の激突でフォーマルハウトはその姿を消し去り、ハマルもそれを確認したのか動きを止める。



「リア!」

 とにかく慌ててハマルへシリウスを密着させると、こちらのコクピットを開いて橋のようにして近づき、まだ熱が冷めないハマルの機体に触れ、コクピットを強制的に開放する。



 ガコン、プシュー……



「……冗談だろ」

 開いたコクピットから流れ出る熱を持った空気に混ざるのは、自分にとって嗅ぎなれた【血の匂い】。



「リア!」

 ハマルのコクピットに移り入ると、中央の座席にはワイヤーで固定されたリアが。だが、その姿は見るも無惨な姿で直視も憚られる状態だった。


 顔色に血色はなく、唇から垂れる幾筋の赤い血がその鮮やかさを異様に際立たせる。薄く開いた目に生命を感じることができず、体にくい込んだワイヤーは所によって服を擦り切らせ、肌を顕にするとともに赤と青の模様を走らせていた。


「くそっ、ロック解除は……これかっ!」


 PHYシステムの要とも言われたシンクロ用のワイヤーがリアの体を縛りつけ、捕えた獲物のように逃すまいと絡んでいる。


『βのころから変わらないどころか酷くなってやがる……』


 自分では使ったことはなかったが、初心者でも手軽にPAを扱えるように。また、PAの能力をより高める機能として紹介されたことから、興味を持ってチェックはしていた。

 だが、PAの能力に比例して使用者へ負荷がかかるシステムと紹介され、オープンβでお披露目された際に流れたテストプレイヤーの映像を見ていた大半のプレイヤー達は、映された阿鼻叫喚のコクピット映像を見たことで無かったものと記憶から抹殺していた。


『正直、プレイヤーの記憶から消え去った機能だと思っていたが、まさかリアが知っていたとは……』



 全てのワイヤーからリアを開放し、ゆっくりと抱き上げるがリアに反応は無い。ただ、触れたことによって辛うじて感じることが出来た体温が【生きている】ことを知らせてくれ、ほんの少しだけ安堵するが予断を許さない状況に変わりはない。


「ここに降ろして」

 ハマルのコクピットからフォーマルハウトを遠隔操作し、ゆっくりと地面に降りるとロキシーが。

 既に清潔そうなシートを近くにあった平らな磐の上に敷き、傍らにはユニコーンを召喚している。



「ユニコーン、リアを癒やして……《白い息吹》」



 ユニコーンから放たれた白い風がリアを包み込む。だが、


これ(ユニコーン)では回復しきれない……もっと高位な治療魔法が必要」

「高位な治療魔法って……マチュアさんの所へ運べば良いのかっ」

「落ち着きなさい、こんな重症者を急な斜面を下って運ぶなんて……リアを殺したいの?」

「いや、スマン……」


「謝る必要はないから、あなたの狩人(ハンター)としてのスキルと獣人としての能力をフルに使って、出来うる限り速く村へ戻りマチュアさんを連れてきて。

 それまでの間、リアの方は私が癒し続けるから」

「わかった。頼む……」



 それから俺は鎧などの装備をはずし、護身用に短剣だけをたずさえ山を降りると、村で待っていたマチュアさんに事情を話した。


「すぐに連れて行って!」

「俺も行こう」

 マチュアさん、そして話を聞いていたロイズさんも最低限の装備だけ持ち、リアの元へと向かった。


 ・

 ・

 ・


「あなたは全般的な治療を、私は癒しと局部的な箇所を行うわ!」

 リアがいる場所に着くと、二人は直ぐに魔法を唱える。すると、リアを中心に青い魔法陣が描かれ、陣の中にいる三人が青いベールに囲まれる。


「二人ともここまでしてくれてありがとう……あとは私達に任せて。それと悪いけど、ハルとロキシーは離れていてくれるかな、リアの為にもね」


 邪魔だとばかりにリアの纏っていた服を刃物で裂きながら言うマチュアさんの言葉に頷き、俺とロキシーは離れた場所から治療している二人の状況を伺うことしか出来なかった……



―――◇―――◇―――



「酷い……」

「リアはPHYシステムを使ったようだ。あれは禁じ手に近い最終手段だぞ」


 ロイズと二人でリアの姿を見た瞬間、戦場に遺棄された死体を思い浮かべるほどの有り様に思わず息を飲んだ。



《《エナジーフィールド》》



 二人で使用したのは共同魔法である【エナジーフィールド】。これは神聖魔法や白魔法の効果を上げる領域魔法であり、汚れや邪な力を祓う魔法でもある。

 追加効果として、魔方陣の影響領域に魔法のベールもかかることから目隠し的な使い方も。

『若い女の子の裸を晒すのは抵抗あるから……』



 シャッ!



 リアには悪いけど纏っていた神官服を用意していた刃物で裂き、傷の状態を確認しながら魔法を使う。


 裂傷や擦過傷は高レベルのヒールで回復できるが、骨折や内臓へのダメージには【リペアボディ】で対応する必要がある。

 打撲痕や腫れた箇所は表面上だけでなく、その奥にまで至った傷がないかを入念に調査し、女性として細かな点まで治療し続ける。


『それにしても傷痕がかなり特徴的なのは……リアの体を細い紐が圧迫した痕と、激しく擦れたであろう痕……』


「ねぇ、PHYシステムって?」

「PAの操作性向上と、効率よく同期化を図るためのシステムとしてPAに初期から備えられた機能だが、所詮は神の領域の技術だ。

 通常の人間には耐えられないから使わないどころか、あまりに危険すぎて存在すら忘れているようなやつだよ。

 ノーマルと言うと語弊があるが、一般的なPAであればこそまだ耐えられるかもしれないが、リアが乗ったハマルぐらい特殊なPAになれば受ける影響は尋常じゃなかったはずだろう。

 結局、その結果とも言えるのが今のリアの状態だと思えば良い」


「でも、そのシステムってあくまでも搭乗者が使えるレベルの機能なんでしょ?」

「来る途中にハルから聞いたが、我々と彼等が知っている内容に齟齬がある」


 ……齟齬?


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