276話 王者達の協奏曲 60 アルブラにて
【数日前 アルブラ】
「やっと着いたと思ったのに~」
「仕方ないじゃない、事前に連絡もしていなかったでしょ?
誰かが「サプライズにするんだっ!」って言わなかったらねぇ……ニーナ?」
「うっ、それはそうだけど……」
私、秋月 要と有賀 那緒子は親友である如月 阿里沙に会い、私達が運営しているクランに迎え入れる為に、王国の北に位置する“城塞都市ベルツ”から“水上都市アルブラ”に来ていた。
「まぁ、リアがアルブラから別の場所に移動するとは思っていなかったからね……しょうがないわよ」
リアの中で色々と考えた上での初期村からアルブラへの移動。それだけにアルブラから更に移動しているとは想像していなかった。
「ははは、あんなことがあったら仕方ないと思うぞ」
そう言って苦笑しながら私達と話すのは、アルブラ領主の娘であり、騎士団の団長として都市防衛の任に当たるファナという女騎士。
どうやらリアとも関係があったようで、以前に私達の話を彼女にしていたらしく、冒険者ギルドでリアの話を聞いていた際に向こうから話しかけてくれた。
ちなみに今私達三人がいるのは、冒険者ギルド内に併設されている防音処理が施された特別な商談室。私達の安全性ということも少なからずあるけど、それよりもリアのことも含めて変な噂が流れないようにするためというのが一番の目的。
『ヘタに名が売れるっていうのも考えものね』
自らのことで申し訳ないというか恥ずかしいというか、王国内で有名となってしまったプレイヤーとアルブラ内で高位に連なる冒険者とが酒場のようなオープンな場所で話していると、煙がなくとも煙たがるような面倒な輩に話が伝わり厄介事になる可能性があり、そういうことから避けるためにVIPルームで話していた。
しかも、今一番話題となっているリアのこととなれば、気を使いすぎて間違いはない。
『……』
『黙っていても、ニーナだって私と同じ注目度の高い異邦人だからね?』
『えぇぇぇ』
元々偶然とはいえ、低レベルでのハイランク武器をゲットしてから異邦人として色々とレコード記録を出しているのはどこの誰かしらねぇ?
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「ま、何にせよ大変な状態だよ。情報屋も含めてリアのことを調べている冒険者や異邦人はとにかく多い」
「そんなにですか」
「ああ、既に初期村から似顔絵がアルブラや王都に出回っているからな。領主の館をはじめ、神殿や武器屋などで目撃証言が出ていることもあってか情報を嗅ぎ回っている輩は私のところにもやって来ているぐらいだ。
とりあえず危険な人物と判断したら問答無用でアルブラから追い出してはいるが、もうそろそろ追い出し冒険者や異邦人の数も三桁に届きそうな状態だからな、正直なところこの騒ぎには軽く目眩が起こっているよ」
「……お疲れさまです」
誰にとっても神代の映証によるあの放送は頭痛の種であることに間違いはないようで。
「でもさ、アレはインパクトあり過ぎでしょ? 何であんなことになったのかは知らないけどさ。とりあえずリアとしてもこんな状況になるのは想定外だと思うけど」
「そうねぇ、さすがにあんな感じで晒されたら居づらいし、何より危ない皇子に……あ、今は臨時国家の元首でしたか。
とにかく、神代の映証を使って異邦人に求婚する臨時国家の元首がチョッカイかけてる可能性がある以上、リアの性格としてアルブラを離れることを考えるべきだったわね」
そう話しながら私も軽くため息をつく。
「ただ偶然とはいえ、こうやって君達と会えて縁が結べたことが、唯一良かったと思えることかな。母も話題も王国でもトップランカーと呼ばれる魔法使いには会ってみたかったのでな」
「痛み入ります」
そう応えながら私は軽く会釈する。
『たぶんリアのことを調べている人物にチェック入れていたのでしょうね、アレのせいで色々と騒がしくなったみたいだし』
結局、彼女と出会うのも偶然ではなく必然的なものだったということなんでしょうけど。
『それにしても臨国の元首による神代の映証による発信は想像以上に凄まじい影響があったようね。
……良い意味よりも悪い意味でのことになったのだろうけど』
リアの名前が晒されたとはいえ、今までは顔や容姿と一致していないから大事になっていないものの、こうやってアルブラを始め王国内の都市に似顔絵が広まったからには、国内外問わずに面倒なことが起こってもおかしくはない。
であるならば、
『せめて王国内の有力者や、その近親者とは友好関係を築いておくべきね』
「リアが居ないのは残念でしたが、ファナと知り合いになれたことはこれからのことを考えたら十分にプラスと考えられますよ」
「なに、私としても同じだよ。貴女とこうやって接点が得られ、信用が築けたのは有り難い話だ。今すぐ何かがなくとも、何かがあった際に友好的な関係でいられる異邦人や冒険者は何ものにも変えられんからな」
「私達もそうですよ、信頼出来る人が増えるのはこの世界を過ごす際に必須なことと考えてますから」
リアという緩衝材というか、接着剤というか……なかなかに得難い仲間を引き合せる天性の力は侮りがたし?
「しかし、行き先が共和国って……リアとしては随分思い切った逃避行かも。めっちゃ遠いし」
「共和国に強い力を持つ商家と仲良くなれたおかげとはいえ、確かに頑張り過ぎね」
一人での移動ではないとはいえ、リアにしてはかなり珍しい判断な気がするのは間違いないかな。
「そうだな、偶々そういった縁ができたとはいえ、王国から共和国への移動はかなり悩んでいたな。
この地のこともあるし、何より師弟であり母娘のような絆を持つマチュアといることよりも、ここを離れてでも自分とまわりへのリスクを減らす方を取るのは……」
「リアらしい決断ですよ、まったく」
「……そうね」
自分よりもまわりに優しくありたいと、ついつい気を回し過ぎてしまうリアらしい考えか。
ゾワッ……
「!」
そんな感じでお茶を飲みながら、本人がいないのを逆手に色々と話していた時、痛みと誤認するようなレベルのアラートが私の中に流れる。
「ねぇ、今のって……」
「ニーナも感じたの!?」
「うん、なんかゾワゾワって気持ち悪い感じが背中に」
高レベル者特有の危機察知能力。カンストした私と違い、ニーナはまだそこまで行ってない筈なのに感じたっていうことは……
「落ち着かないようだが、どうした?」
「何かはわかりませんが、かなりヤバい事が」
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「アラート、しかも【四報】だと!?」
ファナはアラートの内容に驚きながらも、素早く席を立って扉に向かう。
「【四報】のアラート音……最大レベルの都市危機警報って」
「まさか臨時国家がリアを奪いに攻めて来た!?」
「イヤイヤ、さすがにそれは……」
無いとは思いたい!
「ファナ、私達も同行して」
「ああ、頼む!」
【一報】は都市内への注意喚起。
【ニ報】は都市内にいる冒険者や異邦人にも危機が及ぶ何かがあると判断された場合。
【三報】は他国による侵略や、都市に住む全ての人間に災害レベルのかなり危険なことが起こると判断された場合。
【四報】は……都市が壊滅すると予想されるレベルの危険な何かが確実に起こると判断された最悪な警報であり、王都の司令を待つことなく領主が独自の特権により、迫りくる危機に対策すると判断した場合。
『帝国領と隣接する城塞都市ですら、【二報】を数回聞いたぐらいなのに、【四報】が鳴るっていったい何事!?』
ニーナが言った“臨時国家の侵攻”なら間違いなく【三報】以上が鳴るのだろうけど、このイヤな感覚はそういった類のものではなく、どちらかというとダンジョンとかで感じるギチギチとしたものに近しいような……
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「ティグ様、【四報】を鳴らすとはいったい何が!」
領主の館、その扉を開いた先には既に多くの人達が。そして彼らはフロアの中央にある階段の踊り場に立つ一人の女性の発言を待っていた。
「十数分前、商家に仕える冒険者数名がアルブラに着きました。正確には“危機を伝えに戻ってきてくれた”というのが正しいのでしょうけど~」
『商家に仕える冒険者?』
野盗や野良湧きした魔物に対応する為に商家が冒険者を雇うことはよくある話。
でも、“商家に仕える冒険者を持つ”となれば話は変わり、高い地位や強大な財力を持つ有力な……それこそ国の運営や、その根幹に近しい位置にいるような強力な商家と判断出来る。
『そんな強力な商家に仕える冒険者がアルブラに?』
しかも“戻ってきてくれた”って……嫌な予感しかしないじゃないの!
いつも読んでいただきありがとうございます。
なんとか予定通り? 8月にもうひとつアップできました。
さて、話の中心地がいったん移動します。
こういう話の切り替えって難しいですね……日々精進ですが。
それでは、次回はいつも通り二週間後の9/13(月)と二させていただきますのでよろしくお願いいたします。
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