41話 緊急事態
さぁ反撃反撃!
「デカッ!」
中継地に来る途中で戦ったトロールより一回り大きいし肌の色が違う。ということはあれが毒されたトロール!肉付きがいいと言うか、筋骨隆々で見るからに以前のトロールとは比べ物にならないほど強そう。
……ていうか、さっきしゃべったよね!?
「ま、まさかアレって強化種……」
ロキシーさんが震えながら言うそれって……依頼に書いてあった【強化種の毒されたトロール】って奴じゃない?
「み、みんな下がって」
ナナハンさんが指示を出した瞬間、
「グォオオオオアアァ!」
「ヒッ……」
ミーアさんもロキシーさんも、そしてナナハンさんまでもが強化種トロールの咆哮によって体が動かないようで、その場で立ちすくむ。
「ちょ、ちょっとみんな早く動いて」
三人ともステータスが異常になってるのか、私の声にも反応しない!
これは【麻痺】じゃないし……【恐怖】の状態! だったら、
《リカバリーフィアー》
唱えた魔法はパーティ全員の恐怖状態を解除。
「あ、ありがとうリアさん」
三人ともステータスは戻ったけど、まだちょっと動きが悪いのは目の前にいる強化種トロールとのレベル差なんだろうけど、わたしは何とも感じないのは日頃マチュアさんから受けているアレのせい?
「問題ないわ、それよりどうする」
「とにかく逃げましょう」
「どうやって? 瞬間で追い付かれるのがオチよ」
「でも勝てないよ!?」
わたしの問いかけにロキシーさんは逃げを推すけどやるまでもく無理なのは分かるし、ミーアさんは勝てない事実しか見えてない。
『確かに勝てる見込みはゼロ……』
ただ、勝てなくても『負けない戦い』ならできるかもしれない。
そんなことを考えていると、突然ナナハンさんが強化種トロールに向かって駆け出す!
「とりあえず、僕が攻撃を受けて凌ぎます!その間にリアさん達は逃げれるだけ逃げて下さい!」
「バカ! ダメよ、戻って!」
当然強化種トロールも向かってくる相手を見過ごすわけもなく、手にする錆びた大剣構える。
「ナナハン避けて!」
叫びにも似たわたしの声が辺りに響く。だが、
「オマエ、ジャマ」
グシャ
強化種トロールは棒きれのように錆びた大剣を振り下ろすと、攻撃を受けようとしたナナハンさんが盾ごと体を潰され、ポリゴン化して消えていく。
「やっぱりダメっすよ、ウチらも……」
ミーアさんが絶望の表情で呟き、ロキシーさんも無言で佇む。
《プロテクション》
わたしは自分に魔法をかけると、
「ロキシーさん、かけれるだけバフかけて」
「無駄よ」
「無駄かどうかはわたしが決める」
グロープをギュッと引っ張ると強化種トロールを正面に捉える。
「共闘してなんて無理は言わない、触られたら即死の恐怖に耐えてなんてことも言わない」
「……どうする気なの」
ミーアさんが問いかける、わたしが何をするのかわからないから。
『そりゃそうよね。自分よりもレベルが低い冒険者が、目の前にいる化け物相手に何をするのか』
「コイツが依頼対象なら、かならずルナさんかニーナがここに来るはず」
『これ以外は外しておこう』
鉢巻だけを残し革鎧は一式脱ぎ捨てて出来るだけ身軽になり、ブーツの爪先と踵の感覚を確かめる。
「だから」
そう言うと一度だけ大きく深呼吸して、
「だからそれまで生き延びてやる!」
わたしは気合を入れて叫ぶように宣言すると強化種トロールに向かって一気に走り出す!
「オマエ、ウマソウ」
「うっさい!」
掴もうと伸ばされた手を速度を上げて掻い潜ると、その勢いのまま強化種トロールの足におもいっきり拳を叩き込む!
「グッ……」
どうせ斬るような傷なんてトロールだったらすぐに回復するんでしょ? だったらトロールの攻撃を避けながら、痛みが強い打撃を当て続けるまで。
『何発当てたら~なんて考えない』
とにかく相手が嫌がる攻撃を、一発一発確実に叩き込んでやるんだから!
「オマエ、クウ!」
「やれるものならやってみなさいよ!」
強化種トロールは意地になって捕まえようとするけど、かえって動きが大振りになり付け入る隙が大きくなる。
『まず避ける、そして一発当てる、当てたら死角へ』
マチュアさんとの修行のように、ただひたすら同じ動作を繰り返す。何発も何発も、それこそ修行にあった木の的を打ち抜くように。
『頭を空っぽにして、力まないようにして次の動作へ流れ作業のように無駄なことはせずに……』
「シッ!」
打った際のエフェクトが変わり、それと同時に強化種トロールが苦悶の表情になる!
「やってやるわよ、何分でも何時間でも!」
―――◇―――◇―――
「凄い……」
私は目の前で起きている事に呟く。
事前に聞いていた彼女の依頼参加はニーナさんの縁故だと思っていた。
実際ここにくる道中において、雑魚魔物を一撃で倒していたのは驚いたけど、トロール戦では出番がなかったのは事実だったし。
でも目の前で彼女が戦っている強化種トロールは並みの魔物ではないし、逆に自分は咆哮で恐怖状態になり何も出来なかったのに、彼女は何もなかったように私達を回復させると単騎で突っ込んで行った。
丸太よりも太い強化種トロールの腕をギリギリのタイミングで避けては攻撃をするその姿が、憧れるニーナさんとダブって見える。
『レベルも実戦をこなした数も負けていなかったはずなのに……そんなものは関係無かったってことっすか』
パン!
自分の顔を両手で強く叩き目を覚まさせる。
『いまの私に同じことはできないけど、彼女を助ける行動ぐらい取れるはず』
短刀を鞘に収めると、鞄から予備武器のボウガンを取りだし強化種トロールの顔を狙い定め……
「リアさん遅れてゴメンなさいっす!今から援護するっす!」
彼女に聞こえているかわからないけど、そう宣言するとボウガンのトリガーを引いて攻撃を始めた!
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