283話 王者達の協奏曲 67 アルブラの戦い7
また、一週間遅れました……
《ファイアストーム》
ゴゥ!
『これでどう!?』
リッチを中心にして炎の渦が、空まで焼き尽くすかのような火柱を伴って燃え盛る。
ピシッ
『よし!』
炎が滾る中、それらとは異なる“亀裂音”が私の耳に届く。
「三枚目の障壁、破壊させてもらったわ」
『ヤッテクレル』
「ダメージが通っているのは確認出来たわ。レアなリッチでも普通のリッチと“障壁の数”は同じだったみたいね」
「……」
リッチなど上位の魔物達にはボスキャラと同じ仕組みで、物理攻撃や魔法攻撃に対して“ある一定の値までダメージを軽減・低下させる壁”を展開し、自身の生存率の向上を図るものが多くいる。これは、
『“障壁”が存在している理由は、皆さんが戦いたいと要望された魔物やレアな魔物の生存能力を高めることです。これにより魔物がすぐに死ななくなり、ゲーム内でたくさんのプレイヤーが共同で攻略することに繋がる……そう、皆さんでゲームを楽しんでもらうための能力です』
などとのたまうPAWの開発会社が雑誌に寄稿したインタビュー記事で明らかにしていたもので、ボスやレア度の高い魔物をソロで狩られないよう、多くのプレイヤー達が皆で楽しめるバランス調整要素として自信を持って入れたものらしい。
ただ、ゲーム会社が考えたバランスとプレイヤーが求めるバランスが同じ……とは限らない。
『超レアなベヒーモスなんか、「百人以上のプレイヤーと五分に戦えるように」とかって無茶苦茶な判断で、数万ダメージに耐えられる障壁を数十枚持たせて阿鼻叫喚な地獄が出来ているし……まったく、レアな魔物にしか与えていないとはいえ、こんな能力を簡単に魔物に与えてゲームバランスをおかしくしている運営の頭の中に電極刺してやりたいわ!』
まぁ、そんな高性能な障壁を持つ魔物なんて数えるほどしかいないという話だけど、ある程度丈夫な障壁を持つ魔物は山ほどいるわけで。
それよりも、
『魔物のタゲを別のプレイヤーや冒険者に擦り付け、分散させることで魔物の障壁を多面的に削って無理やり倒すようなダサいプレイヤーもいるって話が問題よね。
情けないというか、そんな戦い方で満足するプレイヤーが近くにいたなら、真っ先にそっちから潰してあげるわ』
ある程度強い魔物にはパーティを組んで戦うのがマナーという認識で普及はしているけど、中にはかなりダークなやり方で稼ぐお馬鹿がいることで、プレイヤー間だけでなく、PAWのNPCである冒険者ともイザコザが生まれることもあり、そういった面からでも魔物の持つ障壁については、昔から賛否両論が出続けている。
賛否両論といえば、
『障壁貫通する闘技とか覚えたら幾分ラクに戦えるって話だけど、そんな強い魔物と素手で戦うとか……どう考えても重度の戦闘狂でしょ』
自ら死地に飛び込んで戦うようなスタイルは私には出来ない。だからこそ、私は魔法を使うことで中距離以上な間合いで戦うことにしている。
それはさておき、
「これからが本番ね」
障壁が無くなったことでリッチの戦い方も変わるはず。
『遠距離系の高威力な魔法でこちらを近づけないスタイルで来るのか、それとも飛翔魔法で私の射程外まで逃げてから……』
そう考えた瞬間、
ヴン
「は?」
リッチは手にしている古杖の先から高エネルギーで出来た闇色な刃を発生させると、やや宙に浮いた状態から、勢いよくこちらへ突っ込んで来る!
ガキン!
「!」
「ヨク反応デキタナ」
「生憎とウチには魔法使い相手に近接戦闘の特訓をしたがる戦闘狂がいるもので……ねっ!」
リッチが持つ古杖から伸びたダークブレードを、私が手にしているワンドから伸びたエネルギーブレードで弾き返す。
「ソレハ楽シソウダ」
「力勝負は管轄外なの」
とにかくコイツから離れて……
「ツレナイ事ヲ」
そう言った瞬間、リッチの姿が視界から消えると
ザシュッ!
「くっ……」
背後から現れたリッチに反応が遅れ、左肩を鎧越しに斬られる!
『反応が遅れた』
リッチの持つダークブレードの入り方が甘かったのかダメージ的には大したことはない。ただ、
『素早さとラックにバッドステータスが……厄介極まりないじゃないの』
威力よりもデバフとしての効果が高いダークブレード。
リッチが使うというのは正直聞いたことが無かったけど、魔法戦を前提にして戦っていたところに意図していていないパターンで来られるのはキツイというか、戦略の立て直しが必要になる。ただ、
ガッ
態勢を立て直した瞬間に迫るダークブレードをギリギリのタイミングでガード。っていうか、エネルギーブレードを構えた所に運良く当たってガード出来たというのが正解……まったく、このままじゃジリ貧で押し切られるのも時間の問題よね。
「せっかち過ぎるのは嫌われるわよ?」
「生憎ト、問題ナイノデナ」
……うーん、この流れは良くない。
『リッチに隙はないどころか、このままのペースで戦い続けられたら私の方がマズくなる』
ジリジリと減らされたHPと半分を切ったMP。
『ポーションを飲む隙なんて全く無いし、魔法戦とは異なり近接戦となれば勝ち目はゼロに近い』
となれば、一発勝負に賭けるしかないってことよね。リッチに対し、最大限のダメージを与えるだけの状態を作り出し、最高火力をもって一気に倒す!
……少しでもズレたらこちらが終わりになるけど、そこに躊躇する余裕はもう無い。
《スプレッドフレア》
私が唱えた魔法によって自分を中心に炎の渦が現れると、渦から散った炎の玉が地面に着地した瞬間に大きな火柱を上げる!
ドガガガガッ!
「無駄ナ事ヲ」
リッチとしてはある程度のダメージを織り込んているのか、炎の柱を無視するかのように突っ込んで来ると、手にしているダークブレードを上段に構え、私に向かって振り下ろす!
ギリッ!
『ここで勝負を決める!』
ダークブレイドが振り下ろされる前、【スプレッドフレア】の使用によって硬直が入った体を無理やりに動かす為に口内に仕込んである強制剤を噛み砕く!
「ソコデ動クカ」
「喰らいなさいな」
残ったMPの半分以上を消費する超上級魔法、その力ある言葉を唱える!
《プロミネンス・ノヴァ》
魔法の形としては【スプレッドフレア】に似ている【プロミネンス・ノヴァ】。ただし、【スプレッドフレア】が火球からの火柱で連続的なダメージを与えるタイプに対し、【プロミネンス・ノヴァ】は周りに発生している炎属性の力を吸収し、詠唱者に集約することで魔法のダメージを数倍~数十倍に引き上げることが可能になる。
『スプレッドフレアだけじゃなく、その前に使っていたファイアストームを始めとした炎系の魔法の残滓はこの辺りにまだ残っているわ。それらも全て集めれば』
ドンッ!
私の足元を中心として発生した紅蓮の豪炎が、リッチを始め何もかもを焼き尽くす!
視界に入るのは紅蓮の炎によって生まれた豪炎の壁のみ。
「コレなら」
ズッ……
「悪クナイ、ダガ耐性ガアルノデナ」
リッチは炎の壁を割るように現れると、そう言いながら手にしたダークブレードを再び構え、
ザシュッ!
「ナン……ダト」
一面を鮮やかに燃やし続ける炎の中に光る、青く煌めく氷の刃がリッチを下から上へとニーナが斬り上げる!
「悪いわね、そんな隙の大きな上段なんて構えていたら斬りたくなっちゃう性質なんで。っていうか、もう止まれないから!」
《氷龍乱舞》
斬り上げられた剣をそのまま逆袈裟懸けで斬り下ろすと、そこから横一文字、袈裟懸け、真向斬りと続け、最後に増幅した魔力を蓄えた刃の先端をリッチの心臓へと突き刺す!
ザッ、ガガガガッ、ドン!
「ナゼ」
「……死んでいく魔物が知る必要なんて無いでしょ」
《龍咆牙・氷舞》
ドガッ!
ニーナが最後に放った突きによってリッチの体の中に生まれた氷の塊から無数の刃が生まれると、宿主とも言えるリッチを無数に切り刻み、その存在を塵レベルへと変えていった。
「任務完了」
いつも読んでいただきありがとうございます。
年末年始、書き溜めるつもりが時間がまったく無く……
次回こそ二週間後の1/31(月)にアップできるようにがんばりますのでよろしくお願いいたします。
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