81話 ゲーニスでの選択
「皆、ちょっと良いかしら」
マチュアさんは皆が揃ったテーブルで話し始める。
「とりあえずアルブラに到着が遅れる旨については、ファナさんから向こうの責任者へ一筆書いてもらったから、少しぐらいは遅れても大丈夫だと思うわ」
『良かった……』
今回の騒ぎによって到着日時が予定より遅れることで、不要な問題を抱えたくなかった。
ピリピリとした空気が漂っているであろうアルブラには、なるべく平穏な状態で入ることが望ましいと要さんも言っていたし。
「で、ここからは相談。この先どうすべきを皆に聞いておきたいの」
「はい」
「一つ目は予定通り明日の朝にここを発ち、アルブラへ向かうこと。ファナさんが連絡してくれたおかげで焦らなくて良いとはいえ、アルブラに着くこと自体は早めにしておいて損はないわ。
ただし一度この村を出てしまったら、入るのは困難になるからそこは注意しないとね」
「他の冒険者との問題ですか?」
ロキシーさんの問いにマチュアさんは「ええ」と頷く。
「関を作ってまで冒険者の入村を禁止しているのに、事情があるからとはいえ、一部の冒険者だけが自由に出入りしたら面白く思わない冒険者が出かねないからってとこね」
うーん、贔屓してもらっている気はなくても、そう思われるのは確かにイヤかも。
それにこのままこの村を出て行くのも、同郷者のせいで怪我をさせてしまった村の人達に申し訳ないというか。
「二つ目は暫くの間、この村に逗留すること。一応治療は終わっているけど、この後問題が発生した際に司祭さんだけで対応できるかどうかはわからないわ。
……いま怪我をしている人だけの問題ではなく、山神様がこの村へもう来ないとは言い切れないからね」
関を作って冒険者の入村を退けていると言っても、絶対に入って来られないようになっているとは断言できない。もしまた村の中に件の冒険者が来たら、もれなく山神様も来ることは予想できる。
『村に山神様のターゲットを擦り付けたぐらいだから何をしてくるかわからない、か』
「ただ、この選択肢だといつまでいることが正しいのかがわからないがのが難題になるだろうな。長引けば長引くほど色々と影響が出ることも予想できる。それこそ王家とかな」
ロイズさんも渋そうな顔でそう呟く。
『そっか、マチュアさんは元帝国民だから、何かあった場合に変な勘繰りをされるかもしれないことまで考えないとダメなんだ』
なんだかイヤな感じ。
「そして三つ目。まだ五十年分の【穢】しか溜まっていない山神様を討つこと。一番難しくて一番シンプルな内容になるわ」
「……できるのでしょうか」
「かなり分が悪い賭けでしょうね」
ファナさんから山神様のこと、あとは過去の経緯を教えてはもらったけれど、本来百年越しで弱まっているからこそ討伐できるのに、まだその半分しか【穢】が溜まっていない山神様を倒すことが出来るのか……
それに挑戦するのに必要なチップはわたし達の命。マチュアさん・ロイズさん・そしてわたしは死んでから蘇生までの時間がかかり過ぎれば、そのまま本当の死になってしまう。
『蘇生魔法自体がレアで持っている人も稀有なのに、五分以内なんて絶対に無理でしょ……』
「一応四つ目もあるぞ」
「四つ目?」
なんだろう、すぐに浮かばないけど。
「リアは今問題になっているのは何だかわかるか?」
「いま問題に……え〜っと、山神様と発端になった冒険者かな?」
「おっ、もうそれが答えみたいなもんだぞ」
「答えみたいって言われても……」
元々の問題を起こしたのは冒険者で、今問題になっているのは山神様。その問題は……
『えっ?』
「もしかして冒険者を捕まえて山神様に差し出すとか……?」
「ああ、正解だ」
え……あっ……うーん、なんか、こう心苦しいというか。釈然としてしないというか。
「奴らは山神様を使ってMPKしたようなものさ。村の住人を殺していないとはいえ、よくて犯罪者、下手すりゃ殺人者だ。
お尋ね者になった冒険者に同情は不要どころか、仲間に見られるのがオチだぞ」
「うん、まぁそうなんだけどね……」
わかっていても、すんなり飲みこめないのがわたしだから。それに、マチュアさんとロイズさんを危ない所に連れ行きたくないのも本音。
「だったら五つ目もある」
ロキシーさんからまさかの五つ目が!?
「ロイズさんとマチュアさんはここで三日間待機、その間に私とハルとリアさんが対象の冒険者を捕まえに行く。三日間経っても私達が戻らなかったらロイズさん達はアルブラへ向かい、私達三人も三日目がすぎたらアルブラへ行く」
「あ、それが良いかも」
二人のリスクはない方が良いし、わたしなら何かあってもまぁ……ね。
「ちょっと待って」
あれっ、マチュアさんから待ちが入ったけどなんだろう?
『なにかな~』と思っていると、マチュアさんが少し怒ったような表情でこちらを見ている。
「まさかと思うけど、リアは【今の自分のこと】を二人に話していない、なんてことは無いわよね?」
「あ……」
うーん、そう言えば話して無かったかも。
「ん? どういう意味だ?」
「何かあった?」
「えーっとね、あの、ちょっと……」
ヤバっ、二人の目つきがこれ以上の言い訳を許してくれそうにない。
ま、まぁ元々二人には話すつもりだったし、ちょっと遅くなっただけだから……
「実はね、このゲームにおけるわたしの命がマチュアさん達と同じものになったの。簡単に言うと強制戻りがもう使えなくて、もし死んじゃった場合には五分以内に蘇生魔法をかけるか、蘇生用アイテムを使わないと復活できなくなったってことで……」
「「はぁっ!?」」
いや~キレイにハモったな~って、うわっ、二人とも目に見えて怒りマークがついてるし……
「「リア(さん)」」
「は、はいっ」
「詳しく聞かせてもらおうか(もらいましょうか)」
……見える、二人の後ろに渦巻くものが。
「そういうのはいいから」
「はぃ……」
頭の中で呟く感想すら許されない、二人の怒りに触れたようです。




