91話 追う者
「ハル、あの……さっきはごめんね」
「あー、うん。何か言おうとしたら色々と誤爆というか誘爆しそうだから……とりあえずお互い様だったと言うことで。俺こそ悪かった」
とりあえずヒールをかけてからハルを起こし、なんとなくバツが悪かったので謝っていたけど、ハルも謝ってくるから、なんだかスッキリしないと言うか、申し訳ないと言うか……
「ううん、ハルは悪くないから……でもこのままじゃ話が進まないから、今は一旦置いておくね」
「ああ、わかった」
「くぅー! 若いって良いわよね」
「ははっ、俺はどちらかというと背中が痒いかな」
「私は記憶がなくなるぐらい殴っても許されるかと」
三種三様と言うか……ロキシーさんがかなり物騒なんですが。なんで!?
「ま、まぁそれはさておき、これからの事ですが……」
わたしは祠の中での出来事、玄武様との一件を話し、手に入れた勾玉を皆に見せた。
「じゃあ、勾玉があるから会話はできるはずだけど、暴走している山神様とはまともに会話できるかどうかは怪しいって事ね」
「実際、リスクが無くなってはいないどころか、主の言うことすら聞かないようじゃ、危険度が高すぎると思うが……やっぱり行くんだよな?」
「……うん、やっぱりこのままだと色々と落ち着かないし、自分の中で整理がつかないから」
他人事と言えばそれまでだけど、知ってしまった以上は見てみぬ振りはできないし、どうにかしたいと言う気持ちは変わらない。
「朝から何かとバタバタしたとはいえ、まだ二時前だから山へ行くことは可能だと思うの」
わたし達のログイン問題から言えば、決めた期限は今日を含まずに三日間と区切ってはいるから、三日後のログイン時に山へ冒険者の探索に行くことも出来る。
だけど今行けるチャンスがあるのにも関わらず、みすみすそれをスルーするのもまた得策ではないし、行かなかったことで何か起きた場合、間違いなく後悔するはず。
「最近のリア、妙に生き急いでないか?」
「うーん、あんまりそんな風に考えたことないけど……もしかしたから考え方というかスタンスの問題なのかも?」
ゲームの中で過ごす時間が増え、こちらの人達と仲良くなるにつれて、プレイヤーとしてよりもこの世界の住人の一人として考える事が多くなったのは確かだろうし。
「リアの意思に任せるって話はしたから異論はないが、山は舐めたらすぐに足を掬われる。それだけは忘れないようにな」
「うん」
舐めるつもりはないけど……そうだよね、焦っておかしな方向へ行かないように気を付けないとね。
「では、とりあえず日没前には村へ引き上げてくるということで……どうかな?」
わたしの問いかけに皆が頷き、今日のところについては方針が決まった。
―――◇―――◇―――
「で、逃げている冒険者を討伐する前に一つだけ気になることがある」
「なに?」
村長さんに了承を得てから出発してから約一時間後、ハルが何気なしに話し始めた。
「山から煙とか出ているアレだが……リアはどう思う?」
「どう思うって言われても……『山神様が冒険者を追っているんだな~』って。違うの?」
なんだろう、いまいちハルの考えが読みきれない。
「もちろんそれは間違いじゃない。だが、俺はそれだけと考えるのは危険だと思う」
「危険?」
相手が無茶な事してくるとか?
「この騒動が始まってから既に数日経っている。これがこの世界の住人だけなら、まぁ納得できなくはない。だが、今回の騒動については異邦人の冒険者がやっていること。そうだよな?」
「うん」
「そう考えた場合、腑に落ちないことがある。こっちの日数で数日ということは、奴らはオンライン時だけじゃなくオフライン時、即ち自動生活の時でさえ、山神様から逃げることが出来るだけのスキルを持つことになる。
もしそう言ったものが無ければ、奴らはとっくに全滅してるはずだ」
「なるほど、わたし達はこちらの世界だと一日分しか連続で入れないものね。
……ん? でも、逃げられるだけのスキルがあるのに、どうしてまだここにいるのかな?」
「彼らは山神様を倒すことを諦めていない」
「たぶんな」
ロキシーさんの発言にハルが頷く。
「リア、【特別クエスト】のこと覚えているよな? もしその報酬が価値あるだったとしたら……山神様やそれに準じた魔物を倒すことが依頼達成だとしても」
「……諦めないってこと?」
特別クエスト達成で貰えるものが凄ければ諦める理由がないし、プレイヤーによってはどんな手段を用いてもクリアしようとする……
『それこそこの世界の住人を盾にすることさえも厭わずに』
「そんな奴らが相手だ。まぁ元々何人いて、今何人残っているのかはわからないが、厄介な相手だと思った方が良い。現状、こちらの数少ない有意な点は俺達の乱入が奴らにとって予定外なことぐらいだからな」
「しかも山神様はこちらを味方だと思ってくれるかはわからない、たぶん敵の敵も敵と思われるのが関の山」
「はは、なかなかに厳しい状況ね……」
まぁ、二人は元々反対だった訳だし、厳しい意見が出るのはわかっていたけど、改めて言葉に出されるとその状況に心が折れそうになる。
『なるけど……』
「でも行くよ。またあの村の人達を厄介事に巻き込む可能性があるなら、それは阻止しておきたいから」
「はぁ、強情だねぇ……ま、それがリアか」
「強情から生まれた女」
「うぅ、なんか凄い言われようだ……」
「ま、それはさておき」
ハルの雰囲気が変わる。
「一応、俺の職業【狩人】が持つスキルで地面や木々の痛みからそれらしきものを追っていたわけだが……」
そう言いながら地面のちょっとした場所を手で掃くと、何かを焼いたような跡が出てくる。
『やっぱり便利なスキルだなぁ』
「この跡から推察すると、今日この辺りにいたようだな。人数は約四名、皆が狩人の職業持ちと見て間違いはない」
「さっき煙が上がったのってかなり遠かったよね?」
「そこから考えると、最低二班にわかれている事になるだろうな」
……確かに厄介そうです。
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