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86話 わたしと【わたし】


長いかも(´・ω・`)


※19/01/25 修正致しました。

      約百年前 → 約五十年前

      ※コメント頂き、前の話に記載のあった内容に合わせました


【はぁ、もう少しカッコイイ戦いをして欲しいかな】

「あ、はい。返す言葉もございません」


 ここは夢の中。だってもう一人の自分(わたし)が目の前で仁王立ちしてるし。あ、ちなみにわたしは正座です。



【せっかく戦いの最中に一段階高いレベルに到達出来たのにさ、それを上手に活かしきれないようじゃ、この先すぐに進めなくなるわよ?】

「いや、もうまったくで……」



 苦戦した序盤、健闘できたと思う中盤、実際の戦いなら終わっていたであろう終盤。

『中盤のあの時点で戦うことが、ハルと攻め合うことが愉しいと思ってしまった……うーん』


【それがあなたの本質なんでしょ、ディメール様にもそう言われたじゃない】

「え? えーっと……」


【あなたは[華]になりたがっているって】

「それとさっきの戦いがどう繋がるの?」


 わたしの問いかけに、もう一人の自分(わたし)がため息をつく。


【戦いの中で愉しいなんて思うこと自体、あなたが[咲いている]ってことじゃないの。[PAW]という大地に[戦い]という養分を得て[咲いた]んでしょうに。まぁ、ハルという[太陽]があったからかもしれないけどね……】

 えっ? ハル? 春にかけたのかな?


 ……あ、また大きなため息ついてる。



【とにかく、あなたがこれからもPAW(この地)で咲き続けたいと願うなら、もっと強くなりなさいよ。そうすれば愉しいことだけじゃなく、色々な事に出会えるわよ。それこそ、あなたが望むものにもね】

「わたしが望むもの……」


 うーん、パッとは浮かばないけど、きっともう一人のわたしが言うからあるんだろうな。


【さぁ、そろそろ時間よ。みんなが心配しているわ】

「うん、そうだね」

 とにかく戻らないと。あ、でも


「また会えるかな?」

【わたしと? まぁ、多分会えるとは思うけど……自分と話したいなんて変わっているわね】


「そう? だって貴重だよ、こんなふうに話せる機会なんてそうそう無いって。それに……」

【それに?】


 彼女(わたし)に聞かれ、改めて自分の正面にいる彼女(わたし)を見直す。



「だって嬉しいじゃない、わたしにはもういない家族に会えてるみたいでさ」

【……そうね】



「じゃ、そろそろ帰るね。次会えるときにはもう少しカッコイイところを見せられるように頑張っておくからさ」

【期待しているわ】



 彼女(わたし)がそう答えると辺りが霧に包まれたように白く染まり……


 ・

 ・

 ・


「あ、起きた?」

「うん、なんだかすごく長い夢を見ていたけど……なんだっけ?」

 なんだか厳しくて暖かい夢を見たような……うーん、思い出せない。ロキシーさんはそんなわたしを不思議そうな顔で見ている。



「そうだ、結局模擬戦ってどうなった? 最後に技を出したところまでしか覚えてなくて……」

「模擬戦の結果は引き分け、よってあの時に話していた選択肢はリアさんが決めていいって。でも本当に良いの?」

 そっか、引き分けで終われたんだ。だったら、


「うん、問題ないよ。もしここで何かがあればファナさんやマチュアさんがいるし」

「そうじゃなくって」

 ん?


「例の冒険者探索ということは、運が悪ければ私達が先に山神様に会う。そうしたら死んでしまうかもしれない」

「死なないよ」

「え?」

 わたしの即答にロキシーさんが驚いた表情を見せる。


「わたしにはまだこの世界でやりたいことが沢山あるの。だから死なないし、死ねない。

 ま、『だったらアルブラに行けば』って思うかもしれないけど、ここで出会ってしまった問題に何もせずにいたら、きっとわたしの中の何かが死んでしまう気がするの」



 目の前で起きた事件に対し、確かにわたしは何も関係していないし、関与の必要性はない。



『だけどわたしは知ってしまった【この世界の事を】

 感じてしまった【この世界の温もりを】

 守りたいと思ってしまった【この世界の人達を】』



 もちろんわたしは警察でもなければ、そんな役割を持ってなどいない。全員を守るなんて大それたこともできないけど、今のわたしが触れることができる距離に問題が存在し、何かの役に立てる可能性があるのなら……



 わたしは戦いを厭わない。

 それで死んでも後悔しない。

 なぜなら……この世界が大好きだから。



「ワガママで悪いとは思うけど、今はどうしてもやらせて欲しいの。この村の人達を自分達の欲で苦しめた冒険者にはキッチリ責任をとって欲しいし、山神様にも可能であれば謝りたいかな……謝る前に殺られないようにしないといけないけどね」


「少し変わった?」

「そお? だとしたら、たぶんさっきの戦いのおかげかな。もっと頑張らないといけないって言われたから」

「誰に?」

「それは、ほら……え〜っと……誰だっけ!?」



 ズッ



 お、珍しくロキシーさんがリアクションを!


「さて、そろそろ行こうか。みんな待っているんだよね?」

わたしの問いかけにロキシーさんは静かに頷く。


「じゃあ、さっさと行かないと今度は病人・怪我人扱いで行ったらいけないって言われるからさ」

 そういってベッドから立つけど……うん、以前みたいにふらつきは無いから大丈夫っと!


「あ、でもその前に行きたい所があるからロキシーさんは先に行ってもらって良いかな?」

「良いけど……どこ行くの?」

「うん、ちょっと村長さんの所にね」


 ・

 ・

 ・


「すみません、お待たせしました」

 ロキシーさんと別れてから二十分後、わたしは皆が待つ食堂へやってきた。


「なかなか時間がかかったみたいだけど何かあったの?」

「ええ、おかげさまで」

 マチュアさんの質問に対し、わたしは鞄から一冊の本を取り出しながら返答をする。


「それは?」

「これは今村長さんにお借りしてきた、この村の祭事に関する史書になります。皆に見て欲しいのはこれなんですが……」

 わたしは史書を数ページ捲ったところを皆に見せる。


「これが約五十年前に山神様を討伐した時の内容なんですが……ここ読みますね」



【今年は山神様との約束の年。村を代表した巫女がアルブラに赴き、領主へ依頼をした】


【巫女が帰ってきた、アルブラ領主は五人の優秀な戦士たちを派遣してくれた。これで安心だ】


【巫女と戦士たちが山神様を奉る祠へ向かった。皆欠けることなく帰ってきて欲しい】


【巫女たちが帰ってきた。怪我はしているようだが誰一人欠けることなく良かった】



「これが?」

「にわかには信じられないかもしれませんが、似た内容が二百年前にも三百年前にも書かれています。共通することは【巫女】と【アルブラからの討伐隊】です。

 あくまで推測ですが、この巫女の存在が何かのキーになっているような気がします。実際に依代へ戻すということも含め、山神様とコンタクトが取れるお役目みたいなものではないかと考えられます。

 実際、討伐として向かうだけであればアルブラからの討伐隊だけで良いはずです」


 もちろん推測の域を出ない、それこそわたしの思い込みの可能性だってある。



「それで、この巫女さんがコンタクトを取れるとして何が出来るんだ? あと俺達がやることにどう絡んむ?」

「ハル、わたし達の基本的なスタンスは問題の起点となった冒険者の捕縛。だけど、彼等を捕まえる前に不幸にも山神様と出会ってしまうことだってあるかもしれない……その時、もし山神様と何らかの交渉ができたら、最悪の結果は間逃れる事ができるかもしれないわ。

 出会ってしまう可能性、それがある以上少しでも保険がかけられるのであれば、やれるべき手を全て試した方が良いというのが正直なところよ」


「それはあくまで希望的なものでしかないぞ」

「希望でも願望でも構わない。だってわたし達ができる事なんて限られているのなら、出来うる手は何であってもした方が良いでしょ?」

「……」



 わたしの意見に全て賛成とはならなかったものの、『やはり、できる事があれば試すべき』という事に方針は決まった。



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