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285話 王者達の協奏曲 69 アルブラの戦い9


【アルブラを見下ろせる山中】



「カハッ……」

 自分の魂を乗せていた依代のリッチが倒されたことで、強制的にリッチと自分の【魔軍統制(パス)】が切れると同時に、強烈な痛みがフィードバックされる。



【魔軍統制】

 自らの魔物に憑依させることで、魔物を自由に扱うことが出来る魔法。また、その魔物が高位の場合には自らを核として下位となる魔物達を統制することも出来る。なお、憑依した魔物受けた痛みは使用者にも伝達され、魔物が死亡した場合においてもその際に受けた痛みを完全に受ける為、状況や状態によっては使用した術者も死に至る場合がある。



『今まで私が憑依した状態で魔物が死ぬことなど無かったが……これはなかなかにキツイな』

 【魔軍召喚】と共に私が持つ最強の術であり、これを使って敗れることは無かった。故に未知に近いダメージ量に意識が飛びかける。



「ハァ、ハァ……」

 外傷としてはダメージを受けたように見えないだろうが、内部的及び精神的なダメージとしては瀕死に近いレベルであると自分の体が悲鳴を上げている。だが、作戦としては十分に結果を出しているはず。


「核となっていたリッチが倒されたことで魔物暴走モンスター・スタンピートも狂化効果を失うが……その前にアルブラ勢が城を出て戦っている。支配と統率を失おうとも、魔物としても目の前に人間がいれば戦闘は継続されるはずだ。最大の効果を得られなくても、アルブラの兵にかなりのダメージを与えることは」


「出来ないわよ?」


 !!


「誰だ」

 背後から意図せず声をかけられ、瞬時に身構える。


「誰って……さすがのディラン卿でも私の声を忘れちゃったかしら? 懐かしい再会なのにつれないわね」

「その声……まさか笑う人形(ラフィングドール)、マチュアか」

「帝都で陛下の元で会って以来かしら。あの時とは違って、お互い帝国兵じゃないっていうのが笑い話よね。私は王国に、あなたはアイツに従って……今は臨時国家所属になっているってことで良いのかしら?」


「さて、何のことかな……

 それより、こんな山中まで来るとは、まさか昔話をしに来たのではあるまいて」

 マチュアからは戦闘する気配は感じない。だが、人を殺すことに秀でた能力を持つ彼女であればそんなものはあって無いようなもの。


「そうね、要件を言わないとわからないわよね。ま、一人の王国民としては、貴方をアルブラに連れて帰りたいのだけれど……どうかしら?」

「生死を問わず、か」

「貴方次第だとは思うわ。とはいえ、素直に捕まるつもりなんて無いのでしょ」

「まぁ、確かにそのつもりは無いが。それよりもアルブラが無事であるということが前提で話を進めているのが気に入らないな」


 彼女が最初に言った『出来ないわよ』という意味。



「まさか」

 彼女が背後にいるにもかかわらず、崖へと向かうとその先に広がるアルブラの北門一帯を見て……呼吸が止まる。


「なぜ……アルブラの兵が場外に出ていない!

 なぜ、魔物達は城門の前で動きを制限されている!!」

 目の前に見える限りではアルブラの兵は誰も出ておらず、前と同じように城壁から魔物暴走モンスター・スタンピートで進んだ魔物達を攻撃している。そして魔物達は強力なデバフで縛られているのか、常時の何分の一にも満たないような速度で城門前を右往左往していた。


『私が見た水晶には、アルブラの兵が城門から打って出ていたはず。その兵達と乱戦になるように魔物暴走モンスター・スタンピートで縛っていた全魔物を向かわせたのに……なぜ!?』

 自らが想定していた事態と異なる様に、思わずその場で崩れ落ちそうになる。



「……そうか、私が見たものは幻術か」

 アルブラの領主は稀代の魔法使いであり、その幻術の魔法は大陸内でも最高レベルに匹敵すると聞いたことはある。だが、それにしても


「貴方が水晶越しで見たアルブラ兵は幻術で正解。ま、注意深く見ることが出来たらそれが偽物だって気づけたかもしれないけど……あの娘達との戦闘でそんな余裕は無かったでしょ?」

「奴らをあの場所に送ったのは君か」

 あんな無謀とも言える特攻、その裏に何があるかをわかっていない限り出来るものではない。


魔物暴走モンスター・スタンピート自体は想定外のものだけど、ああやって魔物を使って戦局を動かせるプロがいたのを思い出したの。ちょっと賭けに近かったけど、当たって良かったわ。

 ちなみに城門前で魔物達が受けているデバフについては本物よ? 何がどうなっているのかは企業秘密だから言えないけど」


「そういうことか……」

 こちらのやり口を知っている者がいるのは想定外であり、あそこまで追い込めたという状態についても、こちらがそう動くように誘導されていたとはな。



「さて、積る話をしたいのなら素直に捕まってくれると嬉しいのだけど。牢獄の中でお茶ぐらいは出してもらえるように話して」



 《フレイムスピア》



 ドン!



 力ある炎の槍をマチュアに向かって放つ。だが、


「話している途中に攻撃するなんて騎士道精神が無いんじゃないの?」

「騎士なんていう柄でも無いし、今では貴族でも無いのでね」


 マチュアは放たれた炎の槍を片手で難なく受け止めると、そのまま大したことでも無いような素振りで握り潰す。


「交渉決裂ね」

「交渉にもなってないだろうに、君がやったのは脅迫だよ」


『勝てる見込みは万が一も無いな』

 相手を殺すことに長けていた笑う人形(ラフィングドール)に魔法使いの身で勝てる未来など見えるわけがない。だが、



「せめて、戦いの傷でも残させてもろうか」

 残ったHPとMPの全てを絞り出し、両手に纏う。


「無駄な努力って嫌いじゃないわ、でも」



 ズッ

 


「な、に……」

 さっきまで目の前にいたはずの笑う人形(ラフィングドール)がぼんりやりとした輪郭に包まれるのと同時に、背後から放たれた突きが私の体を貫通する。


「ごめんなさいね、これも私の仕事なの」

「ふっ、損な役回りだな……君も私も」

 その言葉を最後に、私の耳には全ての音が聞こえなくなり……



 ドン!



 私を中心とした激しいが爆裂音が山中に響き、紅蓮の炎があたりを焼き尽くすのだった。


 ・

 ・

 ・


「やっぱり自爆したわね」

『良かったでしょ~私の魔力を込めた人形(ダミー)があって~』


 爆発から少し離れた場所からその状況を見ていた私に話しかける声が。それは私の手元にある鏡からであり、そこに映るのはアルブラの領主であるティグ様の姿。


『念には念を入れるということで渡して正解でした~』

「ええ、助かりました」

 そう話しながらさっきまで持っていた不思議な人形を思い出す。

 それはここに向かう前にティグ様が渡してくれたマジックアイテムだった。



『これは』

『私の幻術魔法の力を込めた特別な人形です~』

『ティグ様の魔力が籠もった人形ですか……』

 うーん、確かに妙な魔力を感じるマジックアイテムみたいだけど。


『大丈夫です~使用者に変な効果を与えるものじゃないですから~用法用量さえ守ってくれればですけど~』

『マジックアイテムに用法用量なんて無いですよね!?』

『まあ~相手が何もしなければ良いですけど~もしかしたら面倒なことを起こす可能性もありますからね~

 ……例えば自爆テロとか~?』


『確かに』

 今回の魔物暴走モンスター・スタンピートが起きたことに関連し、もしそれを裏で何かしら糸を引いている人物がいたとしたら、追い詰められた先に何をするか……


『攻撃時に相手にこの人形を付けちゃってくださいね~、そうすれば相手の望むものが幻となって現れますので~』

『極力使わないことを祈りますが、その時には遠慮なく使わせてもらいます』


『そうですね~安くはないアイテムですから~』

『どれぐらいの価値があるか聞いても?』

『そうですね~大きなお屋敷が五つは建てられるぐらいでしょうか~?』


 ……うん、出来れば使わないでおこう。

 というか、使った後に使用料とか請求されても間違いなく支払えないし、代わりに労働を求められたら一生モノの働きを求められそうな気がするし。


 ・

 ・

 ・


「なるべく使用は避けたかったのですけど」

『マチュアさんを失うことに比べたら大したことないですから~』


 そう言うティグ様の表情はいつもより少しだけ硬い。

 ……さすがに、あれだけ強い魔法を連続で使い続けるのは厳しかったか。



「とりあえずこちらは終了したと思います」

『そうですね~、俯瞰して見た限りでも魔物の統率は切れたままですし、あとはあそこのデバフが続いている間に、こちらの守備陣があらかた片付けてくれることを祈りましょう~』


「祈りましょうって……ああ、やっぱり限界ですか」

 事前にティグ様から聞いていたアルブラでの攻防において、限界近くまで戦った場合において生じる問題点。それはティグ様の持つ、魔法使いとしての能力と使う魔法とのズレ(・・)から生じる歪み。



『ええ、予想通りなので大丈夫ですけど~、まだこの先に何か仕込まれていると厄介なので~、ちょっとだけ休憩させてもらいますね~

 その間、アルブラの守備については娘に一任しておきますからご安心を~』

「わかりました」


『それでは~』

 そう言って鏡の中からティグ様の姿は消える。



「……結局、この結果はどちらが勝ったと言えるのかしらね」

 アルブラを落とすことは無かったものの、それなりにダメージを与えた臨時国家。

 一方、被害を抑えることは出来たものの、暫くの間とはいえ核となるティグ様が不在となる結果になったアルブラ。


『前の件と今回の件でアルブラの疲弊度はかなりの状態。ここに次の圧がかけられるようなことが起きたら……』


「厄介な状態よね、王国も臨時国家も……そして、多分帝国も」

 見える場所だけじゃなく、見えない場所でも動きはある。気をつけないと



「何であっても飲まれて消える、か」

 願わくば私の周りだけでも静寂な世界になって欲しいものだけど……




いつも読んでいただきありがとうございます。

とりあえず先週の続きです。なんとか連続アップできました。

……まぁ、誰がしゃべっているとかどんな場面とかわかりづらく、そこまで修正が届かずすみません。


さて、次回も希望としては二週間後の2/28(月)にアップできるようにがんばりますのでよろしくお願いいたします。





また、ちょっと面白いと思っていただけたら、ページ下部の☆マークをクリックして、ポイントをいただけたら幸いですm(_ _)m




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