67話 vs獣人
色々と考えていると眠気ががが……
※18/02/26 誤字脱字修正しました
※18/03/01 誤字脱字修正しました
ロキシーさんが絡まれていると聞いて、わたしは料理の手を止めると外へ行く準備をする。
『絡んでいるのはこの世界の住人か、それともわたし達と同じ異邦人の冒険者か……』
それにより色々と変わってくるけど、まずは現地に行かないと。
「俺も行こうか」
「うん、お願い」
女一人じゃ舐められる可能性があるから、ここは素直にハルにも同行してもらうことに。とりあえず、調理場の近くにいたトーレさんに説明をしてから雑貨屋の前へと急ぐ。
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「って、これはまた……」
現地に着くと、ロキシーさんにノックアウトされた二人の冒険者が道路に転がっている。
『ダウン表示で倒れているから、対戦で負けてこうなっているんだよねぇ』
だけどロキシーさん自体は、その後応援で駆けつけたであろう四人の冒険者に囲まれていた。
「待ちなさい!」
「うるせぇ! 部外者は引っ込んでろ!」
「てめぇもいっしょにぶっ潰されてぇのか」
見た目からしてアレな感じだけど話し方まで……
「こいつ確か神殿にいる奴じゃね?」
「あーマジそうじゃん、じゃあコイツの落とし前に付き合ってもらおうぜ」
「結構です。ロキシー帰るわよ」
こんなのと一緒にいるような無駄な時間ないし。
「寂しいこと言うなよ、せっかくのVRMMOなんだからゲームでしか出来ないような面白いことしようや」
緑色の長髪がそんなことを言いながらわたしの腕を掴む。
ガッ
「あっ」
掴んだ手に左手を添えると、そこを軸に体を反転させて長髪の腕を背中側に捻って極める。
「痛てててっ」
「セイッ!」
ドッ
極めた腕を離すと同時に、背中に向けて蹴りを放つ! うん、つい条件反射だわ。
「グハッ」
蹴りを喰らった長髪は軽く吹っ飛びながら、他の三人を巻き込んで地面に倒れ込む。
「おほほほ、ごめんなさいね」
「さすがリアさん、グッジョブ」
「あ、スパッツ……」
「ちょっ、ハルはマジマジ見てるな!」
あとロキシーさんは自分の絡みでこうなった訳だからちょっと反省して下さい。
「さぁ今度こそ帰るわ」
「おいおい、さすがにそれは無ぇだろう」
突き刺すような殺気と共に、倒れた長髪の横にバンダナを巻いた男が現れる。
『この人……さっきの四人とは格が違う』
「悪いな、ウチのバカ共が見境なくサカったみたいで」
「まったくで、それではサヨウナラ……とは行かせてくれないようね」
そんな隙なく立たれたら帰るに帰れないわよ。背中向けた瞬間に、何をやられるかわかったものじゃないし。
「レブさん、そいつが」
「黙れや」
レブさんと呼ばれたバンダナ男は何か言いかけた長髪の顎を蹴り飛ばす。
ガッ
「うげっ」
蹴られた長髪は今の蹴りで気絶状態に。まわりにいた他の男達はそれを見てすぐに口を塞ぐ。
『いくらカウンター気味とはいえ一撃で気絶させるだけの力があると見た方がいいのか、それとも仲間を躊躇いなく蹴り飛ばす畜生さに警戒した方がいいのか……』
「でだ、どんな経緯があろうが仲間がやられた以上黙っていたらうちの団が舐められる」
「それはそっちの事情でしょうに。ウチには関係無いことですから」
「なに、そう言うのは間に合ってるさ」
ダメだ、コイツ引き下がるつもりがない。
《レブガントよりPVの申し出です。Yes/No》
「えっ?」
マズい、対戦のポップアップが来た!? 戦って勝てるかどうかわからないのに受ける訳には……
「受けちまえ、あとで何かあれば俺が出る。奴はこういった対戦マニアみたいだから、ここで避けても次また何かやってくる」
「もうっ! 時間が余ってる訳じゃないのに」
なんかあったらハルに振るからね!
《Yes》
わたしとレブと呼ばれたバンダナを巻いたオトコを中心に対戦エリアが現れる。この中なら対戦で死ぬほどのダメージを受けても、対戦が終われば元に戻る……はず。
『今のわたしでも大丈夫だよね』
「覚悟はいいが、中身はどうかな」
「とりあえずレベル10に勝負を挑むのはどうかしらね?」
「ぬかせ!」
焦ったら負けるから、焦らずに焦らずに……
【Fight】
「速攻!」
「させねぇ!」
わたしの踏み込みに対し、バンダナは手元に持った槍を上段に構えると、こちらの踏み込み先に穂先を鋭く突き刺す!
『速い!?』
間合いを詰めようとした二手先にまで牽制のように突く槍の攻撃に思わず舌を巻く。
「まだまだ!」
「くっ……」
完全に防戦一方の状態に苛立つものの、相手の攻撃が止まないから攻守を逆転できない。
だったら……
「ハッ!」
ガンッ
ある程度同じリズムでの攻撃だったので敢えて突っ込むと、胴を狙った突きに合わせて肘と膝とで槍の穂先を挟み込む。マチュアさんから教えてもらった返しだけど、上手くハマってくれた!
マチュアさんに教えてもらった数々の技というか、凌ぎ方のうちの一つです。
「なっ!?」
「まだっ!」
挟んだ槍を右手で強く握ると、
《水操》
いっちゃえ絶対零度!
……あくまで極寒に冷やしただけで、そこまで温度マイナスには出来ていないと思うけど。
「チッ」
わたしが握った箇所から一気にバンダナが握る箇所まで凍てつく力がたどり着く。だが異常を察知したバンダナは、瞬時に槍から手を離してダメージから回避する。
「クソがっ、ただの格闘女かと思ったら小細工してきやがるとは」
「もう武器も使えないし、これで終わりにしない?」
「ははっ、ふざけるなよ巨乳が!」
「はぁっ!?」
よし、殴る!
「リア気をつけろ、そいつも俺と同じだ!」
ハルと同じ……って!?
「遅えな」
そう言うとバンダナの姿が視界から消える!
「しまっ」
ザクッ!
「痛っ!」
バンダナの、人では有り得ない大顎がわたしの肩口に深く噛みつく。
「くっ……《炎操》」
密着した近距離で出来る行動なんてたかが知れてる。とりあえず最大火力でバンダナの横っ腹を焼こうとするけど、やはりこれも寸での所で逃げられる。
「なかなかに旨い血じゃねぇか。それにしても素手が届く間合いは危ねぇな」
全身からヌメリとした鱗を生やしたバンダナが、その口に付いた血を爬虫類の舌で軽く舐める。
「……蜥蜴の獣人かしら」
「ご名答。リザードマンとか呼んだらブチキレだがな」
「すでにキレてるんじゃないの?」
わたしは傷口を回復させながら悪態をつく。
『強化種トロールの時と同じで傷口は治せても、出血と少しとはいえ肩の肉が噛み千切られたのまでは治せない……』
これは……ちょっとピンチかも。




