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85話 魂の創造《オーバークリエイト》


魂の創造(オーバークリエイト)


 ハルの放った力のある言葉。その直後から溢れ出た闘気のような何かが彼の大剣に集約され、そこから紅い光が滲み出る。


『何よ……あれ』

 ハルにわたしの知らない引き出しの一つや二つあることぐらい予想はしていたけど、今見ているアレは予想の範疇を越えている。


『大剣を振る度に紅い軌跡がその後を追従して……いったいどんな技なのかは分からないけど、とにかく初撃を避けてから反撃するしかない』

 威力も効果もわからない技を受けるほど、わたしも物好きじゃない。だけど、



「行くぞぉぉぉ!」

『速いっ!?』

 掛け声と共に、放たれた矢の如く向かってくるハルの速さが尋常じゃない!


『と、とにかくギリギリで避け……えっ!?』


 下段からアッパー気味に振り抜かれた大剣に対し、ギリギリだけど避けれた。しかし、振りぬかれて離れていたはずの大剣は、既にわたしの真横へと追尾していた。


『うそっ!? だったらもう受けきるしか』



《こ、金剛体》



 慌てて唱えた【金剛体】。避けられない攻撃なら受けるしかない。


『嫌な予感が頭の中で警鐘を鳴らしまくっていたから使ったけど、ここからどうやって反撃すれば……』

 そんな事を考えていた時、強い衝撃と共に自分からおかしな音が聞こえる。



ガンッ(ズシャ)



 聞いた事の無い二重の攻撃音。一つは大剣をガードした音。そしてもう一つは紅い軌跡がわたしだけでなく、背後の地面まで斬り裂いた音。



「ごふっ……」



『そん、なっ』

 ハルの大剣は確かにガードしている。だけど大剣が纏っていた紅い軌跡は、わたしの防御を無視して斬り込んでいた。

 【金剛体】を使ってまでの完全防御(フルガード)だったけど、受けたダメージはノーガードに近いレベルで激痛が体を襲う。



「悪ぃ、まだ止まらないんだ」

『……えっ?』


 アッパーで振りきられた大剣が円を描くと真横から水平に斬撃が。そして振り切った勢いをそのまま溜めてから打ち込まれた逆水平の横斬りに繋がり、最後は再び下段からのアッパー気味の斬りが連続で放たれ……



 ガンッ(ザクッ)


 ガンッ(ザシュッ)


 ガンッ(ズシャ)



 惰性かそれとも今までの修練で身に付いた習慣か、さっきの攻撃でダメージは受けていたのにも関わらず、無意識でガードは続けていた。

 そのおかげでギリギリ立ててはいるものの、ガード自体は貫通されていることから、ほぼフルに受けたダメージによって意識は既に朦朧となっている。それに、



「ぁ……ぁ、ぁぁ……」


 痛覚の設定は変えることができていないから最大のまま。もちろんパッシブで【痛覚耐性】が作動しているけど、過去に感じたことがないような強烈な痛みに何度も襲われたことにより、頭の中は焼き切れそうになっている。



『さす……がに、これ以上は、ムリか……な』


 霞む視線の先に見えるハルはまだ止まっていない。いや止まれないのか。アッパーから振り上げた大剣を頭上高く構えて……



「これで……終わりだ!」

 紅い軌跡が稲妻のように大剣に纏い、勢いよく降り下ろされる。


『はは……すごいよハル、さすがだよ。だから、さ……』



《とうき れんせい》



 口から赤い塊を吐きながら唱えた【闘気練精】。


『受けたダメージを変換。倍率なんてわからないし、そんなものはもうどうでも良い』



「だから、さ……この一撃だけ、つきあってよ……ね」


 狙いをつける余裕もないし、そもそも視界だって真っ赤に染まってよく見えない。だから、ただ前に向かって両手を突き出し……



《衝波》



 ゴゥッ!



『ああ……おわっ、たか、な……』

 威力ある音が聞こえたわたしはそう呟くと、暗闇の中へ意識が飲まれていった……


 ・

 ・

 ・


「まったく、仲が良いと言うかなんというか……」


 リアは【衝波】を放った状態、立ったままで気絶。一方ハルは最後の攻撃をするタイミングでリアの衝波がカウンター気味に入り、最初に決めた円の外側へ吹き飛ばされている。

 もっとも、ハルは意識を失っておらず、片膝を付いた状態でリアの事を見ていた。



 最後、リアの攻撃がカウンターで入ったのは只のまぐれと見た方が無難だし、意識がある分ハルの方が優勢ではあるけど、なかなか円の内側へ入ることができない。


『ハルが【魂の創造(オーバークリエイト)】を使えたのは予想外だったけど、途中までギリギリとはいえ耐えたリアを誉めないとね。ま、ハルの最後の縦斬りがもっとコンパクトな攻撃だったら彼の勝ちで終わっていたけど』


 まだ使いこなせてないからか、どうしても使い慣れた技が優先で連携として出てしまうのだろう。【魂の創造(アレ)】を使いこなすには、高い技量と強い意識が必要とされるからねぇ……

 ま、威力も効果も高い技を、そうやすやすと使えてしまったら、色々と面白くもないし。



「で、ハルはどうするの?」

 今の場所から立ち上がり、ちょっと押すだけでリアはダウン状態になるから試合は終了。晴れてハルの勝利になるわけで。


「……それを聞きますか」

 ハルは苦虫を潰したような笑いを浮かべてこちらを見る。


「正直、リアにここまでやられるとは思いませんでしたよ。【魂の創造(オーバークリエイト)】を使う可能性はゼロではないと考えていましたが、それを破られるような状態を予測するなんてしませんから」


 まぁ、そうだろうね。


「それに俺が受けたダメージだって洒落にならないレベルですよ。『これが戦場じゃなくて良かった』と安堵している自分がいるぐらいですから」


 そう言って立ち上がるハルの鎧、その胸部から腹部にかけて大きな凹みと蜘蛛の巣状に走る亀裂が、受けたダメージの大きさを物語っていた。


『ま、本人が納得しているなら良いか』

 そんな事を考えていると、



 カーン、カーン、カーン



【Time Over】



 五分間の模擬戦が終わる鐘が鳴り響く。

 結果はドローとなり、リアは自分の意志通りに次の道を進むことになった。勿論、それが良いことになるのか悪いことになるのかは彼女(リア)次第だろうけど……




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