275話 王者達の協奏曲 59
一週間ではアップできず……残念(一週間+一日)
ヴゥン
「!」
ノーモーションから放ったラルさんの突き。当たる間合いではなかったものの、拳から放たれた圧が風を纏ってわたしを撃ち抜く。
「ゴチャゴチャ言ってんなよ。せっかく熱くなれた戦いが煩く言われて汚れるのはオレとしては楽しくねぇんだが? まぁ、今のを受けて竦むようなら評価を下げるつもりだったが、逆にリアの中でヤル気になってるようだから許してやるよ」
「あ、ははは……」
そう楽しそうにこちらを見るラルさんの話に否定できないわたしが、わたし自身に驚いているというか、変な状況に少しだけ戸惑ってしまう。
「ボクもラルさんと同じで、リアさんを自分と同レベルの冒険者だと認識していますよ。そもそもレベル三十未満っていうのが偽装じゃないかと疑っているぐらいですが?」
「クロウさんまで……」
良い評価は素直に嬉しいけど、本当にわたしはこの人達と一緒に行っても良いのだろうか……
「勝った相手が卑屈になるのは敗者への冒涜になりかねません。勝った以上、経過は置いて結果を背負って立って下さい」
いつの間にか横に立っていたベニさんが、わたしの肩を優しく叩きながら話しかけてきた。
【これ以上グダっていても先に進まないし、何も良いことなんて無いわよ】
『そう、ね……』
経過と結果。そこからわたしを皆が評価してくれるのであれば、わたしもわたし自身をキチンと評価し、結果をしっかりと理解して先へと進む必要がある。
ぺこり
「色々とすみません、でした。色々と足を引っ張ることがあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
推進レベル五十の地下迷宮、どこまで出来るかわからないけど、わたしの力を信じて一緒に進んでくれる人達がいる。そのことだけでも頑張れるような気がする。
……不安もいっぱいだけど。
「ま、嬢ちゃんも行く気になったようだから実際にどんな状態で、そしてどうやって目的地に行くかの話を進めようか」
「お願いします」
そういえばどんなルートで地下迷宮に入るのかって聞いていなかったっけ。
「まず、地下迷宮に潜り、地下迷宮核がある場所に行くのは都市側のメンバーとして儂とリシュ。そして冒険者から死撒剛腕てクロウとリアの五人だ」
「地下迷宮は最大十名までのパーティで潜れるだろ? 五十階を目指すならもう少し多いほうが良いんじゃねーか?」
リスドさんの話を聞いてラルさんがすかさず突っ込む。
「地下迷宮へ普通に潜るならそれでも構わん。だが、今回は儂らが管理している特殊なゲートから行くものでな」
「特殊なゲート?」
「通常の入り口とは異なり、スタートが一階じゃなく地下四十階から始められるという簡易型ゲートだ。
ちなみにそのゲートをくぐった先の地下迷宮は管理者権限が無いと入ることが出来ないエリア担っているから、他のパーティに遠慮することなく戦うことが出来るようになっている」
「おお〜」
一階から始めていたら五十階なんていつ着くのかな〜って思っていたから、その点については素直に嬉しいというか、助かるのが本音。
そしてパーティ外の人達に迷惑をかけることが無いというのも気持ち的に楽になる。
「とはいえ、その分制約も色々とあってな。
その一つがパーティメンバーの人数制限になっている。パーティは最大五人まで、六人以上だとゲートをくぐる事すら出来ん仕様だ」
「なるほど」
「……」
わたしとしては、スタート地点からショートカットして始められる有り難い話だし、地下迷宮に入っている他のパーティにも迷惑をかけないから嬉しいな〜と感じていたけれど、横にいるラルさんはやや厳しそうな表情でリスドさんを見ている。
「どうしたんですか?」
「いやな、言っちゃあ何だが……どうにも話の内容がが出来すぎているし、気味が悪いっていうのがなぁ」
「話が出来すぎで気味が悪い?」
リスドさんの話を聞いて、素で『色々と簡単になりそうで助かる〜』としか考えていなかったから、ラルさんにそう言われてもピンとこない。
「簡易ゲートに地下四十階まで直通……ぶっちゃけそんなにうまくて手軽な話に、外部の冒険者であるクロウやオレが乗れるっていうのが気味が悪いって話よ。
そもそも、最終目的が地下迷宮の最奥にある地下迷宮核のある場所だろ」
「そうみたいですね」
「いいか、地下迷宮核は地下迷宮にとっての心臓部であり、最重要ポイントだ。それは地下迷宮が都市の中心に位置する地下迷宮都市にとっても同じことだ。
もし、地下迷宮都市の地下迷宮核に何かあれば……最悪なことを考えたら怖くてブルっちまうぜ」
「……」
「それにそんな簡単に地下四十階まで行ける手段をこの面子だけとはいえ、制約もなく教えるっつーのもな……
正直、オレが逆の立場にいたなら、そんな便利でヤバい話なんて他人に教えたくねぇし、関わらせたくねぇって思うんだが。
まぁ、リアはトラブルを解消するっていう事情があるからまだわからんでも無いが、地下迷宮に潜って稼いでいるクロウや、臨国といわく付きの関係になるオレが知って良い話には思えねぇがなぁ?」
「それは……」
ラルさんにそこまで言われ、わたしの中でも違和感のようなモヤモヤとしたものが広がる。
「儂が何も考えずに依頼を出すと思うか?」
「大丈夫なんですか」
わたしにそう聞かれリスドさんは『フン!』と鼻を鳴らすと説明し始める。
「まず、地下四十階までショートカット出来る簡易ゲートについては特定の人間にしか使えん特殊なモノだ。まぁ、儂を含めたこの都市の上層部だけよ。
しかもそのゲートは使い切りのインスタントゲートになっとるから、一度使えば二度と使えん。使い終わった以上はただのゴミでしかない」
「なるほど」
そういう機能というか、制約が付いているなら大丈夫かな?
「あと、簡易ゲートそれに地下迷宮に入ったあとで何か面倒なことを起こしたら、儂らは遠慮なく地下迷宮へ置いて帰るし帰ることが出来る。そうなったら残った面子だけで地上を目指すことになるが……出来るのなら試してみるとよいわ」
「管理者権限での強制処置ってヤツですね」
クロウさんの問いかけにリスドさんが頷く。
「管理者権限って?」
「さっきリスドさんが話していた通りさ。
そうだねぇ……博物館や美術館の館長を想像すれば良かな? 入館や退館における自由なアクセス、またはそれに伴い入館者への個別の制限が独自でかけられる、そういうものを地下迷宮で同様に出来るってこと」
「そういうった機能が地下迷宮にもあるんですね」
そんなのあったら自由に地下迷宮を攻略出来て良いな~
「野良の地下迷宮だったら無いものが殆どだけど、ビ・ディンのような地下迷宮が都市と一体化しているようなところだと、そういった機能があるとは聞いているかな。
もちろん、そう簡単に管理者権限の付与や簒奪なんて出来ないし、そういうものを持つ人なんて地下迷宮に与する人でも一握りどころか二、三名って感じなはず。目の前にいるリスドさんはビ・ディンの領主の直属だし、最上位者の一人だから持っていてもおかしくないだろうね。
ま、イベントというか機構を管理する人って感じで覚えておけばいいかな、ボクやキミのような異邦人には関係のない話だよ」
「確かにそんな権限なんて一プレイヤーで持ったら大変なことになりますね」
「良くて炎上、悪くて垢停止ってところかな? 他の異邦人からの妬みによるサーバ負荷増は運営としても求めていないからねぇ」
「あはは……」
『まぁ、わたしはそんな権限持っていないから良いけど、ただ』
わたしが手にしている勾玉。わたし自身がこれで権限を持つようなことは無かったけど、過去に特殊な鍵がかかったダンジョンに入ったり、ここに飛ばされたりしたことがあるからなぁ……とりあえず恣意的な悪用というか、誤用して変な話が広がらないように気をつけないと。
「とにかく話は決まったからこれからについてを簡単に話すぞ。
簡易ゲートを用いた地下迷宮への突入は三日後、異邦人の二人が朝から地下迷宮に潜れるタイミングからにするから、お前ら二人は自動生活の時間調節しておけ。一応、地下迷宮の探索中に自動生活になってもパーティー内には入れておくが、何が起こっても自己責任として片付けるからそのつもりでいろ。
ちなみに滞在時間については半日から最大でも一日のだ。もし、一日を過ぎた場合には全員揃って地下迷宮から強制的に退出させる。
……文句は無いよな?」
「「はい」」
わたしとクロウさんは半ば強制めいたリスドさんの問いかけに慌てて返事をする。
『基本的にゲームの中では朝からログインして夜までログアウトしない生活を送っているから(現実世界で十八時から二十四時にログインしっぱなし)大丈夫』
【万が一、自動生活になったとしても上手く立ち回るから安心しなさいな】
『うん、もしもの時はよろしく!』
もちろん、そうならないように頑張るけど……地下四十階の地下迷宮だもの、何が起きても大丈夫なように準備しておかないとね!
いつも読んでいただきありがとうございます。
なんとか二週連続アップを目指しましたがズレました。思った以上に仕事ががが……
さて、次回はいつも通り二週間後の8/30(月)と二させていただきますのでよろしくお願いいたします。
話が今の場所から、別の場所へ動きます。よろしくお願いいたします。
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