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90話 帰還と事故と


「それでは地上に戻ります、色々とありがとうございました」


 特別な場所なのか、普段は視界の端に見ることができる日時表示が見えないけど、おおよその体内時計から計算すると今から戻れば、まだ数時間ぐらいは例の冒険者達を探すことができるかもしれない。


「そうですか。では帰りもあの中を歩かせるのは忍びないのでお送りしましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 正直、帰り道は鞄が濡れても構わないから泳いで帰ろうかと思ってたし。


「構いませんよ。その分アレのことをお願いしますね」

「はい、出来るだけ頑張ってみます!」


 何をどこまで出来るかは約束できないけど、とにかく今の状態をなんとかしたいという気持ちに嘘はない。



「旅人よ、汝が道に己を示せ……《道標直帰(リターン・マーク)》」



 玄武様が魔法を唱えると、わたしの身体が淡い光に包まれると同時に景色がボヤけて……



 ヒュン



 ・

 ・

 ・


「ふふ、なかなかに騒がしくも楽しい時間でした」


 異邦人に巫女の資格を与えるというのも初めてでしたが、アレはどういう対応をとるのでしょうか。

 そういえば、


『あの異邦人は溺れかけたと言ってましたが……どれぐらいここの水を飲んだのでしょう?』

 ここの水には【穢】が入っていると説明しましたが……まぁ、何かあったらあったで楽しくなるでしょうし。とりあえず印を通して見させていただくことにしましょうか。



―――◇―――◇―――



「リアは勾玉を持ち帰って来れるかな?」

「さぁ、過去の記録には持ち帰った記録しかないから」

 俺は横で一緒にリアを見送ったファナさんに聞いたが、残念ながら明確な答えはなかった。


 入る為の条件がある以上、ここで待つしかないわけだが、心の中では『もって帰れなくても良い』とすら思っている。

 そうすれば山神様と会うデメリットが増すことから、もしかしたら『問題を起こした冒険者を探すことを諦めるのではないか』と……いや、リアの事だからそんな状況になっても山に入ることは諦めないか。



『なんだかんだで心配するようになっちまったな』


 最初に会った時はこれほど一緒に行動するとは思っていなかったが、既に腐れ縁に近いような感覚をリアには持っている。

 だからこそ特殊な存在になった今のリアには、命に危険が及ぶような事は避けて欲しいと思っているし、あの笑顔を散らせたくないとも思っている。


『見れなくなるのは寂しいし、つまらないからな』

 なんてことは面と向かって言ったら『ケンカを売ってるのかな~?』とか平気で言ってきそうだから言わないが。



「とりあえず無事に帰ってくれば……ん?」

 どこかからリアの声が聞こえたような……上から?


『ついさっき祠へ入ったばかりのリアの声がするはずもないし、幻聴か何かか?』と何げなしに上を見ると



「ハル! 避けて!」

「はぁ??」


 上空五メートルぐらいから落下するリアがいた。



 ゴンッ!



「痛ってぇ……」


 おもいっきり頭にリアの膝が入り、バランスを崩した俺はリア共々地面に叩きつけられる!

 しかも俺の上にはリアがそのまま乗っかった状態で……重いし視界が覆われて前が見えない。



「リア、いつまで俺に乗って」

 とりあえず移動させようと視界を邪魔するモノを……



 ふにゅん



「んっ……」

『ふにゅん?』


 なんだ今の柔らかいのと、普段聞いたことが無いようなリアの声は? と、とにかく動かさないと



 ふにゅんふにゅん



「やっ……」



 ……あれっ、かなり嫌な予感がする。俺はいま何を触った? 何故こんなに冷や汗が流れ出る!? どうして危険信号(アラート)が最大レベルで鳴りっぱなしに!?



「ハールゥー……」


 目の前を覆っていたものが無くなると、そこには俺の上に座り、真っ赤な顔をしながら両手で胸を隠すリアの姿が……もしかしてさっきの柔らかいのって。



 わきわき



「お、思い出すなバカー!!」



 ゴキン!



「ぐえっ」

 リアの放ったパンチがこめかみに入ると、俺の意識は強制的に落ちていった……



―――◇―――◇―――



『うぅ……』

 つい勢いとはいえ、おもいっきり無抵抗なハルを殴ってしまった。わざとではないとわかっていても、感情と反応は別回路みたいなものな訳で。


「なかなか大胆な一撃だったわね、お互いに」

 マチュアさんは笑いを堪えながら話しかけてきている……笑い事ではないのですが。



 地底湖で湯浴着から神官服へ着替えた際に、つい下着をつけていなかったのがこうなった要因……言ってしまえばわたしのせいなわけで。


『いや、別にブラの上からなら触って良いとかいうものでも無かったんだけどね!』


 正直、色々とピリピリしていたから、いつにも増して感覚が研ぎ澄まれていた所に対して、クリティカル気味な一撃というか……触れられたのが不意すぎて、びっくりと、その……うぅ。


「うーん、なんだかそんなリアを見るのは新鮮ね。それこそハルと最初に会った時ぐらいじゃない?」

「そ、そうですね」

 まぁ、あれも不慮の事故とはいえスカートの中を見られたわけで……


『なんでハルとのイベントってこんなのばっかりなんだろう……』



「リアさん、祠へ入ってから十分も過ぎていないのですが、巫女の印と言われていた勾玉は確保出来たのですか?」

「えっ、あれから十分も経ってないの!?」


 あれだけの長い階段と、地底湖を歩いて渡ったのが夢だったとか……そんな筈は!


「それもだけど、リアの右腕火傷で爛れているじゃないの! 早くこっちに来て腕を見せなさい!」

 マチュアさんに言われて腕を見ると、確かにあの時自分で作った火傷の跡が。それと胸の谷間に何か違和感が……



『ん?』


 谷間に挟まっていたのは、あの時玄武様から授けてもらった勾玉! ああ、きちんと目的のアイテムが存在しているし、怪我をした跡もあるから夢じゃない!


「良かった……」

「良くないわよ! 跡が残ったらどうするの!」

「あ、はい、ごめんなさい!」


 マチュアさんに怒られながらも腕の治療をしてもらい、跡も残らずホッとしたのも束の間、



 ゴッ!



 山から轟音と共に煙が立ち上がる。


『山神様はまだ冒険者を追っているんだ……だったら急がなきゃ!』

 祠に入ってから十分なら、まだまだ時間もあるし煙が立ち上がった場所もそれほど遠くはない。



 とにかくハルを起こして山に向かわなきゃ!



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