42話 負けない戦い
反抗反抗!
『【灰色猫のワルツ】からボス狩りの誘いが来てるから、悪いが一緒に来てくれないか?』
『はぁ、でも私はまだレベル10ですよ?』
昔から無理を言うタイプだったけど、ことゲームでは如実に現れるものよね。
『なーに問題ないさ。向こうの団長からボス狩り前の中継地維持に数名残したいって話があってな。だったら互いに期待の新人連れて行って道中鍛えながら行こうかってなったんだ。
で、ウチからは期待の新人ってことでロキシーとミーアを連れて行こうと思ったんだが……』
期待の新人と言われるのは素直に嬉しいし、レベル的に未熟な私がボス狩りに途中までとはいえ、同行できるのも楽しみではあるけど、本当に大丈夫なのだろうか?
『ボスって何を狩るんですか?』
『初期村で問題となっている毒化騒動、その原因となっているスポア群生地の破壊と、毒されたトロール討伐だな』
「そこの中継地ってことはかなり大変だと思うのですが」
「ま、何事も経験だ」
いい加減な話……
「向こうはどんな方が来るのですか?」
「一人は最近急成長で名を上げてきている戦士だな。もう一人はルナのリア友でレベルは一桁らしいがなかなかに面白い存在だそうな」
面白いって言ってもレベル一桁って事は、戦力としてカウントしない方が良さそうね。
「わかりました、詳しく説明して下さい」
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そんな話を聞いたのは二日前。
現実で知り合いであるウチの団長から話を聞いて『毒されたトロール狩りじゃなければ』と承諾した。
普通のトロールならまだしも、私達のレベルじゃ毒されたトロール相手にどうやっても勝てるはずがない。なのに……
「なのになんで?どうやったって勝てない相手じゃない?なんで戦い続けられるのよ!?」
そんな私の考えを否定するかのように、二人は黙々と攻撃を続けている。
しかも相手は【毒されたトロール】どころか【強化種の毒されたトロール】と絶対に勝てない相手。そんな相手に無策で戦い続けるなんて正気の沙汰じゃない。
しかし、
「アレを見て何もしないで嘆くだけなんて出来ないじゃないっすか」
そう言うとミーアは狙いを定めて強化種トロールの顔を狙い撃ち続ける。
確かに目の前で戦っているリアさんはギリギリのタイミングで避けるからか、身につけた服は所々裂けその白い肌が露になっているし、残った部分にも赤い染みが浮かんでいるから、少なからずダメージが蓄積されていることを伺わせる。
『どうしてこんな絶望しかない戦いを続けられるの!?』
たかがゲーム、なのにこんな無理で無茶なことをする理由が私にはわからない、理解できない!
「彼女言ってたじゃないっすか、二人が戻ってくるまでって」
「だって、二人がいつ戻ってくるかわからない状況で延々と攻撃をし続けるなんて無理よ!」
「まぁ普通なら無理っすけどね」
「そうでしょ、だけどリアさんは……」
「アレは意地っすよ」
「意地って……」
そんなので戦っているの? それとも、その意地こそがあなたの力なの? 絶望を希望に無理矢理変えているのも意地なの!?
わからない、だけど気になってしまう。目の前で戦い続けるこの人の事が……
『……知りたい、あなたが見ているものを、あなたが感じているものを』
知りたかったら……私があなたに近づかないと。だから、
《召喚 白い息吹》
【対象の傷を癒す】
「お願いユニコーン、あの人を癒して」
《召喚 幻影の茨》
【任意の相手を見えない鎖で阻害する】
「ドライアド、トロールに幻影を」
私にも見せて、あなたが目指すものを!
―――◇―――◇―――
「セイッ!」
強化種トロールの攻撃をギリギリで避けると、避けた際に踏ん張った軸足に溜まった力を開放すると体を反転させ、その勢いごと強化種トロールの大腿部に肘を叩き込む!
「グッ……」
強化種トロールは足に走る痛みに苦悶の表情を浮かべると、怒りに任せ錆びた大剣を振り下ろす。だが、ミーアさんが放つ矢が顔に突き刺さりロキシーさんが使う対象を阻害する魔法によって、こちらを正確に捉える事が出来ずに明後日の方向へ攻撃している。
『ありがとう!』
振り返ることもせず、心の中で礼だけ言うと強化種トロールの死角へ移動し、再び攻撃を始める。
徹底的に足へ攻撃を集中させることで、強化種トロールの意識を下に縛りつける。それによりミーアさんのボウガンが強化種トロールの顔へ容易にヒットすることとなり、尚且つクリティカルヒット扱いとなり、かなりのダメージを与えている。
強化種トロールの強さから考えれば、それでも大したダメージなんかにはなっていないだろうし、その代名詞ともいえる自然回復の能力をもってしたら、それこそ微々たるものだと思う。
だけど……続けられる間はやってやる。
『負けたくない、二人が戻ってくるまで』
それを支えに。
ただ、懸念がないわけじゃない。
HPはロキシーさんが絶妙なタイミングで回復してくれるから大丈夫だけど、MPまでがなぜか減ってる状況が事態の先行きを暗くする。
『MPはポーション飲んで回復するしかないけど、どうやってもそんな暇なんて与えてくれないから、MPが尽きた時が終わりなのよね……』
そんなことを考えながら次の行動に移ろうとした矢先、強化種トロールは間合いを遠ざけると
「ウォオオオオオォッ!」
最初の咆哮とは異なる叫びで辺りの空気を震動させ、わたし達の動きを一瞬止める!
すると、
「モウ、イイ、オマエ、コロス」
そう言い放ち、後方へ大きくジャンプしながら錆びた大剣をこちらに向かって勢いよく放り投げる!
「なっ!?」
予想だにしなかった行動に一歩目が遅れる。
だが、それが幸いしたのか投擲された大剣はわたしの横を通りすぎると、髪だけをバッサリ切りながら背後の地面に突き刺さる!
「あっぶな」
バッ……
「え?」
聞きなれない音が聞こえたかと思ったら、首の辺りから鮮血が迸り、あたり一面を真っ赤に染め上げる。
『……あ、あれっ?』
「「リアさん!」」
二人の声が聞こえるけど反応できないというか自分の視界がぐらついていて、立つことすらままならない状態になっていた。
いつも読んでいただいてありがとうございます!




