9話 チュートリアルが誰にでもあるとは限らない
評価ありがとうございますm(__)m
人物表現はどこまで書くのが分かりやすいのか、なかなかよくわからないです。
※1/15 文頭部おかしいところを修正しました
※18/02/26 誤字脱字修正しました
「そうすると、初心者講習を受けることでもらえる初心者セットは……」
「誠に申し訳ございませんが、お渡しすることはできません」
これは……やっぱり詰んでるような気がしてきた。
とりあえず冒険者登録してからシャーリーさんに今後の事を相談すると、レアと言うより始めてのケースらしく彼女も困惑状態に。
結局シャリーさんはギルド長に相談したようで、わたしはレベル1の超初心者ながらギルド長の部屋に行くことに。
コンコン
「どうぞ」
冒険者ギルドの二階。回りの扉と比べ、ちょっとだけ彫刻があしらわれた大きな扉をノックすると、向こうから少し低めな声がかかる。
「失礼します」
部屋の中には大きなテーブルがあり、溜まった書類に目を通している銀髪のダンディーなおじ様が。
「君かね、シャリーを困らせたレア者とは」
ダンディーなおじ様はフフっと笑いながらこちらを見る。
「コーデリアと申します、シャリーさんを困らせるつもりはなかったのですが……」
「なに、彼女の困った姿などここ十年は見ていなかったからとても楽しかったよ。それと挨拶が遅れたが自分がここのギルド長をしているベルナルドだ」
ベルナルドさんはそう言うと、机の前にある大きなソファーへ移動し、わたしにも座るように指を向ける。
「さて、話は聞いたよ。何でも先天的なスキル構成で初心者講習が受けられないとか」
ベルナルドさんは手にした紙を見ながらわたしに話しかけてきた。
「君のスキル構成を見ても別段おかしなところは無いように思えるけどね……不思議だ」
手にしていた紙をソファーの前のローテーブルに置き、その内容をわたしにも見せてくれた。
『あれっ?』
その紙にはさっきルナさんに見せた内容と同じ、わたしのステータス画面を印刷したもの。
ただ、そこにはこうなった要因かもしれない【クロススキル】についてのみ記載が無かった。
「おや、何か記載内容に不足でもあったかね?」
ちょっとした間から違和感を感じたのか、ベルナルドさんは間髪を容れずに聞いてきた。
「いえ、いつの間にわたしの事が詳細に書かれていたのか不思議に思いまして」
うん、そう思ったのは嘘じゃない。
でも何故か今はクロススキルの事を説明するべきじゃないような気がした。
「なるほど、確かに君の言うとおりかも知れないね」
ベルナルドさんはそう言うとわたしの疑問に答えてくれた。
「この世界に訪れる異邦人が皆、普通に暮らし、戦い、楽しむこと我々と共有できる人ばかりなら良かったのだが、犯罪に走るもの皆無ではないのでね」
「ようは異邦人としてこの世界に迷惑をかけるプレイヤーがいた際に、速やかに摘発・排除することを目的とした個人票ですか」
ベルナルドさんは「有り体に言えばね」と答える。
「まぁそれは置いておいて、とりあえずは君の問題だか……我々としては決められたルールがある以上、それを蔑ろにする事はできなくてね」
ま、そうですよね。
「だから私からのクエストを受け、それを達成することで補填を渡したいと思うのだが……どうだろうか?」
これは……この泥沼状態から進展できるかも?
だけど少しだけ不安というか、次の沼が待ち構えていそうな気がしないでもない。
……うん、用心に越したことはないよね。
「あの、それはわたしにでも出来る事でしょうか?ご存知の通り、わたしはまだこの世界に来たばかりで、正直大したことは出来ませんが……」
「なに、君が持っているスキルなら十分役に立てる内容だ。ミゼル君、神殿からは」
「はい、催促なら今日も」
「!」
今までわたしとベルナルドさんだけだと思っていたから、第三者の声に驚いて思わずそちらを見る。
この部屋に入った扉、その横に彼女はいた。
緑がかった髪はゆるふわウェーブで、背丈はわたしと同じぐらい。表情に笑みはなく、如何にも『秘書です』といった容姿をした女性が。
「あー、すまない。彼女は人を驚かせるのが好きでね」
「失礼しました」
「い、いえ、こちらこそすみません」
なんだか話しづらい、苦手だなぁ。
「で、ミゼル君?」
「はい、ディメール神殿からは回復術者の応援を。年齢・性別・趣味・趣向・種族問わずと」
回復といえば、確かにわたしは白魔法を持ってはいるけどまだレベル1ですよ!?
「あぁ、レベル1でも構わないらしい、とにかく回復の魔法が使えるなら誰でも良いと言っているのでね」
心の声聞こえてたー!?
「最近急にこの辺りが物騒になってね、街の住人を始め冒険者にも怪我人が多発。その応対をしているディメール神殿の者達も、余りの多さに疲労困憊なのだよ。
そこで君も神殿に赴き対応に当たれば、例え微力でも彼らの疲労を若干は和らげられると思うのだが……どうだろうか」
「ずるい言い方ですね」
そんな風に言われたらイヤだとは言えるわけがない。
「確かにな。だが君は補填として報酬を得られ、神殿の者達は少しとはいえ疲労の分担が減り、怪我した者達は癒され、こちらは神殿から感謝が得られる……皆が幸せになる、良いプランだと思わないかね?」
断る理由は無い。初心者講習の補填が幾ばくかは得られるのなら断然プラスのはず。
でも、心の片隅に引っ掛かるこのモヤモヤはなんだろう……
『はぁ、ダメだ。考えが浮かばない』
警戒したい思いを覆せるものがない以上、今選ぶ答えは一つだけ。
「……本当に微力ですが」
「あぁ、構わないよ。もし彼らが今回のを拒むなら、彼ら自身が苦しむだけだ」
「分かりました、その話お受けします」
拒むものが無いのだから、やるしか道はないかな。
これがルナさんから聞いたことになるかもしれないのだから。