280話 王者達の協奏曲 64 アルブラの戦い 4
「あなた達に相談があるのだけど」
「えーっと、面倒事なら避けたいですね」
『まぁ、避けられるのであればだけど』
ティグさんとマチュアさんがわざわざここまで来た理由なんて、どう考えても碌な話じゃないですよね!?
「お願いじゃないから、どちらかと言えば提案ね」
『って、お願いですらないじゃないの!?』
というか、聞かない選択肢が最初から無いのは……ねぇ。
はぁ、どうやら避けられない話なようで。
「で、私達は何をすれば?
勿論、危険すぎる内容であれば拒否してアルブラから退避させてもらいますから」
ゲームの中のこととはいえ、線引きだけは明確にしておきたい。
「そうね、危険なことに間違いはないけど、それに見合う報酬は出す……で良いですね、ティグ様」
「そうですね~、あくまで私にできる範囲になりますけどね~」
「では、とりあえずそちらを聞かせて頂いてから決めるということで……ニーナ、良いわよね?」
「ルナっちにお任せするよー」
何が出るかはわからないけど、とにかく話を聞くことで私達の考えは固まった。
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【アルブラ北街道】
「ホゥ、本当ニ動クトハ……八回目ノ侵攻デ耐エラレナクナッタカ」
水晶に映し出されるアルブラの北門がゆっくりと開き始める。今の攻め方をしている限り、どこかで打って出てくることになるとは思ったが……予想より早かったですね。
「マァ、コチラトシテモ、ソロソロ攻メ方ヲ、変エルツモリダッタカラ構ワンガ」
どちらかと言えば、アルブラがこちらの攻め方を【ウェーブ型】と見て、城壁内に引き篭もって防衛してくれていたほうが色々と楽だったのは間違いないでしょう。
いや、
「……コレガ、アノ者ガ言ッテイタ【隙】カ。コチラノ思惑通リニ動イテイルナ」
普通の領主であれば最初からこちらの勢力と城外でぶつかっていただろう。
それならそれでこちらとしても問題は無かったが、こうやって攻め続けられることで城内の抑えが効かなくなり、結局こちらに対し迎撃に移ることになるとは……ここの領主をもってしても城内の抑えが効かなくなったということなんでしょう。
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【数日前、臨時国家首都 リ・ゼルロア(元公国首都)】
「増やした魔物暴走の軍団で一気に攻めずに分割……【ウェーブ型】に似せて攻めさせるとは、また面倒な攻め方をするのですな、リュウ殿?」
アルブラへ行う波状的な攻撃の一つとして指示のあった魔物暴走を利用した侵攻。
狂い、暴れる魔物の大群をアルブラにぶつける単純な攻撃かと思ってみれば、戦力の整え方から攻め方まで、かなり詳細を詰めた内容を聞かされ驚いた。
「アルブラを守る領主はあれでなかなかに厄介な御仁です。魔物暴走で狂化された魔物とはいえ、千や二千ではあの城壁を崩すのも難しいでしょう」
「買ってますな」
「正直な所、もしあの人がウチにいたら公国崩しも半年早く達成できたし、共和国や帝国に対する守りとしても有効に使えたと考えますよ。
魔導師としての単純な能力の高さもさることながら、それを有効に使う頭の良さや軍を率いた際の指揮力も厄介なものです」
「それほどまでとは…ってん面倒な人のようですね」
「暫くの間、わりと近くで見ていましたからね。おかげであの人の厄介さと、アルブラを中心とした対我々に用いられる対策についてゼロから考え直すことになりましたからね」
それなりに厄介な人だとは聞いていましたが、なるほど。
「とりあえず、あくまでコチラの狙いは王国の大都市であるアルブラの疲弊と、アルブラから繋がる都市間の補給線を限りなく細くさせる……それこど断ち切ることが出来たらベストだけどそこまでは無理だろうね。
だから向こうに隙ができるまで極力長く嫌がられる手で攻め続け、防御線を解くタイミングが発生したら」
「こちらも総攻撃に入るということですな」
「ええ。【ウェーブ型】に似せた攻城戦を行い続けることで、相手としても聞いている戦力と終わらない戦いの差に焦り始めるはずです。例え領主が有能な人であっても、その下にいる兵や冒険者、あと異邦人達をずっと抑え続けることはできませんからね。
あとは撃って出てきたアルブラ勢力に対し、こちらも残存の勢力全てでそれに当たることで相手に大ダメージを与えられることになるでしょう」
「アルブラを落とすことは目的ではないということですね」
「はい、アルブラの戦力とあの地域における影響力を落とせたらそれで構いません。無理して攻め急ぐことで乱戦になるのは避けてください。我々としては、あなたという有能な手札を失うことが下の下になりますからね、命は大事にしてください」
「なるべく善処しましょう」
十分に生きた老いぼれとしては、少々無理な攻めをしても結果を出すことも出来ますが……それは悪手と判断されるようですね。
「最も気をつける相手は領主になるとは考えますが、向こうの戦力の中には個々のレベルとして厄介な人も幾人かはいますから、決して侮らないようにしてください。
特にレベルの高い冒険者や異邦人がいた場合には予測できない事象が発生する可能性が高いですから」
「話に聞いた、元帝国の笑う人形などですな」
同じ、元帝国民としても彼女の恐ろしさは見聞きしていますからそちらは良いとして、異邦人にも注意を払うべき者がいるというのは……どうなのか。
「とにかく想定外の自体が起こった場合には作戦を途中で打ち切り、あなたは必ず逃げて生き伸びてください。それは私の命令でなく、我らが主からの厳命です」
「ははは、そこまで言われるとなば、なんとか自分の身は守らなければならないですな。とりあえず、無駄死にすることなく戦ってみせましょう」
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「何ニセヨ、戦イヲ予定通リ進メマショウカ」
そう言って一歩踏み出した瞬間、何かの影が頭上を通り過ぎると
ドッ!
何かが地面にぶつかった轟音とともに大量の土煙が辺りを覆う。そして、
「ふぅ、無事着地!」
「いや、無事って……
確かに落下速度低下の魔法を使い、なおかつ落下耐性のポーション飲んでいるからダメージ自体はほとんど無かったけど、ノーロープバンジーなんて体験は二度としたくないわ。っていうか、口の中に砂利が入って……最悪」
「それよりもアレがそうみたいだけど」
「リッチかな? レベルがいくつかわからないけど何とかなるでしょ」
どこからともなく現れた二人の異邦人が、こちらを視野に入れた状態で武器を構える。
「貴様ラ、ドコカラ」
「ちょっと上から来たのだけど? っていうか、人間の言葉がわかる魔物って上位ランクの魔物っていうか、魔物暴走で強化されてる?」
身につけた武器や防具は上位のものだと見てとれた。
『強いな、それもかなり強い部類の異邦人か』
どうやらリュウが言っていた高レベルの異邦人がアルブラにはいたらしい。とはいえ、戦って勝てない相手ではない。
「強化されて会話ができる……いや、本来なら狂化だから会話どころか意志の疎通なんてなんて不可能なはずよ」
「じゃ、やっぱり」
「とりあえずこいつが魔物暴走の親玉というか、操っている奴で間違いないみたいだから、余分な会話なんかせずにさっさと倒すわよ」
「ん、了解!」
「面白イ」
本質の部分までたどり着いているかどうかはわからないが、色々と勘が良い異邦人であることは明白。ならば、
「貴様ラ、アルブラヲ落トス前哨戦トシテヤロウ!」
いつも読んでいただきありがとうございます。
予定より一週間遅れました。仕事おわんないわ時間ないわでワチャクチャでスミマセン。
粗な文です、校正も相変わらずで……
次回は11/29(月)と二週間後を予定していますが、また遅れるかもしれません。
よろしくお願いいたします。
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