277話 王者達の協奏曲 61 アルブラの戦い 1
一週間、予約ずれてました……
「ティグ様、【四報】を鳴らすとはいったい何が!」
「少し前、商家に仕える冒険者数名がアルブラに着きました。正確には“危機を伝えに戻ってきてくれた”というのが正しいのでしょうけど~」
『商家に仕える冒険者?』
野盗や野良湧きした魔物に対応する為に商家が冒険者を雇うことはよくある話。
でも、“商家に仕える冒険者を持つ”となれば話は変わり、高い地位や強大な財力を持つ有力な……それこそ国の運営や、その根幹に近しい位置にいるような“強力な商家”と判断出来る。
「詳しくは自分から」
ファナがディグ様と呼んだ女性の横から一人の男性が現れると説明を始める。
「数日前、アルブラから出たクロイチェル商会の商団が共和国へ向かう道中で異様な空模様を発見。動物使いを使って索敵した際に魔物暴走の群れを発見しました。距離はここから馬車で四日の距離であり、発見した場所から急ぎ二日で戻ってきて、こちらにその内容を届けていただいた状況です。
その報告を受け、こちらからも範囲索敵能力を持つ魔術師に調べさせたところ、確かに街道に沿って南下する魔物暴走の群れを発見できました。問題はその数です……」
そう話す男性の顔色は紙のように白い。
「当初、クロイチェル商会の動物使いが調べた際には魔物の数は少なくとも数百体、多くても千体未満ということでしたが、魔術師が調べたところ『数千体の魔物がいるのは確かで、正確な数が把握できない』とのことでした」
「「「「……」」」」
男性の報告により、その場にいた全員から息を呑む音だけが辺りに伝わる。
『魔物暴走、その狂った魔物が数千体って……』
『最初は数百体ってことだったんじゃないの!?』
『ダンジョンで発生した魔物暴走と同じように、周囲にいた魔物も魔物暴走の狂化に引っ張られたことで増えたってことでしょうけど、ちょっと増えすぎね』
ダンジョンのような閉鎖された空間とは異なり、屋外となると広範囲に渡って狂化が伝播したことで魔物暴走の数が爆発的に増えたのだろうけど……さすがにその数はマズい。
魔物暴走に染まった魔物の強さは、ただのゴブリンが容易くホブゴブリン以上のクラスになるし、下手をすればレッドキャップのクラスにまで強化される。
しかも屋外にいる魔物となれば、ゴブリンとは比べ物にならない強さを持つ魔物の方が多いわけで、オーガやワイトといった中級クラスだけでなく、さらに強いキマイラやワイバーンなどの飛行系の魔物にまで狂化が伝播していた場合、アルブラはドラゴンの襲来ぐらいの危機に陥るかもしれない。
コンッ
「時間は有限です、対策を始めましょう〜」
「「「はっ!」」」
ティグさんが手にした杖で床を突いただけで場内の混乱が静まり、掛け声によって集められていた人々の統制がもとに戻る。
「とにかく守備隊の編纂を行いましょう。幸いアルブラは湖に囲まれた都市です、全ての橋を上げれば魔物暴走によって襲来する魔物達の侵攻をある程度は止められます。
まぁ、魔物達は湖を渡ってアルブラに来ようとするでしょうが、泳いでいる無防備な魔物達なら魔法や弓などで攻撃すれば容易く倒せるでしょう」
「たしかに」
「早速、各門に司令を」
文官らしき男性の言葉に場にいた人々が頷く。
「待ってください!」
そんな中、話を聞いていたファナさんが動き出そうとした人達に向かって声を上げる。
「確かに橋を上げることで魔物暴走によるアルブラへの侵攻は弱くなるかもしれません。ですが、アルブラへの侵攻を避けた魔物達はどうなるのでしょうか。
今の話では『街道沿いに南下してきた』ということでした。では、橋が上がってアルブラへ来ない魔物達はどこへ行きますか?」
「あくまで予想でしかありませんが、たぶんアルブラに繋がる他の街道に流れていくだろうとしか……」
「そんなことが起きればアルブラは魔物暴走から逃れられても、アルブラより防御が劣る他の街が尽く壊滅することになります!
まさか、ここにいる皆さんは『仕方がないことだ』と割り切られるのですか!!」
「「「……」」」
『ファナの言うこともわかる。わかるけど……』
ファナの話に頷く者、批判する者、沈黙する者と様々な空気と考えが溢れかえり、半ば混沌とした場と化している。
『アルブラと周辺にある街との天秤は誰にも測れないわよ』
誰もがアルブラさえ無事なら良いとは考えていない。
ただ、アルブラが魔物暴走の群れに襲われるようなことになれば、その被害は甚大どころか王国の要にヒビが入ることとなり、王国西部における支配の安定さを失う可能性が高い。
しかし、アルブラが無事でも周りに存在する街が壊滅となれば、『自分の身を守るために他の街々を犠牲にした』という話が流れることになる。その結果、王国と住民の信用だけでなくアルブラと同盟国との信頼関係にも障害が発生する事態にもなりかねない。
『ベストなのはアルブラの現有戦力のみで魔物暴走を止めること。でも、ファナの話によるとアルブラ内で起こった戦闘によってアルブラ内の戦力も完全には戻っていないし、そんな騒ぎを嫌った異邦人達が他の都市に流れてしまっているらしく、全体的な戦力が落ちているこの状態で数千体にも及ぶと聞かされた魔物暴走の群れを止めることができるかは怪しいところでしょうね……』
冷静に考えたところで良い手なんて浮かばない。あるのは如何にして被害を少なくして“戦った”という結果を残すかという目標ぐらい。
『ねぇ、どうするの?』
『どうするのって聞かれてもねぇ……』
私達に出来ることなんて、たかが知れているわよ?
コンッ
「よろしいですか〜」
この危機にどう対応するのか、各々が意見を言い合い収集がつかなくなりそうになった時、場の空気とは異なるふわっとしたティグさんの声に、室内にいる参加者達が一瞬にして静まる。
「皆さんの考えはわかりました〜
確かに、この危機に対してアルブラを如何にして守りきるかが最重要なことに変わりはありません。ですが、女王陛下は日頃より『アルブラが王国の都市として恥ずかしくない統治をするように』と私達におっしゃられております〜
それは、あらゆる危険からアルブラを守ることだけでなく、王国の領地に住まう人々の安全を守ることもまた、期待されていることでしょう〜」
『あぁ、答えは決まっていたのね』
魔物暴走が到着するまでの限られた時間。その重要な時間を使ってでもアルブラの統治に関係する人達の考えを吐き出させる。
あくまで今までの対策会議は毒抜きというか、各々の心中にある見えざる意見を明確にし、対処する向きだけでも整えようって感じなのだろう。
『それぞれが個人の考えを燻らせたままで防衛にあたるよりかはマシってことだけど、ちょっとでも間違えたらバラバラになるわよ』
まぁ、ティグさん自体にカリスマがあるようだし、最後に女王の名を出すことで場の考えを力ずくでまとめきる自信があったのでしょうけどね。
「アルブラの東西にある橋は上げますが、魔物暴走達が侵攻してくる北の橋は上げずに、出来うる限りの防衛戦力を集めて対応しましょう〜
また周辺の街や村、そして王都への伝令は南の門から出してください〜、あとアルブラから退避したいという人達も南の門から出してあげてください〜
魔物暴走への対策については……」
ティグさんは広げられた地図に魔物暴走への対策と、それに伴う防御陣の敷き方や部隊配置について説明を始め、一部の人達はティグさんからの命令で足早にその場をあとにしていく。
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「失礼ですが、それで守りきれますか?」
「貴女は〜?」
ティグさんの話が終わり、集まっていた人達が各々の任務や防衛策への対応などで忙しく動き出したことで室内がまばらになったタイミングで彼女に話しかける。
「異邦人ですが、出来ることがあるから協力したいとは考えています。ただ、状況によってはここからの退避も考えているのが本心です」
王国に所属する冒険者ではあるものの、街と運命をともにする忠義なんて持ってはいない。
『異邦人だから死んでも復活できるとはいえ、経験値や装備を無駄にロストするような危険なことに望んで首を突っ込むのはね……』
もしリアがいたら、きっと彼女は護りたいものがあるアルブラを離れることを選ばないでしょうから、私やニーナも彼女の為に戦っていたとは思うけど。
「そうですねぇ〜貴女ぐらい力を持つ異邦人が作戦に協力していただけるのであれば、アルブラの受ける被害を少なく出来るでしょうね〜……“砦壊し”のルナ・ストーンゲートさん?」
「それはまた懐かしい二つ名をご存知で」
「こういった地位にいると、色々と聞こえてくるものですから〜」
「なるほど……」
ああ、この人はやりづらい人だ!
いつも読んでいただきありがとうございます。
完全に一週間カレンダーを見間違しておりました……orz
誤字脱字を大量に出していると思われます、何卒ご容赦を(´;ω;`)
次回は10/4(月)と二週間後にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
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