71話 思いと理解と
「はぁ~っ!?」
ここ数年見たこと無いような驚きの表情で那緒が固まる。しかも息がかかるほどの距離で
「近い、近いって那緒」
「そりゃ近くもなるわよ!」
二限目の授業が終わり、教室移動もないことから携帯端末で昨日の続きを見ていたらところ、何気なく覗いてきた那緒にステータス画面を見られた。
いや、まぁ見られるのは良いけど、そこでレベルが11になったのを知った那緒が『いつ王都に来るのか』と聞いてきたので『今日からアルブラに行く予定』と答えたところ、冒頭にあった那緒の返答に。
「どうしてアルブラに行くのよ」
「ん~なんか王家から依頼とかで、わたしがいた神殿の人達にもアルブラとベルツに移動して欲しいって話があってね。
わたしもどうしようか悩んだけど、まだマチュアさんに教えて欲しい事があるから一緒に行くことにしたの」
「だからって……」
那緒はまだ納得行かないのか、ぶつぶつ言いながら携帯端末に何か入力している。
すると、
《メールが届きました》
わたしの携帯端末に要さんからメールが。内容は『詳しく聞きたいからお昼は生徒会室へ』との召還内容。
……那緒め、要さんに頼ったな。
「とりあえずお昼は生徒会室ね」
「りょーかい」
要さんがどう思うかも聞いてみたかったし、ここは素直に行くことにした。
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「なるほどね~」
要さんは手元の皿に乗ったパスタをくるくると巻きながらわたしの話に耳を傾けていた。
『ああやって何かしながら話を聞くの時の要さんって、だいたい頭の中で計算と言うか、色々なことを組み立てているのよね……』
そんなことを思っていると、要さんの手が止まった。
「いってらっしゃい、阿里沙」
「ちょ、ちょっと要っち!?」
考えていたものと違った答えに狼狽する那緒をスルーして、要さんは話を進める。
「現実問題、アルブラと公国の間で戦争が起こるかもしれないとは言われているけど、私的には怪しいと思っているのよね」
「でも王家の人がそんな話を神官長にして……」
「その情報が正しいとは限らないわよ?」
確かにそう言われると絶対に戦争が起きるとは限らないけど、そうだとしたら今回の移動って何のために……
「まぁ阿里沙も色々考えての行動だから私達がうるさく言っても仕方がないし、どちらかと言うと帝国との戦争が起きた場合には王都にいた方が危ないわ」
「それは……わかるけど……」
那緒も納得しかけているけど、ちょっとだけ面白くなさそう。
「那緒、確かに何も言わずに決めちゃって悪かったかなって思うの……ごめんなさい」
「んーん、こっちの方こそ。アルブラって結構色んな意味で危ない所だから気をつけてね」
「じゃ、この件はこれでおしまいっと!」
はぁ……良かった。
「で、阿里沙ちゃん?」
「ハイ」
要さんがさっきまでとは違う雰囲気でわたしをじっと見てくるので、思わず片言の返答に。
「この前、シーレフの街中で対戦したんですって? しかも相手が初心者殺しで有名な蜥蜴男」
「げっ、アイツ最近見ないと思ったら、よりにもよって初期村に行ってたなんて」
那緒が心底嫌そうな顔で要さんの言葉を繋ぐ。
「まさか阿里沙が対戦することになるなんて、おっぱい触られてない? 大丈夫だった?」
「要さんと那緒の話だと有名人なの?」
那緒のおかしな心配を他所にあの蜥蜴の獣人について尋ねる。
「エロクズだけどレベル高くて、自分が勝てそうな相手、しかも女性を好んで挑むから要注意人物として上がってるわ……で、阿里沙はその蜥蜴に勝ったのよね?」
「えっ、あ……はい」
まぁ実際には痛々しい勝ちだったけどね。
「うそ! アイツ一応レベル30越えだよ! いくら阿里沙が格闘鍛えているからって、普通は……」
「ねぇ、阿里沙。あなたのゲームのステータス見せてくれない?」
あー、なんか詰んだかも。なんだかそんな気がする。隠しても仕方ないし……
「どうぞ……」
手にしていた携帯端末にゲームのステータス画面を表示させて二人に見せる。
「ちょっ、なにこのステータス!?」
「阿里沙が変なことするわけないし、このゲーム自体チートなんて出来ないはず……詳しく聞いても?」
「はい、実は……」
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「……さすがにそれは驚いたわ」
いつも冷静沈着な要さんも驚きを隠せない。那緒に至っては顔が能面のように不思議な笑顔で固まっている。
「正直に言うと、今あなたがゲームの中における【リア】としてのステータスは、私や那緒と遜色ないぐらいよ」
「あはは……」
やっぱりそんな状態ですか。
「でも引き換えに強制戻りがない状態なんでしょ?」
「モルフィス様が言うにはゲームの世界の人達と同じになっているはずなので、蘇生可能時間を過ぎたら完全な死になります」
「でもそういうのって問題ないの? だって死んだらアカウントがあってもログインできないなんて、そんなの普通じゃあり得ないよ……」
納得がいかないのか、那緒は設定に疑問を持つ。だけど、
「ゲーム内における設定の変更……私から見たら許容できない内容だけど、それがあった後もあの世界で生きていられるという事は、それがシステム的に【問題点なし】と認識されているという事。
抜け道なのかバグなのか……でも世界最高峰って言われ、【人と遜色が無いパトロールAI】がそんな重大なことを見逃すハズは無いだろうから、運営的にも仕様として認めていると考えるべきでしょうね」
要さん的には運営が認めたなら仕方がないと割り切っている。
「そこまで……自分を追い詰めないとダメなの? そうしないと戦えないの?」
那緒がジッとこちらを見て話しかけてくる。
「色々考えた結果なの。戦争とかあの世界で戦うことになった際に、自分が戦う人達とゲームの中だけであっても命の価値を同じにしたかったの」
「でもそれって」
「うん、ただの自己満足でしかないことは承知してるわ……そうしないと納得できなかったから」
「まぁ本人が納得してるならしょうがないけど、さすがにこっちについては相談して欲しかったわね」
「すみません……」
「ま、いいわ」
要さんは那緒の肩をぽんぽんと叩くと
「その経緯を経て強くなった阿里沙と次会うのが楽しみだってしておきましょう。
阿里沙も回りをこれだけ心配させているんだから、簡単には退場しないでよ?」
「はい」
「さ、お昼休みもかなり過ぎちゃったわよ。さっさとお昼済ませましょう」
要さんがそう言うと、那緒は
「まだちょっと納得いかないのが本心だけど、阿里沙が決めたことだもの、理解できるように頑張るから……絶対に死なないでよ!」
「うん!」
二人に失望させないよう、頑張らないと!
いつも読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
書き直しって凄く精神力がいるということを改めて考えました。
直している最中に
「あああぁぁぁ……」
とゾンビみたく変な声がでます。
『もっと上手い書き方が』
『この話はまだ早い』
『これは辻褄があわない』
など、苦悩が耳から零れそうになります⊂(゜д 。⊂)
上手く書ける人が本当に羨ましいです!
さてさて、いつもな感じで。
いつも読んで頂いている皆様方、しばらくは話がゲームの中に特化しるはずです。
ゲーム感や風景が出るように文能力に力をかけますが、その分誤字脱字があれば矢のようにツッコミしていただけると喜びます。
新しく読んで頂いている皆様方、ゲームと日常とがアッチコッチしている話で読みづらかったりしたら、気兼ねなくツッコミ入れてください。
ブックマーク、本当にありがとうございます。
評価も本当にありがとうございます。
ここでの積み重ねが書き手の力になっています。
本当に感謝です、ありがとうございます(o_ _)o




