284話 王者達の協奏曲 68 アルブラの戦い8
「ナン……ダト」
一面を鮮やかに燃やし続ける炎の中に光る、青く煌めく氷の刃がリッチを下から上へとニーナが斬り上げる!
「悪いわね、そんな隙の大きな上段なんて構えていたら斬りたくなっちゃう性質なんで。っていうか、もう止まれないから!」
《氷龍乱舞》
斬り上げられた剣をそのまま逆袈裟懸けで斬り下ろすと、そこから横一文字、袈裟懸け、真向斬りと続け、最後に増幅した魔力を蓄えた刃の先端をリッチの心臓へと突き刺す!
ザッ、ガガガガッ、ドン!
「ナゼ、貴様ガ」
「ま、ちょっとだけ特別なのを使わせてもらったんだけど……死んでいく魔物が知る必要なんて無いでしょ?」
《龍咆牙・氷舞》
ドガッ!
私が放った突きの先には魔力溜まりとなった氷塊の元が仕込まれており、相手の体内に入ったら最後、氷塊から生まれた無数の刃が対象の内側から食い破るように突き出していく。
「ア、アァ……」
千切れ、肉片となった己の体が塵となって消えていくのを認識したのか、リッチは何かを呟きながらこの場から消滅し、あたりに燻っていた瘴気も一緒に消える。
「魔物暴走を操っていた対象を撃破……任務完了」
まわりに他の魔物がいないことを確認し、纏っていた闘気を解除する。
「お疲れさま、ニーナ」
「お疲れさま~、って何している訳?」
「……ん~、浄化?」
まわりにいた、正確には私がさっきまで対応していたハイ・グール達はリッチが死んだことをトリガーに消えている。
ただ、ハイ・グールやレイスが湧いたことでこの辺りの土地一面が瘴気によって穢れた状態になっていたことを気にしたルナっちは、聖魔法と白魔法を組み合わせた浄化魔法で大地をキレイにしている……らしい。
『魔法のことはよくわかんないから、とりあえずルナっちがそう言うなら任せるしかないわよね』
見る限りは浄化の魔法によってクリーニングされた地面からは淡い光のエフェクトが出ており、浄化自体は出来ているみたい。
というか、
「ぶっつけ本番で【キャスリング】を使うことになるなんて思わなかったんですけど?」
「あら、私が【プロミネンス・ノヴァ】を使ったら、ニーナが【キャスリング】を使うって話していたから大丈夫かと思ったんだけど?」
「そりゃ、聞いてはいたけどさぁ……」
【キャスリング】
クランのリーダーとサブリーダーの位置を強制的に入れ替える“クラン専用魔法”。入れ替えられるのはリーダーとサブリーダーだけであり、サブリーダーのみが【キャスリング】を使用することが出来る。使用後のクールタイムが一週間かかるので頻繁に使う事はできないし、使用後にはリーダーへ“行動低下のデバフ”がかかることから、使用頻度はかなり低い。
「いやぁ、初めて使う機会が対魔物っていうのがウチららしいわよね?」
「はぁ……」
そう言って笑うルナっちを見て、私は軽くため息をつく。
『本来はクラン同士の戦争の時に使う緊急回避魔法なんですけどぉ……』
事前に使う可能性を聞かされていたとはいえ、さすがにあの場面での使用はかなり緊張した。
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「とりあえず相手がどんな奴かはわからないけど、魔物暴走なんていう厄介事を操作出来るとしれば魔法使い系だと推測されるわ。
そうした場合、本来は近距離戦闘であるニーナが突っ込んだ方が正解だと思うけど、逆に近距離戦闘へ対策をしている可能性が高いと見た方が良いわね。
私なら強力なバリアを貼って一定距離への侵入阻んだり、デバフを撒いて行動低下とか近距離戦闘への妨害をする……なんてね」
「うーん、そうなると面倒っぽい」
過去、デバフが撒かれた領域で戦うということは何度もしているから問題はそれほど無い。問題はないけど、
「今回の依頼については私とルナっちの二人でやるしかないことから、博打的なことは避けたいかな~」
「そうね、だから初手は私が相手に突っ込むわ、どんな相手でも私なら一通り対応できるから。ニーナじゃ魔法障壁を数枚保有した相手はキツイでしょ?」
あ~……やっぱりそう言う話に。
「私が最初に相手に戦闘を挑み、そのまま押し切れるのなら魔法で一気に殲滅。もし、それが難しいと考えた際にはニーナと変わるってことで」
「でも簡単に替われないっしょ? 相手もそんな暇を与えてくれると思えないし」
「そ、だから私がニーナと変わる際には合言葉……じゃなくて、特別な魔法で合図するから、ニーナはそれを見たら【キャスリング】を使い、問答無用で私と位置を入れ替えて欲しいの」
……はい?
「【キャスリング】って、本番で使ったこと無いよね!?」
模擬戦闘や練習の一環として【キャスリング】を使ったことはあるけど、戦闘の最中で使うっていうのは試したことが無い。しかもそれをかなりの強敵と思われる魔物相手に使って……
「ま、なんとかなるでしょ。時間も無いからイキナリ勝負って感じでやるしかないけど。
とりあえず、私としてはどんな相手かわからないからメインの炎系の魔法で戦うようにするから……そうね、私の中でニーナと替わるタイミングだと感じたら【プロミネンス・ノヴァ】を使うから、ニーナは【キャスリング】を使用して私と位置を入れ替える。
ニーナ的には相手がどんな行動に出るかはわからないと思うから、位置替えが終わったらタイミングで、自分が持つ最大火力の技で相手に挑むってことで……よろしくて?」
「よ、よろしいのかなぁ……」
まぁ、ルナっちがそこまで言うならそれでやるしか無いんだけどさ。
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『結局、ルナっちの“魔法使いらしからぬ”ゴリ押しとキャスリングが効果的に効いて、結果、最終的に私が仕留めたって感じかな~』
リッチが持っていた障壁自体はかなり硬かったから、ルナっちの“魔法で削りまくる”っていう策は当たってたし、障壁が無くなってからはリッチが近接戦闘に来てくれたことで私自身も持っている力を出せたと思う。
……ちょっとだけ消化不良な感じもするけど。
「ま、リッチも私を倒せば何とかなるって思ってたんじゃない?
でも、そうやって攻め方を変えてでも私に向かおうとしたタイミングで、こちら側も私からニーナにチェンジしたことで、リッチとしても思考に一瞬の間が生じて隙が出来てしまった。その隙を逃さず攻撃出来たウチらの勝ちってことで……悪いけどニーナも今のところはそういうことで納得しておいて」
「はぁ、ルナっちにそこまで言われたら納得するしかないかな~」
うーん、やっぱりこっちが考えていることが見抜かれてたか。
「だけど、ちょっとだけ気になる点もあるのよね」
「気になる点?」
はて?
「さっきも言ったけど、ニーナの攻撃がヒットしたあそこから一気に勝負を決められたわ。でも、あの隙みたいなものって、魔物というよりもどちらかと言えば人間臭かった」
「あー、ルナっちの言いたいことが何となくわかるかも」
相手を攻撃することがメインとして考えられている魔物であれば、【キャスリング】で私とルナっちが替わろうとも気にせず攻撃してきていたと思う。しかし、私が【キャスリング】によって替わった瞬間、隙というには短いものの、ほんの一瞬生じた間によってこちらが早く動けることが出来た。
『あれが本当に隙だったのか、気の所為なのか偶々なのか、それとも……』
結局のところ、あのリッチを倒してしまった以上は調べようがないか。
「さ、アルブラに戻りましょうか。ヒポさんはもうアルブラに戻っちゃったから歩いて帰るか、ティグさん達から貰った帰還アイテムを使って帰るか……ニーナはどっちが良い?」
「うーん、帰還アイテムなんて高価なものを使うも勿体ないから、ここは素直にランニングで」
「ランニングって……まだ魔物暴走も収まっていない北門を走り抜けるってころ!?」
「いや、さすがに魔物暴走を避けて西の城門へってことで。大回りになるけど、ルナっちの運動不足解消にもなるでしょ?」
「え、別に運動不足になんてなってないけど」
「ふふふ、さっきのリッチ戦、後半動きが悪かったのを私は見逃してないからね」
「えっ……」
「さぁさぁ、頑張って走って帰ろう!」
私はそう言うとルナっちの腕を掴んで走り始める。
「ちょ、ちょっと、ニーナ!?」
「ファイト!」
「待って、本当に待ってってば!!」
私に掴まれたことで強制的にランニングモードに移行するルナっちを横目にアルブラに向かって走り始める。
『とりあえずこっちは何とか生き抜いているからね、あなたも頑張ってよ……リア』
私達と行き違えにアルブラを出たリア。
魔物暴走を上手く避けてアルブラに戻って来ることを信じ、私達はアルブラを目指して走るだけだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
上手く話を切ることができず、あーだこーだとやっている間にアップするのが一週間遅れました。
すみませn orz
次回こそ二週間後ではなく、今回上手く切れなかった後半を載せるので、来週の2/14(月)にアップできるようにがんばりますのでよろしくお願いいたします。
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