274話 王者達の協奏曲 58
「目的地は地下五十階、冒険者の推進レベルも五十のフロアだ。ま、死なないように気合い入れてついてこいよ」
「……は?」
リスドさん、今なんとおっしゃいました?
「……あの、聞き間違えじゃなければ『地下五十階に行く』って言いませんでした?」
「ああ、言ったな」
「しかも『冒険者の推進レベルが五十だ』とも」
「ああ、言ったぞ」
……えーっと、
「リスドさんったら、わたしのレベルを間違って覚えてますね? わたしはまだ」
「レベル三十にも満たないってことなら知ってるが」
……うん?
「あの……“レベル三十以下”で“推進レベル五十”なんていう“トンデモナイ地下迷宮”の五十階に行けと?」
「ああ、そう言ったつもりだったが伝わらなかったか。言葉は難しいな」
そう聞き返すリスドさんは『何かおかしいか?』とでも言いたげな表情をしてわたしを見る。
「いやいやいや、だっておかしいですよね!?
レベル五十の冒険者が行くようなダンジョンに、適正レベルに達していないわたしが行くとか、どう考えても自殺行為じゃないですか!」
少しぐらい無理することで行ける範囲に行って頑張れと言われれば頑張りもするけど、無理無謀を通り越した自殺行為に近い地下迷宮突破に挑戦となれば話は別。
「適正レベルか」
「ええ、適正レベルです」
ああ、リスドさんもわかってくれたかな?
「そもそも“適正レベル”とは何だ?」
「“適正レベル”って……そこに行く資格があるってことじゃないですか。レベル未達の冒険者が行ってもダメですよね」
ほら、参加資格もないのに行ったらまわりに迷惑かかるし?
「では“資格”とは?」
「“資格”は……“行くべきカギ”というか、行くに足りるモノがあるってことじゃないですか、選別的なものみたいな? あとは行くべき使命とか。
上手く言えないけど、行ける人行けない人とはそこに敷居というか壁のようなものがあるというか……」
「ははははっ」
「えっ? えっ?」
いきなり笑われたら怖いんですが!?
「今の話なら、やはり嬢ちゃん自身が地下迷宮に潜らなければならないって話になったものでな、つい可笑しかったまでよ」
「え?」
わたしが潜らなければならないって説明した??
「嬢ちゃんは自分が【所在固定】によって異常な状態にあるってことは覚えているか?」
「ええ、さすがに」
わたしが持つ勾玉、それが何らかの影響によって意図しない効果を発揮していると。
「勾玉が正常な状態でないことから嬢ちゃんはビ・ディンから出られない。それは説明したな」
「はい」
「ならば、その勾玉を本来の状態に戻すための力が地下五十階にあるのなら、嬢ちゃんには行く資格があるって話になるよなぁ?」
「それは……確かにそうなりますが」
勾玉が正常な状態に戻れば、暴走という形でわたしにかかっている【所在固定】が解除され、ビ・ディンから移動出来るようになるはず。
「今、嬢ちゃんが持っている勾玉はその中に有するべきエネルギーが欠乏し、異常な状態になっている。故にこれを正常な状態に戻すためには勾玉にエネルギーを注がなければならない。そのために行かなければならないのさ、地下五十階にな」
「……あの、地下五十階に何があるのですか?」
今の話を聞いた限りでは、それなりに強力ななにかがそこにあり、そこから勾玉へエネルギーを供給すれば色々なことがクリアになるって話だけど。
『勾玉自体が特殊なわけだし、エネルギーの供給元もそれに比例して特殊なアイテムってことになるわよね』
【ま、だいたいの察しはついているけど?】
えぇ、今の話だけで察しがつくって……“もう一人のわたし”は勘が鋭いっていうか、よく色々なことを思いつくっていうか。
……わたしの自動生活キャラと思えないほど高機能なことで。
「ビ・ディンの地下迷宮は強大で特殊な地下迷宮だ。その特殊な地下迷宮を形成する心臓部が地下五十階に存在している」
「地下迷宮の心臓部?」
「あぁ、地下五十階にある地下迷宮核、それこそがこのビ・ディンの地下迷宮を管理する特殊な宝玉であり、公国が保持してきた神器の一つ」
「!」
地下迷宮核が神器ってことは、アルブラで見た神代の映証と同じ超稀少なアイテムってこと!?
「勾玉は特異な力を持っている。それは神器とまでは行かないものの、扱いが難しいアイテムであることに変わりはない。それはわかるな?」
「はい」
勾玉が持つ力によって色々と助けられた身としては、それについて理解している。
「そんな特異なアイテムだ。アイテムの中に蓄えられていた力、まぁ“エネルギー”が欠けた状態になり、異常な状態になっているのであれば、それより上位のアイテムから勾玉へ欠けたエネルギーを注ぎ込むことで、“正常に戻るだろう”というのが儂が資料から調べた結論だ」
そう言ってリスドさんは手にした本を指先でコンコンと叩く。
「嬢ちゃんが持つ勾玉に力を注ぎ込める神器級のアイテム、そんなものは容易く存在しないし、存在していても容易に手が出せるものではない」
「はい」
特別なアイテムである以上、一介の冒険者が神器級のアイテムに触れられる機会なんてそうそう無い。
「まぁ、例えどこかでエネルギーを容易に注ぐことが出来る神器があったとしても、ビ・ディンから出られない状態が解除出来ないとな」
「そうですね……」
勾玉にエネルギー注ぎ正常な状態にすることでしか【所在固定】が解除出来ない。
【ビ・ディンから出られないと何ともならないわよねぇ】
『それはそうなんだけど』
行動の選択肢があるようで無いのは確か。ただ、一番問題となりそうな点がクリアになっていない。
「大体の話はわかりました。“資格”ということから行くべきだという点について納得したのですが、やはり“推進レベル”については気になります。
どう考えてもわたしはレベルが足りていません。足手まといになるのは……」
回復能力についてはレベル以上に対応出来る自信はあるから、携帯ポーション代わりとして行くという事になるのは仕方がないと思いつつも、気持ちが上手く整理出来ない。
「レベルなぁ……嬢ちゃんはそれに拘って自分を卑下しているみたいだが、そこまでか?
儂はともかく、そこの二人はどうやらそんなふうには思っていないように見えるがな」
リスドさんの視線の先で、ラルさんとクロウさんが頷いてからわたしを見る。
「謙遜するリアには悪ぃがオレに勝ったオマエなら、オレと十分タメを張れる奴と思っているぞ」
「でもあの戦いでラルさんは武器を使っていなかったし、結果だけならわたしが倒れて」
「おいおい、あの時も言ったが素手だからってオレは手を抜いたつもりなんかねぇし、結果としても負けだって話しただろうが」
「ですが」
ヴゥン
「!」
ノーモーションから放ったラルさんの突き。当たる間合いではなかったものの、拳から放たれた圧が風を纏ってわたしを撃ち抜く。
「ゴチャゴチャ言ってんなよ。せっかく熱くなれた戦いが煩く言われて汚れるのはオレとしては楽しくねぇんだ」
「……」
軽く凄まれたというか、圧を受けただけなのに体中からイヤな汗が流れるような感じに思わず息を飲む。ただ、それと同時に体の奥底からフツフツと何かが……これって
「はっ、今のを受けて竦むようなら評価を下げるつもりだったが、逆にヤル気になってやがるじゃねーか」
「あ、ははは……」
そう楽しそうにこちらを見るラルさんの話に否定できないわたしが、わたし自身に驚いているというか、少しだけ戸惑って……嬉しがってる!?
いつも読んでいただきありがとうございます。
オリンピックも終わったので、次回に向けて少しでも時間を作り、更新を早めてみようかと……できればですが。
次回は8/23(月)と二週間後にさせていただきますが、上手く行けば来週……。
うん、頑張ろう。
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よろしくお願いします。




