271話 王者達の協奏曲 55 vsクロウ 7
「疾っ!」
《修羅の息吹》を付与した状態で、クロウさんに向かって全力で駆ける。そして、
スッ
『ほんの少しだけで良いからリュウのように』
駆け出す前、構えから移行した一連の動作でさりげなく取り出した紐……【蛇縄】を取り出すと親指に巻きつける。
『指に巻いた蛇縄に気を送る。イメージするのは一本の細い針……』
アルブラを出る前にマチュアさんから習った使い方、そして使い方を思い出しながら紐に気を送ると、授業の一環として練習した内容を思い出す。
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「マチュアさん、蛇縄をご存じですか」
座学の一つとして気のコントロールを習っていた際、ふと自分のカバンにしまって置いたアイテムを思い出し、机の上にそっと置く。
「ええ、知っているわ。そのアイテムの使い方を、そしてアイツがあの人にそれを使って戦っていたこともね。
でも、リアが蛇縄を持っているのは意外だったわ。いつから持っていたのかしら」
「実は……」
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「なるほどね、こうやって改めてあの時のことを思い出してみると結構前のことに思えるわね……それにしても手に串刺しして蛇縄を奪うなんて、良い根性と覚悟をしたものね」
「あはは……」
覚悟っていうか、成り行きでそんな対応になったんですけどね。もう一度はさすがにイヤかなぁ。
「で、どうして今頃蛇縄を?」
「少しでも攻撃の手札を増やしたいといいますか、足りないものを補いたいといいますか」
「足りないものねぇ……闇雲に手札を増やしても、却ってマイナスになることの方が多いわよ」
「う……」
経験者として語るマチュアさんの言うことに対し、返すことも出来ず言葉に詰まる。
「ま、何か確固たる意思があるなら話は別だけど」
「うーん……そこまで強い思いでは無いんです。ただ
」
「ただ?」
「ラルさんとの戦いの時に痛感したんです、わたしには足りないものが多過ぎるって」
ラルさんとの戦闘、遡ってリュウさんとの戦闘。どちらにしても結果的には勝ったか、それに近い結果が残せたとはいえ自分にとって満足できるものではなかった。
「ラルさんとの戦闘でもリュウさんとの戦闘でも、最終的には自分の力というより、たまたま得られたオーバースペックともいえる高速移動によって勝てただけだと思っています」
どちらにしても、相手が視認出来ないレベルでの高速移動からのコンビネーションを使った攻めであり、相手としてもこちらのスキルを知らなかったからこそ、有効な手段として使えたまで。
「確かに相手がリアよりも高速で動けたり、移動を視認出来るスキルを持っていたら、勝つことは凄く難しくなるというのは間違いないわね。
でも、それと蛇縄を使うことにはイコールにはならなくない?」
「高速移動が使えるからこそ、そこに頼ってしまうのは仕方がない部分は正直否めません。ですが、高速移動が使えることで他の選択肢を持たないことにはなったらダメだなって。
蛇縄については今の自分にどれだけ有益なものになるかわかりませんが、今までのわたしには無かった、違う切り口から自分自身を俯瞰して見られる力になるかなって考えたんです」
わたし自身、自らの今までを肯定も否定もしないけど、持ち得なかったスキルによって違う目線からわたしを見ることが出来るかもしれない……それが良いことか悪いことかはわからないけど。
「ま、リアがそこまで色々と考えてみたっていうなら私も否定しないし、蛇縄の使い方を教えるのもやぶさかでないわ」
ピンッ
蛇縄を掴んで一振りすると、さっきまでフニャとしていた形状が針金よりも更に硬質な、それこそレイピアのような一本の剣みたく変わる。
「これが初歩レベル。そして」
ピシッ
「!」
「これが中級レベルね」
『石柱に刺さってる!?』
マチュアさんは摘んでいた蛇縄を手首だけで横に振るうと、壁の中でも最も硬質な部分であろう石柱に指していた。
「上級レベルになると硬化を維持したまま投げることも出来るわよ? まぁ、そこまでするなら蛇縄よりも気の伝達と維持に優れた鋼糸や妖血糸の方が良いわ。蛇縄だとこういう使い道も間違ってはいないけど、蛇縄の特性を活かしたものではないからねぇ」
「蛇縄の特性を活かした使い方?」
てっきり、こうやって武器として使うものだと思っていたけど。
「ま、それは時間があったら教えるわ。たぶんリアがアルブラから出るまでには蛇縄の硬化と維持までしか覚えられないでしょうし。
大変よねぇ、時間があまり無いところに更に学ばなければいけない課題を自分から増やすなんて……やっぱりリアってマゾっ気なのかしら?」
「違います、断じて違います」
と自分に言い聞かせるような感じで答える。
「ま、その辺りは追求しないようにしておくわ。じゃ、せっかくだから今から蛇縄の基礎だけでもやっておこうかしら」
「今からですか!?」
「あらあら、学びたいってリアから言い出したのに」
「や、やります!」
積極的に新しいことを教えようとする際のマチュアさんは色々と……
「何か失礼なこと考えているみたいねぇ。
なら、それに応えてビシビシっとやりましょ!」
「ヒィィィ……」
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・
『マチュアさん、あのスパルタで覚えたこと、ここで使わせてもらいます』
そう心の中で宣言すると、指に巻いたで蛇縄に気を送る。
ピン
『とりあえず第一段階は成功』
芯のない紐を、ある程度固くすることは出来てはいる。
『でもこのままだと“ただの硬い紐”。だから次のステップ』
紐を硬質化しての固定、あとはそこから硬度自体を強化する。その方法は
『気によって繋がった紐が自分の体と一体化したイメージ。そしてそれはあらゆるモノを貫く“鋼鉄の針”』
想像するのは石柱をも容易く貫いた、マチュアさんが放った蛇縄の攻撃!
ダンッ!
「行きます!」
間合いに入ったクロウさん目がけ、溜めきった力を乗せた手刀を。そしてその手刀の下に隠れている、硬質化した蛇縄を腹部に放つ!
ズッ
『入った』
手刀より先に蛇縄がクロウさんの腹部に入った感覚が指から腕へと伝わる。
とはいえ、カウンターで入ったであろう攻撃であってもダメージ自体はそれほど高くない。尤も、
『最初からダメージには期待していない。わたしが一番望んでいることは、ここから最も有効な行動を取ること』
冒険者としての歴史も技術も上回っていて、尚且先の二戦とは異なりこちらを仕留めにかかりに来ている本気モードのクロウさんに対し、有効となるダメージを与えられる間合いへ入るのは至難の業。
『これを失敗したら次は無い!』
トンッ
蛇縄の攻撃がカウンターヒットしたことで一瞬だけクロウさんの圧が緩んだ瞬間、わたしが取った行動は蛇縄からの連続攻撃ではなく、視界から逃れるようにクロウさんの背後へ回る。
勿論、ただ動いて移動しただけでなく、移動する際に蓄積していた内功を爆発させる為に、体内の導火線へ起動するスイッチを入れる。
『でも、これじゃ足りないかもしれない』
この先のことなんて考えられない以上、次に出す攻撃で必ず決めなければならない。その為にはこの攻撃をわたしの中で出せる最高の威力となるレベルまで昇華させないといけない……だったら、
《闘気錬成》
《桜流花斬》
ザシュ!
「痛っい!!」
攻撃を最高威へと繋げる【羅刹の息吹】が使えない以上、手持ちの闘技を使って威力を増やすしかない。そうなった場合、最も使えて威力を増やすことが出来るものと言えば【闘気錬成】を使った、被ダメを与ダメに乗せる闘技ぐらいしかない。
『さっき食らった攻撃と今のでダメージのかさ増しは十分にいけるはず!』
あとはこの距離で最高威力を持つ闘技を出すのみ。
ダン!
『痛い痛い痛い!』
受けた攻撃をダメージを我慢して無理やり技を出そうとすることで、痛みが無駄に全身へと伝播していく……って、マジで痛い! でも、その分ダメージ出せる!
《緋蒼流 貼山靠》
ドガッ!
自分の肩口から背面部をクロウさんにぶつける! ただの体当たりとは異なり、わたしの体内に溜めていた力が、しかも【闘気錬成】で増加させた高威力の勁が伝わると、クロウさんは後方へ弾き飛ばされながら量子化していく。
【Battle End】
「ハァッ、ハァッ……勝った、のよね」
ふらつきかけた体を両足が支えきれず、その場にしゃがみ込む。とりあえず勝ったってことで……
グラッ
「あれ?」
頭上に流れる戦闘終了の合図を聞いた瞬間。そのまま意識が遠くなって……
いつも読んでいただきありがとうございます。
やーっとここの話が閉めれました。長かった……主に時間を作れない私が悪いですがorz
次回は7/12(月)と二週間後にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
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