44話 必殺の一撃
ドン
今までわたしが受けてきた攻撃に比べたらカワイイ音があたりに響く。
「ナンダ、ソレ?」
強化種トロールが嘲笑うかのように、そんなセリフを吐いた瞬間
ボンッ!
「アァ?」
強化種トロールの背中が破裂すると、胸から腹部にいたるまでの巨大な穴が出来上がる。
「ザマァみなさい……」
驚いた表情のまま倒れる強化種トロールを見ながら呟くと、突き出したわたしの腕の力も拳から徐々に光の粒子へ変わっていく。
【大地共鳴のスキルが時間切れで解除されました、被ダメージが基本HP以上なので強制戻りになります。リスタート地点は……】
『とりあえずコレでいっか……』
『随分とあっさり死を受け入れておるのぅ、この結果を予測しておったかぇ?』
『なんとなくですが、ディメール様が言葉を濁していたので……』
あくまで予想でしかなかったけど、求めた結果を考えたら代償が大きなものになるのは必然なことと思っただけ。
『まったく、レベルが低いわりには達観した思考よのぅ……』
『達観なんてしてませんよ、諦めがいいだけです。しょうがないって割り切るだけですから』
『負けたくないと思うわりには、諦めが早いか……矛盾しておることに気付いておるのかえ?』
そう言われてみると、そうかもしれない。
『なるほどのぅ、無意識だったか……カカッ』
『うっ、否定できませんが……』
だけど今更自分を変えるなんてできないよ……
『まぁ良い。だが妾が良くてものぅ……ククッ』
……えーっと、なんだかイヤな予感が。
「ギ、ギザマ……」
「えっ、うそっ!?」
体に大穴を開けた強化種トロールがふらふらとした足取りで再び立ち上がる。
しかも、体に空いた大穴が徐々にではあるけど小さくなっていくような……
「そんな……」
『トロールの再生能力は並みではない、体の半分を失っても再生するほどよ。しかも貴様が戦っていたのは雑魚ではない、強化種よ。残念であったのぅ』
わたしの渾身の一撃は強化種トロールを倒すには至っていない……届いていない!
『止まって! お願い、まだ粒子化しないで! まだあそこには』
『諦めるのじゃな、貴様自身が言っておったではないか』
『そ……うだけ、ど』
結局わたしが悪かったんだ。早々に勝った気でいて、あとのことを何も考えてなかった……
結局、さっきまでの戦いは無駄だったってこと?
『全部わたしが悪いんだ、ごめんなさい、ごめんなさい……』
自分の情けなさに、無力さに、心が冷える。そんな時、
「リア!」
自分の愚かさに消えてなくなりたいと思ったタイミングで森の中から呼ぶ声が……都合の良い幻聴?
「リア!しっかりしなさい!」
「えっ」
幻聴じゃない!再び聞き慣れた声がわたしの意識を繋ぎ止める。
「あ、ああ……」
「気合いで強制戻りを止めなさい! いま私達がそいつを倒すから!」
二人が……ルナさんとニーナが戻ってきてくれた!
わたしが戦ったのは無駄じゃなかったんだ!
「……お願いルナさん、ニーナ、そいつを……倒して!」
「勿論」
「任せて」
ニーナはわたしの願いに答えながら更に加速すると、強化種トロールに一閃を浴びせる!
「オ、オオ!?」
二つの剣がヒットすると大穴の回りは凍結し、頭部はまるごと炎に包まれる。
強化種トロールもまた、自分の身に何が起こったのかを理解できていないようで、暫くしてから顔の回りで燃え盛る炎だけでも消そうと躍起になるが、何をしても炎が消える様子はない。
「ルナっち!」
「あとは任せて!」
杖を構えたルナさんの目が緑色に光ると、その回りに起こった渦が竜巻となり、やがて大きな龍へと変わると強化種トロールをその巨大な顋で噛み千切る!
「」
強化種トロールは言葉を発する間もなく即ポリゴン化。
……なんですか今のえげつない魔法は。
「「リア!」」
「二人ともありがとう、そしてゴメンね……」
駆け寄ってきた二人にそう言うと、わたしの全身も粒子化して消えていった……
・
・
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「はずだったのに……」
わたしは今、中継地の外れにある茂みに隠れています。
「リア、みんな気にしてないから出てきなよ」
「みんなが気にしなくても、わたしが気にしているんです」
自分が完全に粒子化し、強制戻りでリスタート地点へ戻ることはわかっていたけどさ……
『リスタート地点が中継地だなんて知るわけないじゃない』
粒子化してから数秒、気がつくと見たことがない景色に浮かんでいる自分がいて、それを第三者的な状態で見る不思議な感じ。
その後、自分の体に吸い込まれるように移動することで目が覚めた。そこにはルナさんを始め、今回の依頼に参加した皆がいた。
あんな別れ方?しておいて、直ぐに会うとか表情が固まるほどの恥ずかしさを体験したのが一回目。
次に状況が理解できず、皆が止める間もなく起き上がると、かけてあった毛布がずり落ちた。今度は皆の目が点になり(一部男性陣はそれなりの反応)、それによって自分がとんでもない姿を晒している事に気がつく。
ギリギリで避けたとはいえ、HPが減る状態から少しは当たっていたのはわかっていたけど、そのダメージでボロボロな衣類は下手な格好よりも扇情的な状態で、自分でその姿を見た瞬間に顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした……これが二回目。
「大丈夫、みんなスクリーンショット撮ってないって誓ったし、もしいたら握り潰すからさぁ」
そして最後は皆にめちゃくちゃ心配かけてしまったこと。ルナさんなんか泣きながら怒ってたもん。そんな思いをさせるなんて、恥ずかしいやら申し訳ないやら……これが三回目。
立て続けに三回も話のネタになるほどの恥ずかしい思いをして、皆に会わせる顔なんてないよ……
「なにバカなこと考えてるのよ」
ギュッ
「だって……」
身にまとった毛布の上から、わたしを見つけたニーナが抱きついてくる。
「まず、リアは現実な裸を見られたわけでもないでしょ。それに、強制戻りを付けてリスタートするなんて大抵誰でも経験済みだって」
それは……そうだけど。
「どちからと言うと、そんな凄いものを持っていて私への当てつけか! 自慢か! だったら奴等からお金を徴収すべきね! 見・物・料として!」
「いや、自慢なんかしてないでしょうに……」
「だったらさ」
ニーナはそう言うと茂みからわたしを無理矢理引っ張り出した。
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