84話 それぞれの視点(主人公視点ではありません)
【マチュアの視点】
『あら、途中から動きが変わったわね』
リアの動きは始まりからさっきまで悪くはなかったものの、普段から変わらないあくまでお手本通り。
普通の相手ならそれでも大丈夫かもしれないけど、相手が格上になると通じないわけで。
『吹っ切れた? それとも……』
なかなか見切るには難しい、判断はまだ保留かな。
しかし、ハルは見てて楽しい戦いをしている。
本人に聞こえたら怒られそうだけど、素直な賞賛だから許して欲しいかな。
もちろん、それについていけるようになったリアだって、抱き締めたくなるぐらいに褒めたいと思う。だって今の戦い方は、まだ私が教えていない領域だから。
『自分の引き出しを開けた戦いじゃなく、相手の引き出しを無理矢理こじ開け、それを外すぐらいの技量が必要。戦いの途中で気づけたら上々なものに対し、予想外という言い方は悪いけどリアはそこにたどり着いた』
本当に誉めるに値する内容だけど、そこに立ち止まるようでは……
『今で6対4、まだハルに勝てない。もう一歩、そこまで踏み込めるかどうか』
そこにが気つけたら……次の機会には私が相手をしても良い。だって、
『見てるだけでこれほどまでに体を火照らせるなんて、他人にだけ味わせるのが我慢ならないわね』
……あ、いけない。つい昔の悪い癖が。
とにかく今は見守ろう。自分の最初の弟子が、至上なる頂へ届く一歩踏み入れることができるかどうかの分水嶺。
『頑張りなさい、リア』
―――◇―――◇―――
【ハルの視点】
『おいおい、まさかここでもう一段ギアが上がるのかよ!?』
舐めたつもりはない。最初から全力でこの戦いに挑んでいた、それは嘘ではない。だか、
『今自分の目の前にいるのは、本当にあのリアか?』
戦いが始まってすぐに彼女の底が見えた。いや、正確に言えば知っていた技量の範疇から出ていないことを確認できた。
常日頃の模擬戦などで相手を知った仲だ、数手交わればすぐにわかる。そして【なにを・どこまでやれるのか】も自ずと見えてくる。
『基本に忠実であり、奇をてらった博打を打たない行動と攻撃』
それがリアの良いところであり弱点。だけどそれを知るにはリアと何度も戦うことでわかることであり、初めて戦う相手には十分に問題なく通用するとは思う。
故にリアの技や癖を身をもって知っている自分にとっては、ついさっきまでは全てが想定内に収まることで、リアの優位点が狙い目に変わっていた。
『だからこそ、場外間際への追い込みまでは予定内に進んだ状態であり、仕掛けも狂いなくハマっていたはずだった……それがここで変わった』
打ってくる速さだけでない、その出し方までもが今までとは変わってきている。それこそ俺の動きが把握され、さっきと逆にこちらがリアの誘導にのってしまったかのような状態。
ギリッ
無意識に奥歯が割れるほど歯軋りをする。悔しさも嬉しさも、そのどちらもが入り交じったような感覚にイラつく自分がよくわかる。
『認めるよ、リアはついさっきまでとは違うステージに来たって事を。だからこそ』
「リア、次の一手は今までお前に見せたことが無い、今の俺が持つ最高の技だ。これを凌いだら五分なんて面倒な事は言わない。リアの意見を尊重して任せる。だから……俺の期待を裏切るなよ」
「はぁぁぁ……」
大きく一呼吸。そして、
《魂の創造!》
全身から吹き出す力の奔流が俺を包み、やがて全てが大剣に集約される。大剣は集約した力を吸収しきると、振るう度に血のような紅い軌跡を生み出す。
「行くぞぉぉぉ!」
―――◇―――◇―――
【ロキシーの視点】
『羨望? それとも寂寥?』
リアさんのゲームにおける命の爆弾発言から始まった二人の戦いに対し、見ていることしかできないことが心を掻き立てる。
『あんなにお互い熱い気持ちをぶつけ合えるなんて……やっぱり羨ましいのかな』
私自身、持っている力の事もあってか、つい他人を視てから判断してしまう。それは既に習慣であって、今更変えようにも変えられない。
そしてこの習慣もあってか、気持ちや気合いと言った熱を帯びた感情も上がってこない。それにより、他人に言わせれば【冷めた女】と言われる事もある。
だけど、自分を隠さずさらけ出している今の二人を見ていると、すごく眩しく見えると共にそこから感じる熱量が私の中を熱くする。
『こんなこと……リアさんと出会うまでは無かった』
だから私はリアさん《彼女》に惹かれる、追いかけたくなる……私もあんな風になれるのかもしれないと思いたくなるから。
戦闘については素人だけど、私には力によってこの戦いの結末が見え始めている。
ああ、本当に羨ましい。そして……あなたが欲しい。
―――◇―――◇―――
【ファナの視点】
『どうなっているんだこの二人は!?』
城で見た武芸者とも遜色が無い。いや、それ以上にすら感じても不思議ではない。第一、異邦人の冒険者に対してここまで『何かくるもの』を持つ者を見た記憶がない。
しかも片方はそれなりに修練を積んだとはいえ、レベル11の冒険者であり、戦闘職ではない神官。それが、ついさっきまで見せていた人当たりの良さそうな雰囲気を既になくし、鬼気迫る表情は武人のそれ。しかも、
『……笑っているのか』
攻撃や防御をした際に時折見せるあの表情、私にはそれが笑っているのかのように見える。
始まった当初から獣人がリードしていた戦いで、そのまま終わるかと思っていたのに……神官が途中で化けた。いや、獣人が引き上げたか?
『金すら取れるような試合も観戦者は他にいない。他の冒険者がいたら盛り上がっただろうな』
そんなことを思っていると、二人の距離が始まりの位置まで戻り、獣人が一際大きく息を吐いて……
『まさか【魂の創造】か!?』
獣人から吹き出した力が手にしている大剣へ集まるのを見て確信する。
【魂の創造】を使う銀髪狼の獣人だと……では、あれが首長国の銀弾か!? なぜそんな有名な奴が辺境に近いこの村に!? まさか奴らの仲間か?
不要な警戒ならそれでも構わない。とりあえず警戒すべき相手だということがわかればそれで良い。
『奴らを追い出してから関は越えられていないが、もしこの獣人が仲間なら動きがあるかもしれないな』
二人の戦いを見ながらも、何かが起きた際に即対応できるように、私は警戒を強める。もちろん、何事も無いことが一番なのだが……
目安の長さに収まりきらないでーす(´・ω・`)
いつも読んでいただきありがとうございます(´ー`)




