281話 王者達の協奏曲 65 アルブラの戦い5
「貴様ラヲ、アルブラヲ落トス前哨戦トシテヤロウ!」
「こっちとしてもターゲットと接触できたのは上々よ、サクっとやらせてもらうから!」
『とはいえ、なかなかに無茶なことをしたものよね』
目の前のに立つ強化リッチに警戒しながらこちらも構えをとる。
『とりあえずコイツを倒せばあっちも何とかなるのよね?』
『そうじゃなかったら困るわよ、言わば魔物達がいるど真ん中に二人で来たようなものなんだから』
ここまではあの二人の狙い通り。あとは任されたことをしっかりとこなすだけ。
「やってやろうじゃないの!」
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【少し前、アルブラ】
「この魔物暴走が作られたもの?」
「ええ、正確には『魔物暴走』を裏から動かしている奴がいるって話だけどね」
ティグさん一緒に来たマチュアさんが私達に説明する。
「その動かしている奴っていうのを叩けば魔物暴走が止まるっていうことですか?」
「うーん、魔物暴走が止まることはないけど、とりあえず魔物が減らないっていう状況は止まるでしょうね。あと、魔物暴走らしからぬ、意図した攻め方も変わるかしら」
「あ~確かに【ウェーブ型】の侵攻って、魔物暴走っていうよりも規律のある軍隊みたいな攻め方ですものね。
でも、この【ウェーブ型】が続いているからアルブラも魔物暴走を城壁で食い止められているのでは?」
【ウェーブ型】のクセに次のウェーブが開始されるまでの間が少ないから色々とキツイ部分はあるけど。
「そうですね~疲弊はするけど耐えられそうではありますね~、あくまでこのままでしたらっていう前提はありますけど~」
「……なるほど、そういうことですか」
マチュアさんとニーナのやり取りに対し、ティグさんがため息とともにこぼした一言で現状起きていることへの意識を変える。
「そう思うだけの心当たりもありそうですね?」
「ちょっとね」
「でも~、直接我々がそこを叩くことが出来ないんですよね~ここの防衛もあるので~」
なるほど。
「で、ティグさんがいうところの“裏から動かしている奴”っていうのを私達が二人に代わって潰してきてほしいと」
「ええ、それに色々と楽しいと思いますよ~
あ、もちろん報酬もキチンとお支払いしますし~」
「楽しい……ですか」
報酬はしっかり貰うとして、どう考えても面倒な場所に行くのに、本当に楽しいと思うようなことなんて無いと思うけど?
「とりあえず怪しいと思うポイントはこちらとしても割り出しているわ。そこまでの足は用意するし、そこからの帰還についても問題なく戻って来られるようにアイテムを渡しておくから。もし、危ないと思うような場合になれば使うことで緊急避難も可能だ。
まぁ、二人の実力なら問題ないと思うし、何なら魔物暴走を後ろから崩してもらっても構わないから。
無論、そうなった場合には追加で報酬は出す準備を」
「しておきますよ~、まぁ出来る範囲にはなりますが~」
「あはは……」
この擬似的な【ウェーブ型】がいつ終わるかわからない状態で続くのは確かに厳しいし、それ以前にこの攻め方がブラフで、いつ総攻撃に変わるかわからないというのも結構問題だと思う。
「わかりました、二人だけでどこまで出来るかわかりませんが、最低でも魔物暴走を操っている奴は倒してみます」
本当に危ないと思う状態になったら、緊急避難用としても使える帰還アイテムを使えばいいし。
「じゃあ、悪いけど早速準備をしてもらえるかしら。目的地近くまで到達できる足は用意したが、如何せん動きのある相手のことだ、なるべくポイントがズレないうちに出発させたいのからね」
「さっきポーションは飲んだのでHPとMPはほぼ回復済みです。まぁ、疲労度についてはアドレナリンが出まくっている今なら大丈夫ですからいつでも行けますよ」
時間があまりない状態だと言うのであればさっさと移動しておきたい。
「わかりました~、では最低限の荷物だけ持ってあちらへ移動してください~」
そう言ってティグさんが指差す先は……城壁の横に建てられている見張り台。
「……えーっと?」
そう言えば“裏から動かしている奴”がいるであろう場所とか聞いてなかったっけ。それに見張り台へ移動するって……イヤ~な予感が。
「ま、こっちも色々とやっておくから二人も頑張って」
そう言いながらマチュアさんが私達の肩をポンポンと叩く。
「では~、短い時間だけどウチのヒポさんと仲良くしてね~」
「ヒポさん?」
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【アルブラ北 街道上空】
ビュッ
『高速で流れる景色と、全身で感じる風の塊』
などと言ってみたりするけど、目を瞑って前に座るニーナの腰にギュっと捕まっているので景色は何も見えないし、見ようとも思わない。
「最っ高ー!」
「……」
そんな私の状態など気にすることもなく、ニーナはテンションマックスな状態でヒッポグリフ(ティグさん曰くく“ヒポちゃん”)の手綱を握る。
「ジェットコースターの比じゃないぐらい楽しいっ! ルナっちもせっかくだから」
「大丈夫、目を開いてなくても心の目で景色を見ているわ」
うん、上空から見る景色なんて見飽きているから。
「はぁ、普段からフライの魔法とか使って空を飛んでいるのに……」
「フライの魔法とは高度も速度も違うでしょ!」
フライの魔法で飛ぶのはせいぜい高さ二十メートルぐらい。だけど今ヒッポグリフが飛んでいる高さは推定でも高度二百メートルの上空。
そんな高さを命綱や落下防止装置を付けずに飛ぶとか自殺行為でしょ!?
「まだ!?」
「もぅ、ルナっちってば……って、たぶんアレかな? 不自然に隊列を組んだ魔物暴走の後方に何かいる」
「よく見えるわね……」
私の心の目には残念ながら目標物を見ることは出来ない。
「ま、鷹の目使っているからね。じゃ、そろそろ行きますか」
グイ
「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が」
「大丈夫、私の方が準備出来ているからっ!」
ニーナはそう言うと私を小脇に抱えてヒッポグリフから飛び降りる。
「GO!」
「いやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」
ドッ!
「ふぅ、無事着地! ルナっち、もう目を開けても」
「あ、開けてるわよ」
さすがに地上に着いたら目を閉じっぱなしとか出来ないじゃない。
「っていうか、無事着地って……確かに落下速度低下が組み込まれた魔法道具を使い、なおかつ落下耐性のポーション飲んでいるからダメージ自体はほとんど無かったけど、ノーロープバンジーなんて体験は二度としたくないわ。
それに口の中に砂利が入ったし……最悪」
「口の中に砂利が入ったのは着地ギリギリまで悲鳴をあげていたからじゃないかなー」
「……」
とりあえずそれについてはノーコメント。それより、
「貴様ラ、ドコカラ」
魔物暴走の軍団から少し離れた場所に立つ一匹の魔物。姿形は通常の魔物だけど……
「ちょっと上からね!」
「それより、私としては人間の言葉がわかる魔物っていうのが気になるわね。
上位ランクの魔物っていうか、魔物暴走で強化されて喋れるようになったとも考えたけど、魔物暴走による影響は狂化になるのだから、元々人と話せるだけの力を持っていた魔物だったとしても、影響を受けたら会話どころか意志の疎通なんてなんて不可能なはずよねぇ?」
ということは、この魔物……リッチには何かがあるってこと。
「面白イ」
言葉を発すると同時にリッチ特有の魔瘴気が辺りに溢れ始める。
「面白くなんてなくていいの、とにかく倒させてもらうわ……ニーナ?」
「準備万端、いつでもオッケー!」
二体一の状態とはいえ、すぐ近くには魔物暴走の大群がいる以上、こちらの戦いに反応されると面倒なことになるのは明白」
だから……その前に決着をつける!
《アイスランス》
《アースウォール》
ガガッ!
相手が戦闘モーションに入る前、間合いギリギリから放った【アイスランス】。
ほぼノーアクションの状態で放ったそれは、命中寸前に大地から生えた、分厚い岩の盾によって完璧に防がれる。
『……速攻勝負をつけるっていうのは無理そうね』
対人戦闘だったら間違いなく当たっていたであろう【アイスランス】を完璧に防いだリッチの動き。
どうやら簡単には終わらせることは出来ないようで。
「ソレデ終イカ」
「死体の癖に面白いこと言ってくれるじゃないの!」
『ヤッバ……』
実力の見えない相手との戦い。
しかし、アルブラを攻めて来ていた魔物達とは比較にならないほどの力を持つ魔物に対し、心躍っている自分に苦笑いするしかなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
なんとか予定通りです。が、その分校正がね、いつもと一緒で出来てなくて……
粗な文です、スミマセン。
次回は12/13(月)と二週間後を予定していますが、また遅れるかもしれません。
よろしくお願いいたします。
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というかもう12月ですね、早いものです。




