52話 結果として
「リア、ハルくんの言うことを最後まで聞いてみて?」
「あ、はい」
最後まで聞いたらわかるのかな。
「確かに結果だけ見れば俺の勝ちですが、経緯でいけば完敗です」
経緯?
「勝負が始まる前、リアさんが棍を持っているのを見て無意識のうちに棍の間合いを想定していました。
だが結局それはフェイクでしかなく、投げつけられた事でこちらとしても一瞬考えが回らずに止まってしまいました。そこから背後を取るまでの流れは見事な内容だったと思ってます」
「でも……奇策ですよ、一回しか使えないその場かぎりの裏技みたいなものですよ?」
一発引っぱたきたいという、自棄っぱちな作戦なので誉められたものでもないですし……
納得しきれていないわたしを気遣ってか、ハルさんはわたしへ説明を続ける。
「それだけじゃないさ。俺を落とすことを目的とした絞め技ではなく、倒すことを目的としていれば短剣などで首を刺していたはず。だったらその時点で勝者は君だ」
「それは、そうですが……」
「どんな奇策でも成功させた結果は変わらない、一度死んだと同じ状況だと俺自身が認識したのであれば、経過において負けは負け」
うーん、潔いというか諦めがいいというか。
「油断をしていなかったはずだったが、最初から目の前の相手を見誤ったということさ」
「そういうものですか?」
「そう、そういうものさ。勿論負けと認めるのは悔しいが相手がとった行動を冷静に見られないほどバカじゃないよ」
『経過としての勝ち、結果としての負け……難しいけど、今は相手がこちらを認めてくれたということで納得するしかないよね』
「わかりました、きっと今のわたしとって出来うる最善策が結果になったと考えます。なんだかうだうだとしてごめんなさい、ハルさん」
「こちらこそ、改めて初心に返った気持ちだよ。まだまだ未熟な部分を痛感できた」
「ま、じゃあそういうことだからハルくんにはリアの修練相手として暫くお願いするわ。あとリアの修練内容もちょっと見直しして、ハルくんと互角とまでは言わないけどリベンジマッチが出来るようにしないとね!」
『えぇぇぇっ!』
なんか、どっちにしろハードな修練になることに変わりなかったじゃん……ガクッ
―――◇―――◇―――
「じゃあ、こっちの部屋がハルさんの部屋になります。横はわたしの部屋なので、何か困ったことがあったら聞いてくださいね」
「ありがとう、助かるよ」
結局、ハルさんが暫くわたしの修練相手として逗留することになり、宿屋ではいろいろと余分なお金もかかるということから神殿の空き部屋を使うことに。
ま、食事もわたしが作る量を増やせばいいだけだから問題ないし。
「あ、そうだ。この後ちょっと用事があるんでいなくなりますけど、どうします?」
「そうだなぁ、今日のところは取り立ててやることも無いから何かあれば手伝えるが、イベントか何かか?」
「イベントかそうじゃないかと言えばイベントかもしれませんが……」
とりあえずベリルさん絡みの件について説明をしておこうかな。
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「なるほど、こっちじゃそういったイベントもあるんだ」
「どうなんでしょう、実際このイベントを他に受けている人聞かないからよくわからないんですよね」
「レアイベントと言うより固定イベント、しかもオーダータイプだとしたら話を聞いた限りの難易度も納得はできるな」
「そう言えばハルさんはどこの国なんです? 獣人自体始めて見たのでよくわかっていませんが」
「あぁ、俺はダズル首長国さ。大半が砂漠でメチャクチャ暑いけど開放的で種族などの制限がないから気に入ってるんだ」
ダズル首長国というと、確か帝国の西側にある国よね……結構遠いと思うけど。
「リアは、じゃなかったリアさんは……ああ、どうも慣れん」
「あはは、なんかわかる気がします。良ければ【リア】で構いませんよ?」
「そうか助かる!じゃあ俺のことも【ハル】でいいよ。その方が話しやすいからな」
「了解、ハルさん……じゃなかったハル」
「で、リアは……」
それから時間もあったことから、お互いの国のことやログインなんかを話し、その流れでフレンド登録もすることに。なんでもハルは行く国先々で気が合う人とはすぐ友達になれる性格らしく、すでに百人近いフレンドが登録してあるとのこと。
わたしは……まだ十人ちょっとかな。
「でも本当にレベル7なんだな。格闘と白魔法、あと料理が基本レベル無視して熟練レベルが上がりまくってるのは笑えるが」
「笑い事じゃないよ、おかげで未だにそれら以外じゃ大したことも出来ないし」
「俺も料理できるが、基本的に肉捌いて塩焼きぐらいだし。そういう意味では凄いと思うし賞賛すらできるよ」
そんな感じで今までまわりにいた人達とはちょっと違う雰囲気もあって、かなり楽しいおしゃべりタイムに。気がついたらわりといい時間になったので、ハルと別れて夕食の準備とベリルさんの仕込みでやっておきたい事を並列で作業。
途中からハルが見学してたけど「すげぇ」としか言わないのは、なんか可笑しくて分量を間違えかけたのは内緒です。
「今日はロールキャベツと野菜の串揚げ、あと初めて使ったホワイトボアの香草焼きです。脂がくどい方はお好みでレモンをかけて下さいね」
「なぁ、ここの神殿は毎日こんな豪華な食事してるのか」
「豪華って、わたしが作ってるから家庭料理の範疇だよ?」
今日からハルも一緒にご飯をすることに。なんだか凄く感動しているようだけど、変わった事はしていないからなぁ。ま、そんなこんなでハルが自己紹介してから食事を頂くことに。
「はぁ、酒が進む料理ばかりで困るの」
「あら、じゃあハバスは絶食すれば? お肉は私が貰うから」
「おいおい、客人がいる前で……じゃあこっちはロールキャベツとやらを」
「コラ! お前ら年長者の貴重な食事を……」
うん、今日も賑やかで楽しい食事時。横ではハルがひたすら「旨い旨い」を連発しながら食べている。ま、作った方としては美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものです。
さぁ明日(PAWでは三日後)は、いよいよベリルさんにわたしのご飯を食べてもらう日。さすがにちょっと緊張してきたかも!?
いつも読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m
昨日一日で何日分もアクセスがありました。おかげさまで評価もブックマークもたくさん頂きまして、【日間13位】とわたしの中での最高位になりまして、本当に感謝です!
こうやって上位に上がると嬉しいものですね(*´ー`*)
正直、他のやること捨てて『PAW〜P・A・W・オンライン〜』の構成や校正ばかりするようになってます。
さて、戦いパートは如何にして伝えやすくするかが悩みどころでして、文書と擬音でそれらしくしているつもりではあります。
これから戦闘パートも増えていきますので、頑張って鍛えていきたいと思います。
ではでは、またいつもので恐縮ですが。
新しく読み始めた皆様、このようにまだまだ拙い書き手ではございますが、よろしければ引き続き読んで頂けますと、嬉しい限りでございます。
継続して読んで頂いている皆様、頑張ってアップしていきますので、何卒よろしくお願い致します。
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