93話 戦闘からの
「今倒したのが二人。さっきの跡から考えれば、最低限残りは二人以上いる。今みたいに隠れている可能性もあるから気をつけてくれ」
「「はい」」
ハルの話に二人で頷く。急ぐ気持ちで周りが見えなくならないように気をつけないと。
「音の距離まで残り数分のレベルだ。慎重に、だけど少し急ぐぞ」
ハルの中でも何かが気になるようで、やや足早に移動する。そして暫く進んでから、ハルはハンドサインで停止の指示を出す。
『……いるぞ』
「グルォォォ!」
耳を劈く魔物の咆哮。そこには一匹の魔物と、それを囲む三人の冒険者が。魔物は動物園で見る象と同じぐらい大きな巨体だが、その相貌は異質なもの。
『二つの頭にヘビの尾……』
『神話で言うところのオルトロスが山神様みたい』
ロキシーさんが言うオルトロスがどういった存在かはわからないけど、受ける印象からは普通の魔物と異なる事はわかる。
ただ、本来なら黄金色に輝いていたであろう体毛は自らかの血で赤く染まり、二つある頭部は片方の瞳が白く濁り、だらんと下がっている。
そして音の正体であろう太く尖った柱のような突起物が、地面から山神様の左足を貫いていた。
もっとも、相対していた冒険者も三人の内の一人が山神様の尾に噛まれ、首から鮮血を出しており、暫くするとポリゴン化して消えていく……残りは二人。
『間に合った!』
目の前の状態を見て思わず駆け出す。
『気をつけろ! あれで全部とは限らんぞ!』
『焦ったらダメ』
二人の声も今は頭の中まで通らない。
「なんだテメェ!」
「ただの通りすがりよっ!」
「じゃあ、邪魔だから死ね」
そう言うが早いか、二刀流の冒険者は刀を振るうとその軌道で斬撃が飛んでくる。
スパッ
「あぶなっ!」
とりあえず刀の軌道が見えたから避けれたけど、避けた後ろの樹木がキレイに切断される!
「死ね死ね死ね死ね!」
「うっ、わっ、ちょっ」
距離に関係なく乱れ撃ちしてくる斬撃。
「調子に……」
ガッ
足元にある切断された木を二刀流の冒険者に向かって勢いよく蹴る! さすがに向かってくる邪魔物は嫌ってか、繰り出す斬撃で切り落とす。だけどそこに若干の隙が生まれる!
「乗らないでっ!」
その隙を突き、二刀流の冒険者の懐に入ると斜め下から相手の胸部目掛け、肩口からぶつかる!
「うぉ!?」
マチュアさんから習った、体をバネのように使い膂力を増幅させる体術。そこに【息吹】で力を相乗させる戦法を合わせると、一つ一つの威力を大幅に増大させる。
実際、今の攻撃を受けた二刀流の冒険者は、現実では考えられないけど、ニメートルほど打ち上げられている。
「大したモノじゃないけど受け取りなさいな!」
浮いた相手をもう一度蹴り上げると、落ちてきたところをカウンターで
《衝波》
ドッ
「ゔ……」
落下中に【衝波】を浴びた事で受け身を取ることも出来ず、二刀流の冒険者は地面に叩きつけられた後、ピクリとも動かなくなる。
『あと一人!』
「やるじゃねぇか。コイツが片付いてからやりたかったが、テメエが先か!」
「ああ、もうっ!」
残った冒険者は手にした大型の両手斧を振り回し、自分の間合いを維持してコチラを入らせない。
『確かに厄介だけど、大型武器の間合いならハルにいっぱい練習させられたんだから!』
相手が斧を引く一瞬、半歩前に詰めると次の攻撃が出る瞬間にねじ込むように蹴りを入れる!
ガン!
「なんだ!?」
相手が振るおうとした斧の出掛かりに蹴りを重ねることで、向こうとしても斧を出すタイミングがズレてしまい、微妙な硬直が生まれる。
「そこ!」
ゴスッ
「ぅぉ……」
相手に向かって飛びかかると、膝を顔面に入れる。だけどまだ、これだけじゃ止まれない!
飛びかかった勢いを殺さず、相手の頭を支点に飛び越えて着地すると、ガラ空きの背中に肘を入れる! そして肘が入ったことにより反って落ちてきた相手の首に手をかけると、背負うようにして一気に締める!
ゴキッ
「ぁ……」
空気が漏れるような僅かな声がした後、もう一人の冒険者も全身から力が抜けたように地面に倒れ込む。
「ふぅ……ふぅ……」
二人の冒険者はそのまま動くことなく、暫くしてからポリゴン化して消えていく。
『どちらも山神様と戦っていたから満身ではなかったはず。だからわたしでも倒せた』
そう思えるほど冒険者達との戦いはあっさりと終わる。
「これで依頼的には達成に」
ザッ
「なに!?」
一息ついてから、なんとなく皆の方へ振り返った瞬間、僅かながら感じた違和感に慌ててその場を飛び下がる。
そしてさっきまで自分がいた場所を見ると、そこには見慣れた自分の腕が落ちていて……
『……えっ?』
「ーー!」
肘から下が無くなった自分の腕を見た瞬間、猛烈な熱と痛みが体中を蹂躙する! それは言葉にすらならず、わたしはただ絶叫するだけ。
「ったく、偶然かどうかはわからねぇが腕一本で済むとはな」
「だ、れ……」
痛みに耐えかね、思わずしゃがみ込むと視界の端が僅かにブレる。見えるのは二本の足、そこには
「ふざけたマネしやがって」
「あ、んたは……」
腕の傷を【ヒール】で癒しながら見るその顔は、シーレフで見た蜥蜴男のもの。ただそれだけを思い出し、歯を食い縛りながら立ち上がるけど、
「……あれっ」
視界がボヤけ、足に力が入らない。
「チッ、耐性持ちか。普通なら即死レベルの毒が塗られた刃を受けて立てるはずがネェ」
耐性……状態異常をイヤリングがカバーしてくれている? それでも視界が霞むってことは、かなり強力な毒だったってことだよね。危なかった……
《キュアポイズン》
とりあえず毒は消せたみたいだけど、まだ切り落とされた腕の治療が残っている。ただ、欠損となると【ヒール】だけじゃ無理だから【リカバリーボディ】を唱えなければ回復できない。
だけどあれは治療に時間がかかる魔法。バンダナがむざむざそんな時間を与えてくれるとは思わない。
『とにかく止血……』
《水操》
ピシッ
「くうっ……」
「応急措置で傷口凍らせるか、いい根性だ」
自ら凍てつかせたわたしの傷口を見ながらバンダナはせせら笑う。
「リア!」
「おおっと」
ハルが大振りでバンダナを下がらせると、わたしとバンダナの間に立ちはだかる。
「ハル……」
「無茶しすぎだ!」
「ごめん」
後ろ姿で顔は見えないけど、ハルが本気で怒っているのがわかる。
……本当にごめんなさい。
いつも読んで頂いてありがとうございますヽ(´ー`)ノ




