270話 王者達の協奏曲 54 vsクロウ 6(主人公視点ではありません)
《修羅の息吹》
「やってみる価値はある!」
意を決してから【修羅の息吹】を唱えると、わたしは再度クロウさんに向かって走り出す。
『クロウさんがわたしの攻撃を捕らえようとするタイミングをずらす』
言葉にするのは簡単だけど、格闘のセンスがまだまだ未熟なわたしにとっては高レベルな行為だからそう簡単には出来ないし、出来たとしてもクロウさんまで届かない。でも、
『届かないのであれば、少しでも届くことが出来る手段を探して実行するだけ!』
言うは易く行うは難し。だけどやるしかない。
ダッ
【羅刹の息吹】の下位互換とも言える【修羅の息吹】ではスピード・パワーともに数ランクは落ちる。しかし、いまの自分に出来る能力向上系の闘技としてはこれしか無い。
『とはいえ、これだってやる価値はある』
次の攻撃ができるかどうかわからない以上、少しでも与ダメが大きくなる行為はしておかないと。
【出し惜しみ出来る立場じゃないものね】
『おっしゃる通り!』
ダダッ
右腕に全ての力を集中しながら攻撃する構えに移行する。
『狙うべきポイントはさっきと同じ』
本来なら色々と効果が落ちた【修羅の息吹】でやることではない。
『だからこそ意味がある』
【……ま、今のあなたでどれだけやれるのか楽しませてもらうわ】
そう言うと“もう一人のわたし”の気配が、わたしから離れていくのを感じる。
『ありがとう、じゃあ』
ダンッ!
「行きます!」
間合いに入ったクロウさん目がけ、溜めきった力を乗せた手刀をその腹部に放っていた。
―――◇―――◇―――
【クロウの視点】
『何を狙っているのかな』
【羅刹の息吹】と呼んでいたバフは連続でかけられないのか、【修羅の息吹】というバフを使っていた。【羅刹の息吹】は視覚で捕らえられないとかいう“訳のわからないバフ”だったけど、【修羅の息吹】の方は十分速い動きではあるものの視認出来る速さであり、単純な見解としては【羅刹の息吹】と比べ下位の能力強化だということになる。
それなのに
『効果の低いバフを使いながら、さっきと同じ攻撃をボクの腹部への突きを放つ?』
ダウングレードした状態で同じ攻撃を放つ……普通に考えたらあり得ない攻撃だし、そんなわかりきったことを反射技持ちに出すということは、
『何かを狙ってということだよね』
さっきは聴勁で感じていた動きに対して反射技を当てようとしたところ、彼女のバフが強制的に切れてしまい、読んでいた行動とズレが発生したことで、ボクが反射技を出したあとに生じてしまった隙に彼女の突きがクリティカルヒットしている。
『彼女自身が攻撃を当てたことに驚いていた。それは本人にとっても予想に反したものだったということ。だとすれば、あんな奇跡的な攻撃は意識的におこなうなんてことは出来ないはず』
だが彼女が今している行動は、さっきの攻撃を模したような内容であり、もう一度アレを再現させようとしている……そんな風に感じ取れる。とすると、
『意図的な感じで動きにディレイをかけ、さっきと同じようにズレを狙った攻撃をするのか、それとも』
出来ることには限界がある。その限界を超えるような攻撃は自殺行為にしかならないが……
『イヤ、そこまでしなければ勝てないなことがわかっているならやってくるかな』
だとしても、ボクがやることに変わりはない。
「キミが持っている全てを見せてもらうよ」
《風桜散花》
【風桜散花】
対格闘用の反射技。相手の攻撃が当たるポイントに桜花流防御術式を重ね、タイミングよく受けることで受けた衝撃を意のままに流すことができ、ダメージの無効化だけでなく任意の攻撃に受けた衝撃を繋げることが出来ることから、連続技として組み込むことで、繋げた攻撃の威力を通常の二倍から四倍まで上げることが出来る。
なお、武器攻撃については衝撃を流すことは出来るが、連続技へ繋げることは出来ない。
『見えている、そして感じている攻撃に変わりはない』
視認と聴勁から導き出せる彼女の攻撃はやはり腹部への手刀による突き。
「……面白い!」
こうなると何を考えているのか、何も考えているのかわからない状態なはずなのに、何かをやってきそうなその感覚には少しだけ興味が湧く。
3……
2……
1…
ズッ
「!?」
自分の中で彼女の攻撃が当たる間合いをカウントダウンし、残り一秒を切ったタイミングで反射技を発動させようとしたその矢先、手刀よりも先に何かが腹部に刺さる。
『ダメージ自体は大したことはない、しかし今ので反射技が完全に外された』
カウンター外しの攻撃だからクリティカルヒット扱いになり、それなりにダメージが増加されるのにも拘らず、HPの減りはそれほどでもない。故にこの攻撃自体はあくまで繋ぎであり、こちらの虚を突いたものということになる。だとしたら、
トンッ
「消えた!?」
彼女が次に取る行動に備えようとしたタイミング、そのほんの僅かな間に視界から彼女の姿が消える。しかし、
『死角にいるね』
見えないけど気配は絶たれていない。だから聴勁して見るまでもなく彼女が近くにいることはわかる! ならば、
《桜流花斬》
《闘気錬成》
ザシュ!
【桜流花斬】
自分を中心にまわりへ斬撃を放つ範囲攻撃。放った斬撃が花びらを散らしたようなエフェクトから付いた技名。攻撃力としてはそれほど高くないものの、範囲攻撃としては優秀であり、間合いをリセットしたい場合など使い勝手の高い闘技。
『こちらの行動に対して想定通りのヒット音。だけど……』
来るかもしれないと思っていた彼女からの攻撃はない。
「相打ち前に潰したから? ……いや、違う」
彼女が言い放った技名から効果を思い出し、思考が止まる。
『被ダメを与ダメに乗せる闘技か!』
だとしたら、
ダン!
『正気か』
斬撃の音がした後ろを振り返った瞬間、血の花が咲いたかと錯覚するようなその中に彼女はいた。しかもそれなりに受けたダメージを我慢し、無理やり技を出そうとして地面を強く踏みこんでいる。
『【桜流花斬】を放ったのは悪手だったな』
ボクが牽制&反撃として出した闘技の硬直はまだ解けていない。対して彼女は【桜流花斬】を食らったのにも拘わらず動けていることから、多分彼女が使った【闘気錬成】にはノックバック無効の効果があったのだろう。
「キミは相当にマゾなんだと思うけど……間違ってないよね」
「一応、否定はさせてもらいますよ。信じるかどうかはわかりませんが」
《緋蒼流 貼山靠》
ドガッ!
「カハッ……」
技名とともに放たれた彼女の闘技が胸元に深く突き刺さると、その衝撃が全身に電波していき、体の感覚が失われていく。
『痛いな……だけど痛みもまた糧に出来る』
今日の負けを次に活かす。必ず来る、その時のために。
いつも読んでいただきありがとうございます。
いつもよりも間をいただき、なんとか復旧できましたが、内容に一部不安点がががが。
やっぱりバックアップは必須ですね、バックアップを頭の中にしか置いてなかったのでダメだなと実感……はぁ。
また、今回も校正がほとんどできていないので、誤字脱字を大量に出していると思われます……ごめんなさい。
次回は6/28(月)と二週間後にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
……ストックを書く時間を作りたい。
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