62話 迷いの先
上手く表現ができるようになりたい……
「こうやって見るとゲームの世界って本当に広いのね」
机の上に広げた地図を見ながらため息をつく。
ダレスさんは好きにしていいとは言ってくれたものの、選ぶ内容によってはかなり今後が変わってくる。このままシーレフでダレスさん達のお手伝いをし続けるのが一番安定してゲームの中の生活を送ることができるとは思う。
『日々傷ついた人達を癒し、近くの森で狩りをして食材を入手し、市場から仕入れた材料と合わせて料理する』
それはきっと充実したゲーム生活になるとは思う。だってそれこそ望んだ楽しみ方だったから。
……だけど自分の中で何かがひっかかっている。それがわたしに声をかける。
『それで本当に良いの?』
「良いに決まっているじゃない、だってそれがここでしたかった事なんだから」
『でもあなたが楽しんでいるときに、他の皆は戦っているんだよ?』
「し、知ってるわよ」
『あなたは自分が楽しめればそれで良いんだね』
「くっ……、言われたくないことをズケズケと言ってくれるじゃないの!」
だって仕方ないじゃない!
ゲームの中とはいえ生きている人達がいるんだよ?それは味方であっても敵であっても変わらない。それを敵だからって攻撃して……
『殺すのが怖い』
「ええ、怖いわよ! 誰だってそうでしょ!
どうして生きている人達の命を刈る権利がわたしにあるの!? そんなものは無いわ!」
『でも、あなたが戦うことによって、あなたが大事に思っている親しい人達を助けることなるかもしれないのよ? 勿論、逆を言えば、』
カッ!
目の前が光で溢れる。
そしてその光が薄れたあとに一つの光景が広がる。それは……
「うっ」
光が完全に消えたあと、わたしの目の前には戦火で荒廃した森や平原、そして破壊し尽くされた街が映っていく。
――――――
焼きつくされた森林。
戦場の跡に残るPAの残骸。
人だったかどうかもわからない塊。
城壁が破壊され、噴煙が上がる城塞都市。
多くの血が流れ、紅く染まった水に沈む水上都市。
戦火に包まれ、跡形もなくなっ初期村。
そこには原型を留めていない神殿があり、中には……
―――――――
「もうやめて!」
声がわたしに見せる世界は絶望に染まった世界であり、戦争が起これば現実になるかもしれないもの。見たくも感じたくもない、知りたくない世界。
「……ってあれっ、夢か。あのままこっちで寝落ちしたんだ」
目の前の地図がそこをゲームの中だということを再認識させる。
『とりあえずログアウトしよう……』
―――◇―――◇―――
「酷い寝汗……」
シャツが肌に貼り付くほどかいた汗が気持ち悪くてシャワーを浴びる。頭の先から浴びる温水にも、心の中で残っている【何か】は流れ落ちることもなく、ずっとわだかまっている。
「こればかりは二人に聞けないしな……」
最後は自分の選択次第だし、『聞いたから決めた』では責任というか、感じている重しを他人に擦り付けるようでスッキリとしないし、逃げている事に代わりはない訳で。
勿論、そうなると同じ理由でハルや岸さんにも聞けないし。
「はぁ……」
とりあえずベッドへ移動して眠ろうと努力するけど、さっき見た映像が焼きついて離れない。
「とにかく寝ないと」
布団を頭まで被り無理矢理寝ようと試みるが……
『うぅ……もうっ!』
寝ようと頑張れば頑張るほど余計に眠れなくなり、結局うとうととし始めたのは空が明るくなり出した頃だった。
・
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・
昼休み。
「ありりんが食堂に来るなんて珍しいね」
「ええ、色々ありまして」
なんとか授業中に感じた眠気を気合いで乗り切り、朝作り損ねたお弁当の代わりに食堂へ来てみると、水菱先輩が券売機の前に並んでいた。
「ん~、ゆうちゃん(料研部員)のサイズが上がったのが気になったとか?」
「高岡先輩のそれに興味があるのは水菱先輩ぐらいかと思いますが」
水菱先輩は自分の手を胸にあてて『アップ、アップ!』とジェスチャーしている。
「いや、甘いわね! 同じクラスの愛川君も気になるはずだよ」
「えっ、そういう関係なんですか!?」
水菱先輩の情報収集もかなりのもので……恐ろしい。
「んで、ありりんは……恋の悩みでは無さそうだけど」
「そうですね、そっち方面はまったくです。可愛い子なら他を当たれと宣言しますから」
即答するわたしに対し、水菱先輩は『コイツ天然や』と訳のわからないことを呟いている。
二人とも券売機で昼食を買い、調理のオバチャンから一式を受け取ると並んで窓際のテーブルへ。
「でも顔色が良くないのは本当だけどねぇ……睡眠不足の一言じゃ片付けるのは厳しいかなぁ~」
「まぁ、そうですね」
うっ、さすがに察しが良いなぁ。かと言ってゲームをしていない水菱先輩にはこの件について説明できないし。
「ん~生の問題ですね」
「えっ、性の問題とな!?」
なんだか目が輝いて……あ。
「命の問題です、悪しからず」
「なーんだ」
思った以上におっさんというか、別の生物なんじゃないかと思えてきた。
「んで、命がどうかしたのかね?」
「そうですね、水菱先輩に話を合わせるとしたら……」
わたしはそう言いながら目の前にある焼き魚定食に視線を移す。
「例えばこの焼き魚になった魚って、私達が食べる為に生きてきたわけじゃなく、たまたま漁師さんの網にかかったから今こうなっています。
それってこの魚にとって、どうだったのかなって思ったんです」
「ふむ」
「自分を含めた魚達のルールで生きていた中に、いきなり我々が介入してこうなったのって、やっぱり悔しかったり恨んだりしているのかな〜って」
「ふむふむ」
水菱先輩は数秒目を瞑ってからこちらを見ると、
「ありりん、あなたは虫一匹すら殺したことがないのかな~」
と予想外の言葉をわたしに投げ掛けた。
「虫と魚、ひいては牛やそれこそ人に至るまで、こと命については等しく同じじゃないのかな?
虫は害をもたらすから退治し、魚や牛は食料となり我々に命を与えてくれる。
人は倫理という輪にあればこそ罪となるけど、一昔前の戦争では殺し合った訳だがそれはどう思うかね?
それこそもっと昔で言えば、人だって恐竜に食料とされていたと言われているよね? 彼らは恐竜に罪を問うのかな?」
「でも、それは対象や時代が……」
「詭弁だねぇ。ありりんが言ったのは【命】の問題だよね? そこに対し前提条件として、対象や時代があるなんて言ったかな?」
「それは……そうですが」
「ちなみに私が言った事も詭弁だ」
胸を張って言い切るこの人にわたしは何も言い返せない。
「ありりん、最後に何をどう決めるかは自分なんだよ。なかなか納得行かないことがあれば、せめて同じ舞台に立って同じ視界で見てみるの。
立てなかったらそれでも良いわ。でも、そこに立って見てみようとする事に意味があるのよ」
「同じ舞台、同じ視界……」
それはわたしにとって完璧とはいかないまでも、気持ちに一つの区切りをつけるには、十分な意味をもたらしてくれた。
いつも〜読んで頂き〜ありがとう〜ございます。
コピペじゃないので 〜 を書いてみました。
他意はまったくないです。
さて、話は昨日書いた通り、次の話に移っていってます。なかなかに話がゆっくりとしていますが、助走的な感じと思っていただければ幸いです。
書き手が混沌な感じなので、カオスっていましたらスミマセンm(_ _)m
さて、あとはいつもな感じですが。
新規も継続もたくさんの方々に読んで頂き幸せな書き手でございます。
掲載し始めてから一月以上過ぎましたが、なんとか無事続けられるのは、読んで頂いている皆様方のおかげでございます。
今後も頑張れる限りは頑張っていきますので、何卒よろしくお願い致します。
あとブックマークや評価は書き手の源ですので、こちらもよろしければお願い致します┏〇))




