57話 わたしの想い
おなか空いた……
「では、今からベリルさんとわたしの友達を招いた夕食会を開きたいと思います」
「よっ、我が神殿の料理人!」
「今日も酒に合う美味い肴を頼むぞ」
マチュアさんとハバスさんは既にお酒が入っていると錯覚するテンションです。
「脅迫まがいでここまで連れ出したんじゃぞ、それなりにハードルは上がると思ったほうがええ」
ベリルさんはいつもと変わらないかな。
「出来上がったものを出していきますので、お好きなものから召し上がって下さい」
そう言って皆にお辞儀をしてから調理場へ。
「ハルは食卓まで運ぶのお願い! 終わったら大盛り用意しておくから!」
「了解、任された!」
さぁ、始めますか!
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「お待たせしました」
全員揃った食卓に完成した料理が全て並ぶ。
「今日お出ししたのは【干し貝柱のクラムチャウダー】【秘密のコロッケ】【炭火焼きハンバーグ】になります。パンもありますので、それぞれの料理とお好きなような召し上がり下さい」
「リアさんを雇って良かった……」
「これはまたいつもより酒が進みそうな」
「ハバスさん、僕の皿にフォーク伸ばさないで」
「さすがリア、私の(格闘の)弟子だけあるわ!」
「どれから食べるか迷ってしまうね」
うちの神官チームは相変わらずです。
「こっちの世界でも料理で無双してるわね」
「リア~おなかすいた~食べていいよね?」
ルナさんとニーナも現実とあんまり変わらない、普段と同じような感じになってるし。
神官の皆さん、そしてルナさんとニーナも普段と変わらない賑やかなご飯タイムになっている。
さて、問題は……
「……」
ベリルさんは並んだ皿をじっと見たあと、食卓の様子を見渡してからスプーンでクラムチャウダーをすくい口へ運ぶ。
次にコロッケ、ハンバーグと一口ずつ食べてから、わたしに話しかけてきた。
「これらの料理を出した意図を聞こうかね」
「はい、最初はベリルさんに美味しいと言ってもらえることだけを考えていました。ですが、自分の中でそれはダメだなって」
「ダメとはどういう意味かねぇ?」
ベリルさんは興味深げにわたしへ問いかける。
……ここからが、ある意味本番!
「当たり前ですが、わたしはベリルさんの好きなものや苦手なものを知りません。また知ろうにも食事の約束をしてから会うことができませんでした」
「そうじゃな」
「正直悩みました、ベリルさんほどの人に美味しいと言っていただける料理をどう出すべきだろうかって。その時知り合いが言ってくれたんです、『わたしが納得するものを作るべきだ』って。
そこで色々考えました。そうしたら自然と自分の中でベリルさんに出したい料理が決まったんです」
「それがこれらの料理かい?」
「はい。今日お出しした料理は、自分が今まで食べてきた中で、特に記憶に残っているものを出させていただきました」
「どうしてか聞いても?」
「まずスープですが、昔のわたしは牛乳が苦手な子供でしたが、祖母がたくさん試行錯誤して作ってくれたのがこのクラムチャウダーでした」
祖母はわたしが牛乳臭さが苦手な事をわかっていた。デザートなどのお菓子にしたら食べれるけど、所詮はお菓子だから牛乳を克服するまでにはならない。
『おかずとして食べる事ができたら』その中から出来たのが【干し貝柱のクラムチャウダー】。
アサリより風味が強い干し貝柱で作ったクラムチャウダーの味は美味しかったし、何よりも苦手なものでも工夫すれば食べられることは子供心に衝撃的だった。この料理がわたしの根幹。
「次に【秘密のコロッケ】ですが、パッと見ではわかりませんが三種類異なった味になっていて食べるまではわかりません」
「これにも意味が?」
これも祖母が考えてくれた料理。小学一年の頃、とにかく食が細かったわたしが興味を持つようなおかずを出せばと思考した中で生まれた秘密コロッケ。
皿に取って食べる度、違う味がしたのが楽しくてついついおかわりをして食べたのも良い思い出。
時にはカレー味や、変わったものではパエリアが入っていたことも。
「そして最後が【炭火で焼いたハンバーグ】です」
「これも祖母が?」
「いえ、これは栄養をつけて欲しい祖母にお肉料理を食べて欲しくて……わたしが祖母に作った最初で最後の料理です」
入退院を繰り返し、日々細くなる祖母が少しでも食べたくなればと考え、フライパンではなくお隣さんに借りた七輪を使って庭で焼いたハンバーグ。
あまり肉料理を食べない祖母が食べ終わった後に、『おいしかったよ』と言ってくれたのは一生忘れられない。
「わたしは、祖母の元で育ちました」
祖母と二人で食べるご飯は、いつでもどんな時でも楽しかった。別に料理が上手い訳でもないのに、わたしの為に作ってくれる姿はいつだって思い出せる。
明るくて、楽しくて、行儀悪いことをしては怒られて……祖母の近くで一緒に食べることこそが、美味しく感じた一番の要因だったと今でも思う。
「だから、この場かね?」
わたしとベリルさんは食卓の周囲を見渡す。
美味しそうにご飯を食べる人。
お酒と合う合わないを話し合う二人。
日々の想いに、これからのことに、夢をもって話す人達。
……うん、みんながそれぞれに楽しく食事ができている風景は、見ているわたしが嬉しくなる。
「はい、この世界でここにいる皆さんと一緒にご飯を食べるのが、祖母との食事に近い暖かみを感じました。ワイワイと楽しく、皆さんが思い思いに食べてくれる……食事は一人じゃ味気ないですから」
賑やかな食卓は最高の調味料です。
「……」
ジッとわたしを見るベリルさんが、何故か祖母にダブって見えた。
「お前さんの味、気持ち、考えはよくわかった。良いだろう、お前さんがこれからも何を作るか楽しみにさせてもらうよ」
「では!」
「好きな時に取りに来るが良い、別に金はいらん」
そう言うとベリルさんは席を立ち、こちらに近づく。気がつけば出してあった料理は全てキレイに完食済み。
『えっ、いつの間に!?』
「まぁ、代金の代わりにまた美味しいものを食べさせておくれ」
ベリルさんはそう言いながらわたしの肩をポンポンと叩き扉へ向かう。その際、わたしにだけ聞こえるような小さな声で一言口にする、
『おいしかったよ』
「!?」
まさか? そんなはずは無いとは言え、耳にした声はあの時のおばあちゃんの最後の言葉。
……あり得ない、偶然だよね?
「リア~コロッケおかわり~」
「スープがまだあればいただきたいのですが」
「リアも一緒に食べようよ!」
『……ま、良いっか』
今この場が楽しいのだから、ね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
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え、まぁ、暇な奴と思われそうですがそんなことないですよ〜普通に忙しいですよ〜
ま、他に遊んでいた時間をこちらに回しているだけなので、ソシャゲやってる時間がなくなったぐらいかな。あとラノベ読みも。
しかし、今まで書いていなかったわけですから、最初はアクセスもひと桁。ブックマークなしから始まりましたから(当たり前ですが)、それを思えばブックマークも400超えて、うれしい&本当に?と思うことしきり。
ひとえに読んで頂いた皆様方のおかげでここまで継続出来ました。本当にありがとうございますm(_ _)m
さて、話はまだまだ書きたいこといっぱいなので、これからも頑張っていきたいとおもいます。
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