60話 思いもよらない告白
「ごめんなさいね、用があるのに呼びつけるような形になってしまって」
「いえいえ、他の学年の教室へ入るのって意外に気になりますよね。しかも岸さんぐらい有名な方だと特に」
「そう言ってもらえると助かるわ」
岸さんはそう言うと改めてこちらに向きを直す。
とりあえずどういう意図があって今回の手紙の件になったのかを確認しないと。
「とりあえず呼ばれた意図が知りたいってところかな?」
「えっ、どうしてわかるんですか!?」
「そうね、それもおいおいということで」
ペタペタ……って顔に出てるかもしれないって思ったけど、触ったからって自分じゃわからないよね。というかゲームの中でもそうだけど、いろんな人にこっちの中を読まれまくってるって、もしかしたら顔のせい!?
「あ、とりあえず表情とかで如月さんの中が見えてるとか無いから安心してね。まぁ大体は可能性が高そうな思考を先読みしてるぐらいだから」
先読みでこうも思考を読まれたら悲しいとかいうレベルじゃないけど……
「岸家の人間はね、他人よりほんの少しだけど物事を読むことに長けてるの、思考的な意味合いでね」
良かった、わたしが特に読みやすいという訳じゃなかったみたい。
「ただ、その中でも私は思考だけじゃなくほんの少しだけど先が【視える】ことがあるの」
……視える?
「簡単に言えば、予測された未来が視えるってこと。ただしいつでも視ることができる訳じゃないの、気まぐれレベルと言えるかな。それに視えてもせいぜい一分先のことよ?」
「それって物凄いことじゃないですか!?」
わたしなんか使えたら、きっと善くない事に使ってしまいそう……
「欲に絡んだ未来は視えないから大丈夫よ」
そっか~って、やっぱり読まれてるし!
「ちなみにさっき如月さんが入室を躊躇っていたのも、私には視えていたから先んじて声をかけさせてもらったの」
本当に色々視えているってことなんだよね……ん?
「もしかして、それってゲームの中でも」
「ええ、全てではないけど視えることはあったわ」
なるほど、だから時折絶妙なタイミングで回復やデバフの魔法が使えてたんだ。
「でもね、視えるからってなんでも出来るわけじゃないし、却って物事を諦めやすくなっちゃったの」
「そうなんですか……」
ま、先が終わりの未来が視えたらそれまでって思っちゃうよね。
「だからこそ、私はこうやってでもあなたに会いたかったの」
「え~っと、いまいち話が読めないんですが」
さっきの話から、なぜわたしがここへ呼ばれることになったのか繋がりが見えない。
「あの魔物との戦い、私が【視た】未来では如月さんは最初の一撃で即死していたはずだった。そこで死ななかった事にも驚いたけど、次もそのまた次も私には魔物の攻撃で死んでしまう未来が視えていたのにあなたは死ななかった」
「まぁ普通は死んじゃいますよね」
というか気まぐれレベルじゃなく視えていませんか??
「視えても絶望。視えなくても普通に考えたら絶望。そんな中をあなたは絶望しなかったし、それどころか自ら向かって行った……それは私には出来なかったこと」
わたしにだって、どうして自分から向かって行ったのかがハッキリしていないんだよねぇ。とにかくあの場面では無我夢中だったから、変なアドレナリンが出ていたかもしれないのは否めないかも。
「初めてだったのよ。ゲームの中であっても私が視た未来通りにならない、良い意味で裏切られたことが。そして私なら即諦めてしまうような状況であなたは絶望せずに戦い続けた。
その時の感動と衝撃は、十七年生きてきて最大で最高だったと言い切れるわ。今だって思い出したら震えがくるぐらいよ」
岸さんにとって余程凄いことだったのは、話ながら紅潮する彼女の顔を見ているとよくわかる。
まぁ、わたし自身は自分のこともあってそこまで感慨にふける事は無いけど『よく頑張ったかな』という感じ。
「そして今日、ここに来てもらったのは本当に私のわがままなお願い」
そう言うと岸さんはわたしに向けて頭を下げる。
「えっ? えっ? ちょ、ちょっと待って岸さん!?」
いきなりのことで、さすがに理解が追い付かない。
「私と友達になって欲しいの。そしてゲームの中だけでもいいから一緒に行動させて欲しいの。できれば同じ団で」
「あ、頭を上げて下さい! そんなことしなくてもお友達になりますって! ほら、もうお友達~」
とりあえず岸さんの手を取り、頭を上げさせる。
「あとゲームの中って言っても、わたしは神殿で働いているし、クランにだって所属していませんよ? それに岸さんって【一番星】の一員でしたよね?」
「あそこは知り合いの人が団長だったから、ゲームの利便上所属していたの。きちんと理由は話して脱退済みよ」
おうっ、もうそこまで準備を……
「た、たぶんクランはルナさんの所になると思いますけど大丈夫ですか?」
「ルナさん……ああ、秋月さんの所ね」
ぶっ!
「なんで知ってるんですか!? ……って、そもそもわたしの事もどうやって調べたんですか」
「え? 調べるも何も私は特に何かを使って調べたりとかしていないわよ? ただ単純にゲームの中で見た表情や癖など特長的なことを覚えると、現実で見たら『あ、この人だな』ってわかる事があるってだけで」
「え?」
いやいや、ちょっと待って。
「じゃあ、たまたま校内で見かけて手紙くれたってことですか?」
「ええ、そうよ。まさか同じ学校に通っているなんて本当に運命かと思うぐらいビックリしたけどね。どうやって連絡取ろうか考えていたぐらいだし」
ええ、わたしもビックリですよ。どんだけ世界狭いんですか!?
「別にゲームの誰が現実の誰とかは特別な人以外興味ないし、まわりに広める気もないから安心して」
「まぁ、実際にそれやったらマナー違反でアカウント停止されますからやめましょうね」
「もちろんわかっているわよ?」
何故疑問符だし!?
……なんだか聞いてる噂と大分違うような気がする岸さんとの現実での出会い。
わたしにとってゲームを通じ初めて出来た現実の友達であり、自分とはいろんな意味で全く異なった新しい世界に触れる切欠になるわけで……




