82話 譲れない
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「というわけで、わたし自身がこの世界において戦う道を選んだ際に、譲れなかった問題だったの。二人には元々話すつもりだったのは本当よ?
ただ、ここで予定外の問題が発生しちゃったり、バタバタだっから話す間が無くて……でもそれは言い訳だよね、ごめんなさい」
自分のこと、考え方、思い。
人それぞれであろう事は重々承知の上で選んだ選択について、わたしは二人に説明をした。
「話はわかった」
「私もです」
「じゃあ、さっきのは」
「勿論、一つ目か二つ目しか選択肢はないな」
「甘いです。明日にもここを出るべきでしょう。元々ここでの問題は私達に関係ありません。
逆に言い方は悪いですが、治療までしたことによってここでやることは十分こなしています。リアさんだけじゃなく、マチュアさんとロイズさんにまで危ないことをさせる必要はありません」
うっ、ロキシーさんの口調がいつもの省エネモードではなく饒舌モードになってる!?
「まぁ、二人がわたしやマチュアさん達のことを心配でそういった選択をしてくれるのは嬉しく思うけど、このままここで起きている問題を残して出発するのも」
「それとこれとは話が別だ」
ハルがいつもは見せないような厳しい表情でこちらを見る。
「なるほど、リアの考えは立派だ。正直な所、俺には真似はできないだろう……だが、それはそれだ。無闇矢鱈に命を散らせる選択は意味がない」
「無闇矢鱈に散らせるって、まるで死ぬことを前提にした話し方みたいじゃないの?」
「……ああ、そうだが」
ムカっ!
「ムカつかれようが事実だろ? 俺に勝てない奴がどうして更に強いであろう山神様に立ち向かうことができるんだ?」
「な、なんで山神様に立ち向かうことが前提なのよ!?」
「リアは自分が置かれた状況を把握していない。ついこの前、お前は【特別クエスト】で何が出ていたか忘れたのか?」
「【全てのどのような戦いにも応じ続ける】ってことぐらい覚えているわよ」
「じゃあ、その【全て】っていうのが人以外も含まれた表現であり、山神様も対象だってことにも気がついているよな?」
「……」
そ、そっか。そうなっちゃうのか。
山神様がわたしに戦いを挑めば、わたしは一切逃げる事は許されない。それこそ、挑まれた状態でゲーニスまで来てしまったら、件の冒険者と同じことになりかねない……
クエストだから受けないことで【受けない=達成にならない】で済めば問題なかったのだろうけど、特別クエストというのはかなり特殊なようで、わたしの場合には【受けないことが認められない】し、【ログアウト時にも自動生活が対戦を受ける】という仕様になっていた。
まぁ【誰もいない・来ない場所に期間中ずっといたらどうなるか】という気になったけど、きっとこんな仕様のクエストを考える運営なら、否が応でも出なければならない事態を作り出す可能性を否定できない。
『その場合、わたしによりも周りに何か起こる可能があるから正直選択肢としてはないかな……』
「というわけだから、これ以上ここで何かをすることはリスクが高すぎる。だから、」
「待ってよ」
ハルが結論を出しかけたので慌てて止める。
「確かにハルのいう通り、わたし自身の問題を把握しきれていなかったのは事実だから、そこについては素直に謝るわ」
「だったら」
「でもね、リスクの事を言い出したら多分これから先、わたしは何もできなくなると思うの」
ここでハルの意見を通したら、これからも色々な問題にぶつかる度に、きっとわたしはその中に入れない。入れてもらえない。
『そんなのは絶対にイヤ!』
「ハル……わたしと勝負して。そしてわたしが勝ったらロキシーさんの出した五つ目の案を実行させて。勿論わたしが負けたら、ハルの意見に賛同してここを発つ……どう?」
「俺は構わないが、俺に勝つって……ナメてるのか」
そこには普段見ることの無い、獰猛な表情でわたしを睨み付けるハルの顔が。牙を見せつけ、今にでも襲いかからんとした感じで睨み付けている。
『こんなのにブルってたら……』
「まぁ二人とも痴話喧嘩はそれぐらいに」
「「痴話喧嘩じゃありません!」」
マチュアさんの仲裁に二人して速攻でツッコミを入れる。
「話を聞きなさいって。ハルの言うことももっともだし、リアの気持ちも本物なのはわかっているわ。でもリアが以前に比べいくら強くなったとしても、まだハルには及ばないのも事実」
「くっ……」
マチュアさんの一言に、血が出たかと思ったほど拳に力が入る。
「だからわたしからの折衷案。五分間の模擬戦でリアが立っていたら勝ち、倒れて動けなくなっていたらハルの勝ちっていうのはどう?」
「俺はそれで構わないが」
「わかりました、マチュアさんに従います」
―――◇―――◇―――
「試合形式は模擬戦五分間、ルール無用。今回は互いに降参しないだろうけど、そうなったら言うこと。勝敗は五分後にリアが立っていれば勝ち。それで良いわね?」
「「はい」」
わたし達がいた小屋の裏手にある開けた場所に円を描き、模擬戦を実施することに。
今までハルとの模擬戦は何度かやったけど、
「最初から狼人モードなんて気合い入れてるじゃない」
「やる気がないならさっさと負けを認めるんだな」
話しているだけでハルの熱さが伝わってくる。なんだか逆にドキドキしてくるじゃない……ヘンなの。
でも……
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『今までの模擬戦とは違う、凛としながらも燃えるような気を纏っている、これほどのリアなんて見たことが無い。負ける気なんてコレっぽっちもないが、俺自身をここまで高揚させる相手は何人もいなかった。だがそれはそれ……』
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「絶対に負けない!」
『絶対に負けねぇ!』
【Fight】
お互い自分の意地と意見を通すための本気の戦い。二人にとっての戦い、その火蓋が落とされた。




